和訳:ヴァルダイ会議でのプーチン演説 欧州の難民問題に対して示される唯一の解答は?
- 2015年 11月 4日
- 時代をみる
- 童子丸開
バルセロナの童子丸開です。
今回は、日本人にはなじみに薄いヴァルダイ会議で、ロシアのプーチン大統領が行った演説の和訳(仮訳)をご紹介します。
訳文の前に、いつものことながら恐縮ですが、関連事項についての私からの感想を書かせていただいております。
お読みになって「役に立った」とお思いなら、ご拡散のほど、よろしくお願いいたします。
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http://bcndoujimaru.web.fc2.com/fact-fiction2/Putin_in_Valdai_Meeting-1.html
和訳:ヴァルダイ会議でのプーチン演説
欧州の難民問題に対して示される唯一の解答は?
私は以前の記事『現在欧州の「難民危機」とは何か?』の「翻訳後記」で次のように書いた。
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昨年来、何十万人もの人々が難民となってヨーロッパに押し寄せている。世界中でこの哀れな人々を救えという声が上がる。「哀れ」と感じるのは当然なのだが、いまここで、ちょっと心を落ち着けて、次の各質問に対する答を、ご自分なりにお考えいただきたい。
(質問1)これらの人々はどうして難民となったのか?
(質問2)ギリシャ経由でヨーロッパに入ろうとしている人々はほとんどがトルコを通ってきたのだが、なぜ、トルコ政府はEUに対してこの難民の通過に関する公式な発表や声明を出さないのか?
(質問3)シリアとイラクで大量の破壊と殺りくを繰り広げるISIS(イスラム国)は砂漠の真ん中で支配地を広げるのだが、いったい彼らはどこから、どこを経由して、武器と食糧と物資と資金を手に入れているのか? 誰がそれをオーガナイズしているのか?
(質問4)ISISに関して、世界のマスコミや評論家や国際政治と軍事の専門家や左右の政治家の中から、その兵站の補給路を破壊するように主張する声が挙がらないのは、いったいどうしてなのか?
【後略】
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火事が起これば、とりあえず火を消すことはもちろん大切だが、「火元はどこか」「なぜ火事になったのか」の追及が必要不可欠になる。また同様の火災が多くの箇所で引き続いて発生したなら、まず「放火」を疑ってみるのが当然だろう。もし誰かが「火元」や「原因」について沈黙し、それを追及する声を無視する、事実を黙殺する、はぐらかす、捻じ曲げる、果ては圧殺する…、というのなら、その者たちはきっと放火犯の仲間に違いあるまい。火災を前にしてそのような者たちを見るならば、我々は自ずと「放火犯」のありかを知ることになる。
私の知る限りでは、世界中の国家政府と首脳で、上記の疑問に対して明確な「解答」を与えるのはロシアなどのごく少数に過ぎない。ロシアはRTやスプートニクなどの事実上の国営メディアで、中東・中央アジア情勢と欧州難民問題の関係について多くの指摘を行っている。彼らの「解答」が正しいのかどうか、私はそう思うが、ここではあえて断定はしないでおく。しかし少なくとも言えることは、日本を含む西側(アメリカ、EU、NATO加盟国およびその側につく国々)の政府と首脳、およびそのメディア機関の中で、上記の質問に「解答」を与えるところはただの一つとして無い、という事実である。ロシアとは異なる「解答」を持っているというのなら、ロシアのそれに文句をつけるより先に明快な自分たちの「解答」を示せばよいだけなのだが。
11月2日付のスペイン紙プブリコは「EUはロシアの“プロパガンダ”に対抗するためのプランを推し進める(La UE avanza su plan para contrarrestar la “propaganda” rusa)」という記事を出した。これはEUの外務・安全保障政策上級代表フェデリカ・モゲリーニが6月22日にEU議会に対して明らかにした「メディアの自由に対する援助」計画に関するものだ。これは日本ではほとんど紹介されていないと思うが“EU EAST STRATCOM Task Force”という実体のよく分からない機関によって打ちだされた計画で、なぜか欧州の主要メディアでも詳しく紹介されたことがない。スペインでもプブリコのような「反主流」のメディアが取り上げるのみだ。またEU本部の新聞であるポリティコの9月15日付の記事「EU splits in Russian media war 」に、その戦略が必ずしもうまく機能していない実体が記されている。
このプブリコ紙記事の著者アンヘル・フェレロは、EUのような機関が「ロシアの“プロパガンダ”に対抗する」ために「独立メディアへの財政支援」を行うというのならそれは「独立メディア」と言えるのか、というドイツのデール・シュピーゲル誌による疑問を紹介する。またアメリカやオランダの大使館とジョージ・ソロスが資金を提供して「ユーロ・マイダン革命」の鍵を握ったウクライナのTV局、NATOが技術面で資金を出すエストニアのTV局などの例を挙げて、「メディアの自由」を掲げるEU中枢のメディア支配に警鐘を鳴らす。こんな新聞があるだけスペインはまだ「救いようのある国」なのだろう。
それにしても、難民問題という「火炎」の発生源について、まがりなりにもその「解答」を公開するロシアとそのメディアに対して、一切の「解答」を示すことなく「ロシアの“プロパガンダ”に対抗」してメディアの買収に取り掛かるというのだから、「放火犯」の所在も自ずから明らかになろうというものである。『頭隠して尻隠さず』とはよく言ったものだ。またそんな西側メディアの論調に合わせて、頓珍漢ないかがわしい主張を繰り返す人々は、意識的・無意識的にかかわらず「放火犯」隠しに汗をかく自分の惨めな姿に、一刻も早く気付くべきだろう。
ここで、ロシア政府から公表された第12回ヴァルダイ会議でのロシア大統領ウラジミール・プーチンの演説を和訳(仮訳)してお目にかけることにしたい。原文として使用したのは以下の記事である。
Meeting of the Valdai International Discussion Club
Vladimir Putin took part in the final plenary session of the 12th annual meeting of the Valdai International Discussion Club.
October 22, 2015 20:45 Sochi
http://en.kremlin.ru/events/president/news/50548
「ヴァルダイ国際討論クラブ」は日本ではほとんど紹介されたことがない。これは2004年に始まった国際会議で、モスクワとサンクトペテルブルグの中間付近にある風光明美な都市ヴァルダイで毎年開催される。ここで討論される主要なテーマが、ロシアを中心とする中央ユーラシアの政治・経済・文化の状況に関連するものであることは言うまでもあるまい。このような情報の公開自体がEUの言う「ロシアの“プロパガンダ”」となっている。西側に住む我々としてはこの点には留意が必要である。
しかし、ここで述べられるプーチンの言葉を冷静に読んでみると、冷戦終了以降、アメリカの一極支配のもとで、政治・軍事・経済・情報・思想のあらゆる面での大きな矛盾と危険性が増大しつつある状況を、歴史的な認識を踏まえて実に的確に指摘していることがよく分かる。そしてそれが、現実にヨーロッパを襲いつつある重大な危機の根であり幹である点について、私は全く同意できる。またTPPや、ヨーロッパを襲うもう一つの災厄であるTTIP(環大西洋貿易投資連携協定:TPPの大西洋版) についても、非常に正しい指摘を行っている。少なくとも、下劣で傲慢で浅薄極まりない「キャプテン・アメリカ」の諸発言に比べれば、はるかに正確で洗練された納得のいく内容といえるだろう。
また前回私は『…。もちろん、とりあえず今この人々が命をつなぐことのできる措置は必要だ。しかし私は、これらの人々は、故国のシリアやアフガニスタンなどに平和が確立されて再建が始まるまでの期間に限定した「一時避難民」であるべきだと思う。…。』と書いた。そして現在のところ、この点を語り難民たちが故国に戻ることのできる環境を整えるという視点を持つ大国の指導者は、残念ながらプーチン大統領のみである。この点もまた、私が彼の発言を和訳してみたい動機になっている。
なお、上記の原文は非常に長いものだが、プーチンの演説の部分と、その後のパネラーとの質疑応答でプーチンが答えている部分とに、大きく分けることができる。今回は前半のプーチン演説のみを和訳した。後半についてはまた折を見て翻訳してみたい。
【参照】
難民たちが故国に戻れる日は来るのだろうか(当サイト)
プーチン:国連総会の演説で、難民危機の元凶「民主主義革命の輸出」を糾弾(当サイト)
勝ちが見えてきたロシアのシリア進出(田中ニュース)
プーチンが、シリアで打ち負かしているのはISISだけではない(マスコミに載らない海外記事)
TPP大筋合意の陰で、進まない米とEUの自由貿易交渉(日経ビジネス)
2015年11月3日 バルセロナにて 童子丸開
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ヴァルダイ国際討論クラブ
ウラジミール・プーチンがヴァルダイ国際討論クラブ第12回年次総会総括会議に参加
2015年10月22日 20時45分 ソチ
今年のヴァルダイ会議の主題は「戦争と平和の間にある社会:将来の世界における紛争の論理を乗り越えて」である。10月19日から22日までの期間、30カ国の専門家たちが、戦争と平和についての認識の様々な側面を、一般的な意識においてと、国際関係や宗教や各国間の経済的な相互関係においての両面から、認識を深めてきた。
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ロシア大統領ウラジミール・プーチン:ご同輩の方々、淑女ならびに紳士の皆さま。このヴァルダイ国際クラブ定例会議にご臨席の方々に、ご挨拶をさせていただきたいと思います。
この10年以上もの間、この会議は、最も差し迫った案件について討議するための、そしてロシアおよび全世界の発展への方向性と見通しを考えるための場であり続けてきました。もちろん参加者たちは変わりますが、総体としてみればこの討論の場はその本質を保持しております。言わば相互に理解し合う環境と申してよいものに変わってまいりました。
我々はここで開かれた討論を行います。これは、ここロシアにいる我々にとって非常に重要な視点や評価や予測を交換するための開かれた知性の場であります。このクラブの作業にご参加いただいておりますロシアと外国の政治家、専門家、著名人、そしてジャーナリストの方々に、御礼申し上げたいと存じます。
今年、討論は戦争と平和の問題に焦点を当てております。この話題は明らかに人類史全体を通しての関心事です。古代に遡ると昔の人々は、自然について、紛争の原因について、権力の公正なそして不公正な使用について、また戦争が、常に文明の発達を伴うものか、停戦のみによって中断されるものであるのか、あるいは論争や紛争を戦争抜きで解決するときが来るかどうかについて、議論をしました。
私はここで皆様方が偉大な作家レオ・トルストイを思い起こされたことと確信します。その偉大な小説「戦争と平和」の中で彼は、戦争が人間の理性と人間の本性に反していると述べておりますが、彼の意見では平和は人々にとって善でした。
確かに平和と、平和に満ちた生活は、常に人間の理想です。国家指導者たち、哲学者たち、そして法律家たちはしばしば国々の間の平和的な相互関係のモデルを採り上げてきました。様々な同盟や連合はその目標を、いつも彼らが言うような、強固で「持続的な」平和を確立させることだと宣言しました。しかしながら問題は、しばしば彼らが積もり積もった矛盾を解決するための方法として戦争に向かうことであり、その間に戦争それ自体はその後に世界で新たな階層的秩序を確立するための手段となりました。
一方で平和は、世界政治の状態としてですが、安定したものであったためしがなく、自ずと訪れては来ませんでした。ヨーロッパと世界のどちらの歴史の中でも、平和な時代は常に力のバランスの存在を確保し維持することが基盤に置かれました。そうなったのは17世紀のいわゆるウェストファリア平和条約のときですが、これは三十年戦争を終了させたものです。次に19世紀のウィーン会議のとき、そして再度70年前のヤルタ会談でですが、このときにはナチズムに対する勝利が国連の設立と国家間の関係の原則を決定させました。
核兵器の登場に伴って、世界的な紛争に勝者がいないことが明らかになりました。たった一つの結末がありうるでしょう。確実な相互の破壊です。より破壊的な兵器を創造する誘惑の中で人類はあらゆる大戦争を無益なものにしてきた、というわけです。
ところで、1950年代、1960年代、1970年代と1980年代になってすら、世界の指導者たちは、軍事力の使用を例外的な方法として取り扱いました。この意味では、彼らはあらゆる状況と可能性ある結果を量りながら責任を持って振る舞いました。
冷戦の終了は思想対立の終了を告げましたが、論争と地政学的な紛争の基盤は残りました。全ての国家は今まで常に、そして今後もまた、それぞれに異なった利害を持ち続けるもので、一方で歴史の歩みはいつでも、国々とその同盟の間での競争に付きまとわれています。私に言わせればこれは全く自然なことです。
重要な点は、この競争が、定められた政治的、法的、倫理的な義務とルールの枠内で進展する、ということです。さもなければ、利害の競争と紛争は重大な危機と劇的な爆発を招きかねません。
我々は過去にそれが起こったのを数多く見てきました。今日、不幸なことに、我々は再び同様の状態に出会っています。一方的な支配モデルを推進する試みが、私が多くの機会に申し上げてきたようにですが、国際法規と世界的な規約のシステムでの不均衡を導いており、それは脅威の存在を意味し、政治的、経済的、あるいは軍事的な競争が制御不能になるかもしれません。
たとえば、そのような制御できない競争が国際的な安全保障にどんな意味を持つのでしょうか。地域紛争の数は、特に「境界」地域でのものが増え続けていますが、そこでは主要な国々あるいはブロックの利害がぶつかります。これが同様に大量破壊兵器不拡散のシステムを弱体化させる可能性が高く(この点は私が非常に危険だと認識するものでもありますが)、それが今度は新たな兵器競争のスパイラルをもたらすのかもしれません。
我々はすでに、いわゆる武装解除型先制攻撃という概念の登場を見てきました。それは、核兵器にも等しいほどの効果を持つ高度に精密で長距離に達する非核兵器の使用を含みます。
イランからの核ミサイル攻撃の脅威を理由として使うことは、知っての通り、現代の国際的な安全保障の根本的な基盤である弾道弾迎撃ミサイル制限条約を破壊してきました。アメリカ合衆国はこの条約から一方的に脱退したのです。ところで、現在我々はイラン問題を解決しイランからの脅威は存在しませんが、申し上げていた通り、それはいままでにも存在したことが無かったのです。
アメリカの我が同職たちがミサイル迎撃防衛システムを作った理由と思えたものは消えてなくなりました。同時にアメリカのミサイル迎撃防衛システムを終了の方に進ませる作業を期待するのは、理にかなっていることでしょう。実際には何が起こっているでしょうか。全くそうではなく、むしろ実際には逆の方向で、全てが継続しています。
最近アメリカ合衆国はヨーロッパでの最初のミサイル迎撃防衛システムの演習を行いました。これは何を意味するのでしょうか。それは、アメリカの我が同職たちと議論した際に我々が正しかったことを意味します。彼らは単に我々と全世界を誤誘導していたにすぎません。率直に申しますならば、嘘をついていたのです。それはイランの脅威などという仮説についてではありません。そんなものは存在したことがありませんでした。それは戦略的なバランスを破壊し力のバランスを変えようとするための試みに関することでした。それは、彼らがあらゆるものに対して、支配するばかりではなく望み通りに命令できる機会を得るためでもありました。それは地政学的な競争相手に対してであると同時に、自身の同盟国に対するものでもあると私は信じます。これは非常に危険なシナリオです。全ての国々に対して、私見ではアメリカ合衆国自身に対しても、害を及ぼすものです。
核の抑止力はその価値を失いました。ある人々はおそらく、世界的な紛争で一方の側の勝利が再び可能になる、という幻想を持ちました。勝者にとって取り消し・受け入れ不能な結果を伴わない、そんな勝利がです。もしそんなものがあるのなら、ですが。
過去25年の間、力の行使のしきい値は目覚ましく下がってきています。二つの世界大戦の後で我々が獲得した戦争を防ぐ免疫力は、我々が心理学的な深層意識のレベルで持っていたものですが、すでに衰弱しています。戦争の認識自体がテレビの視聴者にとって変化してきました。それは、あたかも戦闘で誰も死なず、あたかも人々が苦しむことなく都市や国家の全体が破壊されないかのような、娯楽メディア映像になりつつあったし、いま実際にそうなっています。
不幸なことに、軍事用語の使用が日常生活の一部になりつつあります。こうして、貿易と制裁による戦争が今日の世界経済の現実となっています。それはメディアによって用いられる常套句になっています。一方で制裁はしばしば、圧力を加える不公正な競争の、あるいは競争を市場から完全に「追放する」ための道具としても使用されます。一つの例として私は、アメリカ合衆国によって、ヨーロッパのものを含む企業に対して科せられる露骨な罰金の大流行を採り上げることができるでしょう。浅薄な口実が使われており、アメリカの一方的な制裁に敢えて違反する者は誰でも激しく罰せられることになります。
ご承知のとおり、これはロシアとはかかわりのないことかもしれません。しかしここは討論クラブですのでご質問しましょう。これが同盟国を取り扱うやり方でしょうか? 違いますね。これは敢えて自分の望むことをしようとする家臣に対する取り扱い方です。彼らはその無作法のために罰せられるのです。
昨年、フランスの銀行に罰金が科せられました。総額は90億ドル―89億ドルだったと思います。トヨタは12億ドルを支払い、一方でドイツ商業銀行(the German Commerzbank)はアメリカの国家予算に17億ドルをつぎ込む合意に署名した、等々。
我々はまた、透明性のない経済ブロックの設立過程が進行するのを見ています。それは実質的にあらゆる秘密謀議のルールに従いながら為されるものです。その目的は明らかです。支配と、経済や貿易や技術の規制基準の拡大によって、より大きな利益の取得を可能にする方法を使って世界経済を再フォーマットすることです。
最強メンバーの要求の押し付けによる経済ブロックの創設は、明らかに、世界をより安全なものにはせず、時限爆弾を、将来の紛争の条件を産み出すのみでしょう。
世界貿易機関(WTO)がかつて設立されました。確かに、そこでの議論はスムーズなものではありません。そしてドーハ・ラウンドでの話し合いはきっと暗礁に乗り上げたのでしょう。しかし我々は解決の方法と歩み寄りを求め続けるべきです。歩み寄りだけが、経済を含むあらゆる分野での関係の長期的なシステムの創造を導くものだからです。一方で、もし我々が経済共同体の参加メンバーである特定の国々の利害を退けるなら、もしそれらは無視されてよいと偽って主張するなら、対立が去ることはなく、解決されることはなく、そのまま残り続けるでしょう。それは対立がいずれは知れ渡るようになることを意味します。
ご存じの通り、我々のアプローチは異なります。ユーラシア経済連合を創設する一方で、我々はパートナーとの関係を進展させる努力を払いました。それは中国シルクロード経済ベルト・イニシアチブの中にある関係を含みます。我々はBRICSやAPEC、そしてG20で平等の基盤の下で活発に作業をしています。
世界的な情報空間もまた今日、戦争によって揺り動かされている、という言い方ができます。出来事についての「唯一正しい」視点と解釈が激しく人々に押し付けられ、特定の事実が覆い隠されるかまたは改ざんされています。我々は皆レッテルを貼って敵のイメージを作り上げることに慣れています。
常に言論の自由とか情報の自由な拡散といったものの価値を―それらは過去に我々が非常によく耳にしていたものですが―強調してきたように思える国々の指導者たちは、いまや、自分たち自身のものとは異なる客観的な情報やあらゆる意見の拡散を、妨害しようと試みています。彼らはそれを、明らかに非民主的な手段を用いながら、戦うべき忌々しいプロパガンダであると断定します。
不幸なことですが、異なった文化・宗教・民族の人々の間にある関係について話すとき、我々は言葉による戦争と紛争をより頻繁に耳にします。現在、何十万もの移民たちが、職も無く自分たちが行こうとしている国の言葉や伝統や文化の知識も全く持たずに、ある異なった社会にまとまろうとしています。一方で、それらの国々の住民たち―この点は歯に絹を着せることなくおおっぴらに話すべきですが―住民たちは、見知らぬ者たちの優越や犯罪率の増加、自国の予算からの移民に対する出費に神経をとがらせています。
もちろんですが、多くの人々は難民に同情的で彼らを助けようとします。問題は、どのようにすれば難民たちが向かおうとしている国の住人の利益を侵害することなくできるのかということです。他方、異なった生活スタイルどうしの、大規模で制御不能なショッキングな衝突が引き起こされかねませんし、すでに排他主義や不寛容の膨らみと社会の中で恒久化する矛盾の現われが導かれつつあります。
ご同輩の皆さま、我々は現実的でなければなりません。もちろん軍事力は国際政治の道具である以上は今も将来も長期間存続し続けます。良かれ悪しかれ、これは人生の事実です。問題は次です。それが、他のあらゆる手段が使い果たされた場合にのみ使用されるものかどうか? 我々が、たとえばテロリズムのような共通の脅威に対抗しなければならない場合に、国際法規に定められる既知のルールにのっとってそれが使用されるのかどうか? あるいは、世界に誰が支配者であるのかを思い知らせるためだけに、軍事力の使用の合法性とその必然的な結果について一顧だにせず、問題を解決せずに増加すらさせながら、いかなる口実を用いてでも軍事力を行使するのか?
我々は中東で起きていることを見ております。何十年間も、たぶん何百年にもなるでしょうが、民族間の、宗教的、政治的な紛争と緊迫した社会的な出来事がここで積み重ねられてきました。言ってみればそこに嵐が吹きすさんでいたわけで、その間に力ずくで地域を再編成しようとする試みが、現実の戦争勃発、国家の破壊、テロの発生、そしてついには世界的な危険の増大を導く戦いとなりました。
テロ組織は、いわゆるイスラム国なのですが、膨大な領地を支配下に置きました。これについてちょっとお考えください。もし彼らがダマスカスやバクダッドを占領するなら、そのテロリスト集団は実質的に公式な勢力としての地位を手に入れることができるでしょうし、世界的な展開のための拠点を作り出すでしょう。こんなことを誰が分かっているのでしょうか? 我々が何に取り組んでいるのかを、国際社会の全体が気付くべきときです。実際にそれは世界の文明と文化の敵です。それは、嫌悪と野蛮さのイデオロギーを持ち出しながら、道徳と、イスラム教を含む世界中の宗教的価値観を踏みにじり、そうしてイスラムを汚しているのです。
我々はここで言葉遊びをする必要はありません。我々はテロリストを穏健派と非穏健派に分けるべきではありません。その違いを知るのは良いのかもしれません。多分、ある特定の専門家の意見によれば、人々の首を限られた数だけ、あるいは何らかの上品なやり方で、切り落とすのがいわゆる穏健派なのでしょう。
あるがままの事実として、いま我々はテロ・グループの事実上の混合体を見ています。確かに、時々はイスラム国の戦士とジャブハット・アル‐ヌスラやその他のアル‐カイダ直系や分派の戦士たちはお互いに戦っています。しかし彼らは、資金を求めて、食料を得るために戦っているのです。彼らは思想的な理由のために戦ってなどいません。一方で彼らの実体とやり方は同じままです。テロ、殺人、そして人々を弱気で怖がりで従順な群衆に変えることです。
過去何年かの間に状況は悪化しており、テロリストのインフラは人数の増加と共に増大しており、その間にいわゆる穏健な反対派に提供された兵器は次第にテロ組織の手に渡っていきました。さらに、集団の全員が彼らの側に寝返ることもあるのでしょう。彼らの言葉によれば、威風堂々とです。
努力、つまり、イスラム国に対する戦いの中でアメリカの我が同職たちとその同盟者たちのはらう努力が、何一つ明確な成果を挙げてこなかったのはどうしてでしょうか? はっきりしているのは、それが軍の装備や能力のいかなる欠如によるものでもないことです。もちろんですが、アメリカ合衆国は巨大な能力、世界で最大の軍事的能力を持っており、寝返ることなど決して容易ではありません。テロリストたちに対して宣戦布告し、同時並行的に自分自身の利益に合わせて中東のゲーム版にコマを配置するべく彼らの一部を利用しようと、こんなふうに思っているのかもしれません。
もし一部のテロリストが、誰かにとって気に食わない政権を転覆するための破壊道具として使われるのなら、テロリズム全般と戦うことなど不可能です。それらのテロリストたちを取り除くことは決してできません。後で彼らを取り除くことができる、彼らの力を奪うことができる、あるいは彼らと何らかの合意を結ぶことができると考えるなら、それは単なる幻想にすぎないのです。リビアの状況がその最も良い例です。
新しい政府がこの状況を何とか安定化できると期待しましょう。まだそれは事実にはなっていませんが。しかし、我々はこの安定化を手伝う必要があります。
我々は、中東で戦っている武装勢力がロシアを含むあらゆる人々に対して脅威を与えていることを非常によく知っています。我が国にいる人々はテロリストの攻撃が意味することを知っており、そして北カフカスの武装集団が何をしてきたのかを知っています。我々は、ブデンノフスク、モスクワ、ベスラン、ヴォルゴグラードその他のロシアの都市でのテロリストによる血まみれの攻撃を覚えています。ロシアはいつでもあらゆる形でテロリズムと戦ってきており、この邪悪と戦う世界的なコミュニティーの努力と真に連帯するために絶えず戦いを唱えてきました。それが、我々が幅広い反テロ同盟を作るように提案した理由です。それは私が国連での演説で申したことです。
シリアの公式な指導部が我々に支援を要請した後に、我々は同国でのロシアによる軍事作戦を立ち上げる決意をしました。私は再び強調しましょう。それは完全に合法的であり、その唯一の目的は平和の回復を助けることです。私はロシア軍人たちの行動が、シリアの公式な指導部が政治的安定に達する間に続けられるべき行動にとって必要な条件を作り上げ、この状況に対する重要で積極的な成果をもたらすことを、また、我が国ロシアに脅威を与えるテロリストたちに対する予防的な攻撃を行うことを、確信しております。もしそれらのテロリストたちが出身国に戻ればその国は間違いなく危険にさらされることになりますが、我々はこうしてそのような全ての国々と人々を支援するのです。
この地域の社会的、経済的、政治的な復権と同時に、長期的な安定を支援するために、我々がしなければならないと信じることがあります。まず第1に、テロリストのいないシリアとイラクの領土であり、テロリストたちの活動が他の地域に移動するのを許さないことです。そうするために、我々はあらゆる勢力と、つまりイラクとシリアの正規軍、クルドの武装勢力、実際にテロリストたちと戦うことに真に貢献している様々な反対派グループと手をつなぎ、またテロリズムに反対するこの地域内外の活動と協調しなければなりません。同時に、反テロ連帯活動は間違いなく国際法に基づくものでなければなりません。
第2に、武装勢力に対する軍事的な勝利だけでは全ての問題を解決することができないのは明らかであり、それが最も重要なものを、つまり、全ての健全で愛国的なシリア社会の勢力の参加を得る政治的なプロセス開始の条件を、作り出すものとなるでしょう。シリア国民こそが、国際社会からの文民による敬意を込めた援助だけによって、自分たちの運命を決定しなければならないのです。最後通牒や脅迫状や脅威を通しての外国からの圧力の元で、ではありません。
たとえば、シリアの公式な指導部の崩壊はテロリストを活動的にさせるのみでしょう。今まさに、シリア国家指導部を妨害せずに、我々は彼らを蘇らせ、紛争地域にある国家体制を強化させなければなりません。
私があなた方に強調したいことは、その歴史全体を通して、しばしば中東地域が様々な帝国と勢力の間の衝突の場となってきた点です。それらは境界線を引き直し、この地域の潜在的にある構造を自分たちの好みと利益に合わせて作り変えました。そしてその結果はそこに住む人々にとって必ずしも良いものや利益のあるものではありませんでした。実際に誰一人として住民の意見を聞くことすらしませんでした。自分自身の国に何が起こっているのかを最後になるまで知らされなかったのは中東の住民だったのです。
もちろんですが、このことは疑問を惹き起します。国際社会のあらゆる行動をその地域に住む人々に協調させるべきときが来ているのではないのか? 私は、それがあまりにも遅れていると思います。これらの人々は他の諸民族と同様に尊敬をもって扱われるべきです。
ムスリム聖職者、イスラム教指導者とイスラム教の国々の首脳の政治的な和解のプロセスに取り掛かることは決定的に重要です。私は、彼らの道徳的な権威と同時に、彼らの強化された立場と援助に期待します。テロリストのイデオロギーの破壊的な作用から人々を、特に若い人々を守ることは非常に重要です。テロリストたちは彼らを消耗品としての兵士として使おうとしているだけであり、それ以上ではありません。我々は、平和と家族と善行を尊び他者を助け伝統を重んじる純粋なイスラム教と、イスラムの装いの下で武装した者たちがまき散らす嘘と嫌悪を、はっきりと区別する必要があります。
第4に、我々にはいま、その地域の経済と社会の発展のロードマップを進展させ、基本インフラ、住宅、病院と学校を再建する必要があります。テロリズムを根絶し政治的な安定に達する後の現場で為されるこのような創造的な作業のみが、ヨーロッパ諸国に向かう膨大な難民をストップさせ祖国を離れた人々を帰還させることができるのです。
シリアが、戦争の傷を癒すために、莫大な財政的、経済的、人道的な援助を必要とすることは明らかです。我々は、提供する国々と国際的な投資機関の参加を得ながら、この作業をするための形態を決める必要があります。いま現在、シリアの問題は国連や他の国際機関で、そして国家間の関係の枠内で、討議されております。確かに、今のところ我々は必ずしも理解に達することができるわけではありませんし、ありえない仮定の上に立つ期待や根拠不明な計算を捨て去ることは極めて困難です。しかしそれでも、ある程度の進歩はあります。
我々は、望み通りすぐに活発にというわけにはいかないのですが、反テロリスト作戦のフレームワークの範囲内で軍事部門同志の間の接触を確立しつつあります。ロシア‐アメリカ間で交わされたシリア上空での両国の軍用機の任務に関する安全確保ガイドラインの合意文書は正しい方向にある真剣な歩みです。
我々はまた、武装集団の位置と動きについて西側諸国の我々の同職たちとの情報交換を開始する作業に近づいております。これらの全ては正しい方向にある確実なステップです。最も大切なことは、お互いを共通の戦いの中にある同盟者として扱うこと、正直でオープンであることです。このようして初めて、我々はテロリストに対する勝利を確保できるのです。
現在の劇的な状況によって、シリアは、共通の利害の下での協力関係のモデルになり得ます。それは全員に影響する問題を解決し効果的なリスクマネージメント・システムを発展させるものです。我々はすでに冷戦の終了後にその機会を得ました。不幸なことに、我々はそれを利用することがありませんでした。同様に2000年代の初期にその機会を得ました。ロシア、アメリカ合衆国と他の多くの国々がテロ攻撃に直面したときなのですが、不幸なことにそのときにもまた、我々は協力のための良い動きを確立することができませんでした。私はそれを、どうしてそれができなかったのかの諸理由を、繰り返すことはしません。誰もが既にそれを知っていることと思います。いま、重要なことは、過去に起こったことから正しい教訓を引き出して前進することです。
我々が得た経験と今日の状況が、結局は我々に正しい選択をさせるだろうと私は確信しております。協力、相互の尊敬と信頼のための選択であり、平和のための選択です。
ご清聴を深く感謝いたします。(拍手)
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【ここからは、パネラーからの質問に答えるプーチン大統領の言葉が続くが、それらの訳は別の機会にしたい。】
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3119:151104〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。