戦争法「成立」を受けての野党に対する要望書
- 2015年 11月 6日
- 評論・紹介・意見
- 太田光征
戦争法「成立」を受けての野党に対する要望書
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要望書のファイル
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戦争法「成立」を受けての野党に対する要望書
2015年11月6日
「崖から突き落とされ後がない」有権者
2015年9月19日未明に「成立」させられた戦争法は、立憲主義と民意の否定に加え、政権自ら主張していた立法事実(邦人保護の米艦船防護、ホルムズ海峡の機雷除去)の取り下げ、対米従属司法を確立した砂川事件最高裁判決の悪用(自衛隊の合憲性についてすら判決は判断を留保)、参院特別委員会での採決の不存在、自民党内民意の無視(小選挙区制下、公認権を握った党執行部による異論圧殺)、参院本会議にまで及ぶ低劣なヤジ(公明党も)と、あらゆるプロセスで狼藉の限りを尽くしたものでした。
史上最長の延長国会を設定してまで優先すべきは、最高裁から違憲の存在であるとの烙印を押された国会議員の憲法上の正当性を一刻も早く取り戻すことであったはずです。「1票の格差」の是正を優先させるのでなく、参院で形ばかりの「10増10減」案を委員会審議なしの本会議採決で済ませ、こともあろうに戦争法という新たな違憲立法の積み増しを優先させたのです。
原発再稼働と福島原発事故被災者の切り捨て、特定秘密保護法、消費税、TPP(環太平洋経済連携協定)、「いつまでも派遣労働者法」、沖縄辺野古の新米軍基地、戦争法など、民主政治の諸原則をことごとく無視した政治に主権者は痛めつけられっぱなしです。「崖っぷちに立つ」という表現がありますが、もはや「崖から突き落とされた」状態にあります。主権者にとってこれ以上、後がありません。
政治の前提となる法治主義・立憲主義・民主主義の立て直しと「国民連合政府」構想
いま求められているのは、個別の法律・政策・政治路線の追求という以前に、政治の前提となる法治主義・立憲主義・民主主義の立て直しを優先させなければならないということです。
その点で、日本共産党が戦争法の「可決」と同じ日に「国民連合政府」構想を提案されたことを高く評価します。
2006年に設立された「平和への結集」をめざす市民の風は、平和憲法が極めて深刻な危機に瀕しているとの認識の下、(1)平和・環境、(2)社会的公正、(3)選挙制度の抜本的改革を基本理念として、「平和共同候補」の実現を各党に求めてきました。当団体だけではありません。多くの市民が長年にわたって憲法レベルの大義とそれを実現するための手段を提案してきたのです。
立憲主義の破壊は今回の戦争法に始まるものではありません。2008年の名古屋高裁で自衛隊によるイラクでの軍事支援活動が憲法9条違反であると断罪されました。本来、少なくともイラク戦争の頃から平和共同候補が実現されてしかるべきだったのです。もう待つことはできません。
立憲主義の破壊は国民主権レベルで起こっており、小選挙区制の廃止が重要な結集軸になる
今日の立憲主義の破壊は平和主義のレベルだけにとどまりません。国民主権レベルの立憲主義の破壊という点で、小選挙区制の影響は重大です。
今回の解釈/立法壊憲は、2014年衆院選の比例区得票率にして47%(小選挙区得票率で49%)の自民・公明党の衆院議員、つまり選挙で過半数未満の有権者からしか支持されていない与党議員が、過半数の有権者が戦争法を憲法違反とする意見に反してなされたものです。憲法96条の正式な改憲プロセスを経ていないだけでなく、国民主権の厳格な適用を趣旨とする同条の定量的要件(改憲発議は各院の3分の2以上、国民投票は過半数の賛成が必要と規定)から完全に逸脱しています。
代議士に自分の意見を託すことのできない投票者が過半数を超える事態は、立法権を制御する国民主権を形骸化し、その内実を投票機会への参加に矮小化するもので、国民主権の全面執行という憲法要請から著しく乖離しています。空疎な国民主権を規定する小選挙区制が、今日の民主主義と立憲主義の破壊をもたらしているのです。
有権者の多数意見と国会議員の多数意見にねじれをもたらす小選挙区制の下での改憲発議は有権者不在の改憲発議になりかねず、今回の戦争法の「成立」プロセスを繰り返すもので、小選挙区制下での改憲が野党の共通公約とはなり得ません。民主主義と立憲主義の回復という点で、小選挙区制の廃止が重要な結集軸になるでしょう。
共産党を含む選挙協力による「保守層逃避」のデメリットは疑問
朝日が10月17、18日に実施した世論調査では、来年の参院選で野党が選挙で協力するべきだと答えた市民は48%に上り、そうは思わないの34%を上回りました。これは下記野党5党に投票した有権者のほぼすべてに相当する割合の市民が野党選挙協力の必要性を認めていることを示しています。
JNNが10月3~4日に実施した世論調査によれば、連立政権を前提にした共産党提案の選挙協力に期待すると答えた市民は37%に上っていますが、2014年衆院選比例区における民主・維新・共産・社民・生活の得票率が47.8%であるので、その77%に相当する市民が同選挙協力に賛成していることになります。この民意を無視するべきではありません。
同年の結果に基づく単純計算では、平和共同候補が実現すれば、これら5党の得票数は20,560,718票(各党の比例区得票数に0.77を掛けたものの総和)または18,738,586票(各党の小選挙区得票数に0.77を掛けたものの総和)となり、民主党の同年小選挙区の得票数11,916,849票を優に超えます。「民主・維新から逃げる保守層」の票を23%分と仮定して、民主・維新各党の小選挙区得票数に0.23を掛けたものの総和と自民党の小選挙区得票数25,461,449を合計すると29,131,171票となります。この合計得票数は民主党単独の得票数11,916,849票の1.55倍となり、統一しない場合の自民/民主の2.14倍より開きが小さくなります。保守票が逃げてもメリットがあると評価できる計算です。
民主主義のダイナミズムに背を向ける野党はあり得ない
野党の存在意義が問われています。なぜ全野党が集団的自衛権の否定、壊憲閣議決定の撤回、戦争法の廃止くらいの方針を速やかに表明できないのか、なぜ国民連合政府の提案にもっと前向きになれないのか。
共産党の志位和夫委員長は「構想が打ち出せたのは、何よりもこの間の国民運動の発展の力によるもの」と、世論の熱意に押されて国民連合政府構想を提案したと述べています。後がない状態という段階での提案とはいえ、いい意味で本州の運動が沖縄化したのです。特に、後がない状態にまで惨憺たる政治の連続を短期間のうちに目の当たりにさせられた若者の訴えは、それに大きく貢献したことでしょう。
民主・維新・共産・社民・生活・元気の野党6党の党首は9月11日、戦争法の成立をあらゆる手段で阻止すると合意しました。「成立」後も同様であるべきは当然です。
沖縄での世論を背景にした選挙協力という前進を含め、野党はこの間の民主主義のダイナミズムを忘れるべきではありません。ここに民主政治の方向性が示されています。野党は有権者の期待を裏切ることなく、法治主義・立憲主義・民主主義の回復に選挙/政権レベルで協力するようお願いします。
【参考】
10月9日付毎日新聞で発表された世論調査によれば、共産党を含む野党が「選挙協力をすべきだ」と回答したのは民主支持層の6割、共産支持層の9割でした。次の条件で04年比例区のデータを基に上記と同様に計算をします。
小選挙区で平和共同候補に投票する04年野党5党比例区投票層の割合:
民主党(6割)、維新(3割)、共産党(9割)、社民党(9割)、生活(9割)
統一野党5党の小選挙区得票数=15,945,916票(04年の民主党の小選挙区得票数=11,916,849票)
小選挙区で自民党に鞍替えする04年野党5党比例区投票層の割合:
民主党(4割)、維新(3割)、共産党(1割)、社民党(1割)、生活(1割)
自民党の小選挙区得票数=32,727,267票(04年の自民党の小選挙区得票数=25,461,449票)
自民党の小選挙区得票数÷統一野党5党の小選挙区得票数=2.05
04年の自民党の小選挙区得票数÷04年の民主党の小選挙区得票数=2.14
結果は統一野党5党と自民党の得票数比が04年の民主党と自民党の得票数比とほとんど変わらないものですが、以上は野党5党投票層のかなりが自民党に鞍替えすると厳しく仮定したもので、野党5党の選挙共同は現段階でも意義があると推測できます。
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