日本山妙法寺、平和運動への一層の精進を誓う -藤井日達山主の27回忌法要で-
- 2011年 1月 14日
- 評論・紹介・意見
- 岩垂 弘平和運動日本山妙法寺藤井日達山主
日本山妙法寺の藤井日達山主の27回忌法要が1月9日、千葉県鴨川市の同寺清澄山道場であった。同寺の僧侶、信徒をはじめ日蓮宗各宗派関係者、米国・英国など海外の団体代表ら山主を敬う約400人が参加したが、「国内外で平和が脅かす動きが強まりつつある」「世界で核拡散の危険性が増大している」として、山主の遺志を継いで「国内外の平和建立のために一層精進する」ことを誓い合う集まりとなった。
日本山妙法寺清澄山道場で行われた行勝院日達聖人第27回忌法要(撮影・中村易世)
第2次世界大戦後が終わって65年余になるが、日本では、この間、「反戦平和」「反核平和」を掲げる運動があるところ、必ず黄色の僧衣を着て、うちわ太鼓をうち鳴らす僧侶の集団がみられた。日本山妙法寺の僧侶たちだ。
思いつくものをあげただけでも、東京・立川基地拡張反対運動、原水爆禁止運動、被爆者救援運動、日米安保条約改定阻止闘争、ベトナム反戦運動、沖縄返還運動、成田空港建設反対闘争(三里塚闘争)、イラク戦争反対運動……と数え切れないくらいだ。
とりわけ、国民に強い印象を与えたのは、1956年10月に行われた立川基地拡張のための強制測量に反対する学生や労組員らと、これを阻止しようとした警官隊の衝突の際の光景だった。警棒を手にした警官隊の実力行使で頭を割られ、黄色い僧衣が血で染まってもなお退くことがなかった日本山妙法寺の僧侶たちの姿が、非暴力を基本とする同寺の平和運動を広く世間に知らせるきっかけとなった。
日本国内ばかりでない。日本山妙法寺の僧侶たちの活動は地球全域に及ぶ。今でも、世界で紛争のあるところ、必ずといってよいほど同寺の僧侶の姿がある。
藤井日達山主は、その日本山妙法寺の開創者である。1918年(明治34年)に日蓮系の一宗派としてこれを開創した。
日達山主は膨大な法話を残しているが、その中で一貫して説いたのは、仏教の教えは「不殺生戒」にあるという点だ。一言に要約すれば、「人を殺すな」ということだという。最大の殺生は人が人を殺す戦争である。そこから、日達山主は「反戦平和」「反核平和」を訴え続けた。しかも、「絶えず行動を起こすこと」を説き、自ら平和運動の先頭に立った。老齢で歩行が困難になると、車イスで平和行進の先頭を歩んだ。
日本山妙法寺の平和運動は徹底した非暴力を基本としているが、そこには、非暴力運動でインドを独立に導いたマハトマ・ガンジーからの影響があるとされる。日達山主は1933年にインドでガンジーと会見している。
世界各国の平和団体、宗教団体、先住民団体との交流・連帯にも力を注いだ。また、共通の目的を持つすべての人々が手を取り合うことの大切さを説き続け、平和運動の大同団結のために奔走した。日本国内では、分裂していた原水爆禁止運動の統一のために心血を注いだ。
1982年は反核、軍縮を求める運動が世界的に高揚した年だった。この年、山主は96歳。それでも、同年6月にニューヨークで開かれた第2回国連軍縮特別総会に車イスで参加し、セントラルパークで開かれた国際NGO主催の100万人反核集会で演壇から核兵器廃絶を訴えた。
日達山主の27回忌に際し、日本山妙法寺は『報恩』という冊子を発行したが、その中で、宗教学者の山折哲雄氏は「日本山妙法寺」と題する寄稿文でこう書いている。
「昭和二十年の敗戦以後、日本の仏教諸教団はこぞって平和主義を宣揚し、そして例外なく平和運動の戦列についた。しかし、そのときから今日にいたるまでの半世紀をふり返るとき、その平和運動の持続性と徹底性において、藤井日達の日本山妙法寺に及ぶものは一つもなかったといっていいだろう」
日達山主は1985年1月9日に99歳で亡くなった。それから今年であしかけ27年となるところから、27回忌法要が営まれた。法要は2時間余に及び、読経、焼香などの後、吉田行典・日本山妙法寺大僧伽首座が「導師法話」をおこなった。
首座はその中で、次のように述べた。
「人々が最も苦しみ、多く命を奪われるものは戦争であります。先の戦争の犠牲の上に立って平和憲法が制定され、これは人類の平和と和合の大原則であります。しかし、この憲法がなしくずしに破られ、戦争への道へと歩かされています。お師匠様はこれをたださんがために、護憲と核兵器廃絶、軍事基地反対等、平和運動の先頭に立たれ、不殺生、非暴力行動を明示されました。かつて大正12年、関東大震災の惨事を見て、『立正安国論』を顧み、日本の将来を杞憂され、御祈念遊ばされました。今日、核兵器、新しい兵器の開発、温暖化や地震、洪水等の天変地異は後を絶たず、『立正安国論』の諌言を、世界の人々は深く受け止めねばなりません」
「私たちはお師匠様との御縁を感謝し、その教えと御意を胸に、謙虚な心で、山内一門異体同心を持ち、国内外の平和建立のため、弘法精進することを誓いたいと存じます」
来賓の挨拶では、同寺の活動に期待する声が相次いだ。
イルティッド・ハリントン元大ロンドン市議会議長は、今、世界では核爆弾製造に転化できる核物質の移動・輸送が秘密裡に進行している現状を報告し、核拡散が急速に進行している危険性を指摘した。そして「藤井日達上人の行動を想起しよう。耳をすませば、導きの手が見えてくるはず」と訴えた。
スティーブン・リーパー広島平和文化センター理事長は「世界で核拡散が急速に進んでいる。このままだと、すべての人が核兵器を簡単に入手できるようになる。そうなれば核兵器を使用する人も出てくるだろう。もう時間がない。まず、核兵器禁止条約の制定が必要だ。それは奇蹟に近いことかも知れない。しかし、今こそ、その奇蹟を起こさなくてはならない。それに向けての努力を日本山妙法寺に期待したい」と述べた。
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