パリの空の下、シリアの空の下 市民の血が流れる、、
- 2015年 11月 18日
- 時代をみる
- 中東平田伊都子
「パリの空の下」というシャンソンをエディット・ピアフで聞きながら、パリの空の下とシリアの空の下で起こっていることに想いを巡らせてみます。 このシャンソンは、「パリの空の下、セーヌは流れる」というジュリアン・デュヴィヴィエ監督1951年の作品に流れています。 セーヌ川を舞台に、様々なフランス人の人生模様を夜明けから深夜までの24時間の中で紡いでます。 お暇な方はYouTube映画館を覘いてみてください。 そのパリの空の下で、2015年11月13日金曜日、市民の血が流れました。 そして、11月15日、シリアの空を仏軍戦闘機が猛爆し、市民の血が流れました。 実際のところ、「シリアの空の下」では2011年 1月から市民の血が流れ続けているのです。 その結果50万人以上のシリア人が欧米有志連合に殺傷され、いまや400万人以上のシリア人が難民となって欧米をさ迷っています。 シリア人の不幸は、誰のせいでしょうか?
(1)11月パリ・テロ事件の展開:
今年のパリは雑誌社テロで始まり、11月連続テロで終わろうとしている。その間フランスでは、9月の鉄道テロ未遂その他、こまごまとしたテロ事件が散発した。あの、暗黒映画で有名なカッコいいフランス情報局は、相次ぐテロを学ばなかったのだろうか?なぜ11月パリ・連続テロを防げなかったのか?これじゃあパリ大好きの日本人ツアー観光客の足も遠のいてしまう。
パリ連続テロが起こる前日、イラク情報局の高官が有志連合各国に対して、「イスラム過激派組織ISの親分アブバクル・アルバグダーデイーが、イラクシリアを爆撃する有志連合とイランやロシアに対しての襲撃命令を出した。爆破、銃撃、人質、、手段を問わず、近々に強行するらしい」と、警告を発した。が、フランス治安当局は、「この手の情報は毎日くさるほどあるので、マジに取り上げなかった」と、APに答えた。(2015年11月15日、AP発)一般に白人フランス人は、黒人、アジア人、アラブ人などの有色人種を馬鹿にしている。イラク人の情報など、採用したくないのだ。
そして、11月13日金曜日の夜、パリは襲撃された。
パリ検察のモラン検事は14日の記者会見で、「実行犯は三つのチームに分かれ、競技場とレストラン、バタクラン劇場をそれぞれ襲撃。30分余りの間に7カ所を立て続けに襲う用意周到な犯行だった」と、パリ・テロを分刻みで説明した。
最初の襲撃は13日午後9時20分。フランス対ドイツのサッカー親善試合が行われていた競技場のゲート付近で、襲撃犯の1人が着用していた自爆ベストを起爆させた。犯人が死亡し、1人が巻き込まれた。
午後9時25分、セアトの黒い車に乗りカラシニコフ自動小銃で武装した複数の襲撃犯が、パリ10区レストラン2カ所のテラス席で食事をする人々に乱射。15人を殺害した。
午後9時30分、最初の襲撃があった競技場で2人目の男が自爆ベストで自爆死。
10区に隣接する11区では午後9時32分と36分、レストラン2カ所が相次ぎ銃撃され、計24人が死亡。いずれの現場でも、黒いセアト車に乗りカラシニコフを持つ襲撃犯の犯行。午後9時40分頃、男1人が11区のレストランで自爆死。巻き込まれた1人が負傷。
同じ頃、襲撃犯3人がバタクラン劇場付近にフォルクスワーゲンの黒い車で乗り付けた。3人は劇場内に侵入すると、コンサートに熱狂する若者らに向かって銃を乱射。89人を殺害して劇場内に立てこもった。
午後9時53分、競技場付近で3人目の男が自爆。最初の襲撃からここまで、わずか33分間の凶行だった。(ロイター参照)
(2)各国首脳の反応:
「フランス国民の皆さまとその深い悲しみを共にする西サハラ難民と西サハラ被占領民は、、心からの友情と連帯をお伝えします」と、事件の翌日11月14日に、西サハラ難民政府大統領もフランス大統領にお悔やみの手紙を送った。
世界中が喪に服した。米大統領予備選挙戦の民主党討論会場でも黙祷を捧げた。
過激派組織IS攻撃を始めたイランもロシアも、パリ・テロを強く非難した。
ISと戦ってきたレバノンのヒズボラ党首は、「アッラーのお加護がありますように、、レバノンもISの犠牲者だ。首都ベイルートの南部にある商店街で、パリ・テロの前日11月12日、2つの自爆テロがあり、通りかかった人たちなど44人が死亡し、200人以上が怪我をした。レバノン人はアッラーの名のもとに、不信心者ISの撲滅のため戦い続ける」と、映像声明を流した。
そして、話題の焦点シリア大統領アサドは「フランス人民にお悔やみを申し上げる。フランスで起こったテロは、ベイルートでも起こった。我々シリアでは、5年来この類のテロと戦ってきた。シリア、イエメン、リビアなど全世界で起こっているテロはフランスのテロと同じだ。」と、ぶら下がりインタヴューに応じて表明した。
この時点で、アサドは国際社会の主役になり、プーチンは演出家になった。
舞台はトルコのG20首脳会議に移る。
11月15日、トルコG20開催地アンタルヤに降り立ったロシア大統領プーチンは、スチュワーデスを握手でねぎらうと、花束で迎えた男の子と女の子を抱きしめた。一方、黒人アメリカ大統領オバマはいつものようにタラップを駆け下り、そのまま持ち込みの大統領専用車に乗り込んだ。到着時からロシア大統領はモテモテだった。G20会場の待合ロビーでも、オバマ、キャメロンなどなどに捕まったプーチンは、ナイトクラブ風ボックス席で会談を重ねていた。
ソチオリンピック、クリミア、前回のG20、ドーピング、、と、これまでプーチンを村八分にしてきた欧米のさもしい心変わりには唖然としたが、欧米の虐めに強いプーチンには驚嘆した。
(3)パリ・テロが生んだ米仏露合同軍:
パリ・テロ当事国フランスのオランド大統領は16日のフランス議会で演説し、「パリで13日に起きた同時多発テロ事件はシリアで計画し、ベルギーで組織され、フランスで実行された」と述べ、「アメリカとロシアは夫々の基本方針を横に置き、シリアでの共闘戦線を組む必要がある。近々に、オバマやプーチンに会う」と、言及した。
11月15日にフランスは事件後初めて、過激派組織ISが首都と称するシリア北部ラッカを空爆し、ISへの攻撃を始めた。戦闘機10機を出動させ、司令部や戦闘員の徴兵センター、軍用倉庫などを標的に20発の爆撃をした。フランスのバルス首相は16日に地元テレビに出演して、「われわれは戦争状態にある。シリアの空もテロリスト。敵を攻撃して全滅させなければならない。この戦争に必ず勝つ」フランス警察はイスラム過激派の拠点などを一斉に捜索した。
フランスは、シリアには血を流す市民が全くいないと思っているのか?知っていながらシリア人の血などなんとも思っていないのか?フランスの標語「自由平等友愛」は、白人フランス人だけのものらしい。
「Act of War」 アメリカ大統領ブッシュがイラク侵攻の時に吐いた言葉を使って、フランス大統領オランドは、次期フランス大統領選挙も視野にいれながら、強い大統領イメージ作りに必死だ。
一方、国際社会に突然華々しく帰り咲いたロシアは、「10月31日の224人全員が死んだロシア機墜落は、テロだった」と、プーチン自らがテロ説の切り札を出した。かくして、プーチンはフランス・ロシア・アメリカ合同空軍にゴーサインを出し、三か国の爆撃機がシリアの空を襲った。
(4)アラブ難民拒否に火が付く??:
「EU難民政策はパリ・テロの影響を受けない。世界のリーダーたちが、亡命志願者をテロリストと見なさないよう強く要望する」と、2015年11月15日にEUヨーロッパ連合の
高官が強調した。さらに、欧州委員会のジャン・クロウドが、「今回の襲撃を企てた奴や実行した奴らは、まさに難民を作った連中だ。EUが決定した難民政策を変更する必要は全くない」と、トルコG20での記者団の質問に対して答えた。
しかし、50万を超えるシリア戦争死傷者を出し、400万を超えるシリア難民を作った元凶は、欧米だということを忘れてもらっては困る。
黒人アメリカ大統領オバマも、トルコG20終了後の記者会見で、「アメリカの難民受入れ政策は変わらない」と、明言した。ところが、帰米したオバマをまっていたのは、「シリア難民出てけ!」の大合唱だった。「それは、移民の国アメリカ人が口にしてはいけない言葉だ」と、オバマが諫めても、移民反対派は聞く耳持たずで、ますます増えていく。米国50州の半分25州が「シリア難民ノー!」を宣言した。アメリカによる今年の難民受け入れ数は10,000で、既に2159人がアメリカで生活を始めている。難民の一人が、「いつ襲われるかのか?、、不安な毎日だ」と、銃社会のアメリカに怯えていた。
過激派組織ISは16日、米国の首都ワシントンを標的にするなどと脅す2種類の動画をインターネット上に投稿しましたね。 パリ・テロを「勝利」と叫び、米国とその有志連合(日本も安保法制で参加?!)に参加する国々へ、新たな攻撃を予告していました。 一本目はイラクのサラハデイン地方で、ニ本目はイラクのキルクーク発です。 そして、ビデオでアラビア語を話す戦闘員たちは、 パリの空の下からきたような、お洒落な白人面をしていました。
テロ指令を出しているのは、シリアなんでしょうか?イラクなんでしょうか?
文:平田伊都子 ジャーナリスト、 イラスト:川名生十 カメラマン
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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