チョムスキー87歳の講演「権力とイデオロギー」
- 2015年 11月 19日
- 時代をみる
- 松元保昭
みなさまへ
この翻訳紹介は、ことし(2015年)87歳になるノーム・チョムスキーが、さきの9月19日、ニューヨークのニュースクール大学ジョン・L・ティシュマン講堂でアメリカ合州国の若者たちに語りかけた「権力とイデオロギー」と題した講演の記録です。
なお、昨年来日して東京で講演し福島の親子とも対談したノーム・チョムスキーは、2012年には「郡山市のふくしま集団疎開裁判」に支持メッセージを送り、また2014年には「沖縄辺野古移設反対声明」に名を連ねています。なお、日本にも「脅威」を利用した武力行使容認論が幅を利かして「暗黙の禁止命令」が増え続けていますが、アメリカやイスラエルの横行する例外論(Exceptionalism)はその不処罰=免責論(Impunity)に裏付けられてきたことを記しておきます。拙訳ですが紹介させていただきます。(2015年11月12日記)
講演ビデオは9月22日に米国で公開され、9月29日にデモクラシー・ナウ!ジャパン(代表:中野真紀子)で紹介され、その英文スクリプトから翻訳した。煩瑣を避けるため一切の訳注は排したが、( )内はすべて訳者の補いである。講演時間は約40分、その後の質疑応答に約30分、以下のURLから講演のすべてを観ることができる。なお1990年にも同名タイトルの出版がなされている。
●Noam Chomsky: On Power and Ideology | The New School
https://www.youtube.com/watch?v=w_X5czMVKT8
デモクラシー・ナウ!のリンク先URL(含むスクリプト)と本翻訳の小見出しは次の通り。
■ジョージ・オーウェル―思想の抑圧とアメリカ例外主義の神話
Noam Chomsky on George Orwell, the Suppression of Ideas and the Myth of American Exceptionalism
http://www.democracynow.org/2015/9/22/noam_chomsky_on_the_myth_of
■世界平和の最大の脅威を引き起こしているのはイランではなく合州国
The United States, Not Iran, Poses Greatest Threat to World Peace
http://www.democracynow.org/2015/9/22/noam_chomsky_the_united_states_not
■質疑応答
http://www.democracynow.org/2015/9/22/noam_chomsky_on_trump_we_should
http://www.democracynow.org/blog/2015/9/22/q_a_with_noam_chomsky_on
【以下、松元保昭訳私家版】
エイミー・グッドマン: デモクラシー・ナウ!では、今回特別番組で、世界的に著名な反体制知識人にして活動家、言語学者、著述家、半世紀以上教えてきたマサチューセッツ工科大学(MIT)のインスティテュート・プロフェサー、名誉教授のノーム・チョムスキー氏を取り上げます。チョムスキー氏は彼の毎月のコラムをまとめた新刊『我々がそう言うから(Because We Say So)』を含む100冊以上の本を執筆してきました。早くにチケットは完売されましたが、この土曜日(9月19日)、ニューヨーク市ニュースクール大学ジョン・L・ティシュマン講堂で1000人近い聴衆に話しました。『権力とイデオロギーについて』と題した講演では、アメリカ例外論への固執、イラン核合意をぶち壊そうとする共和党の努力、および米-キューバ関係の正常化などを取り上げました。また教授は、米国とその緊密な同盟国つまりイスラエルとサウジアラビアが中東和平の可能性を徐々に蝕んでいると彼が考える理由も説明しています。なお講演後も、聴衆からいくつかの質問を受けそれに丁寧に答えています。(※エイミー・グッドマンは、デモクラシー・ナウ!の司会者ですが、3回に分けられた講演のビデオ収録を紹介する際、数度にわたって講演者を紹介しています。上記はそれをまとめたものです。=訳者)
■ジョージ・オーウェル―思想の抑圧とアメリカ例外論の神話
ノーム・チョムスキー: 認識、解釈、討議、行動の選択を支配するイデオロギーの枠組みの形成に果たす集中権力の役割については、いまさらコメントするまでもないほどよく知られていることです。今晩、私はきわめて重要な例をあげて議論したいのですが、初めにいま述べたプロセスについて最も鋭い分析を行った人物の言葉を取りあげます。ジョージ・オーウェルです。
オーウェルは、全体主義的な逆ユートピア(ディストピア)の下で、思考が強制的にコントロールされる仕方にかんする鋭い洞察と嘲笑的な批評で有名です。しかし、自由な社会でも似たような結果になっているという彼の議論はさほど知られていません。もちろん彼はイングランドについて論じているのですが、たとえイングランドのように自由な国でも、多くの者が同調しない考え方は強制力の行使がなくとも抑圧できると書いています。それについての彼の説明はきわめて適切なものです。とくに見事に的を射ているのは、最良の学校の最高の教育についての彼のコメントでした。そこでは、疑いなき事については話しても仕方がないし、考えてみることさえ無駄だという考えを植えつけられるというのです。このエセーが注目されなかったのは、たんにそれが発表されなかったからです。数十年後、彼の未発表の草稿から発見されました。彼の著名なスターリン主義的全体主義の辛辣な風刺劇『動物農場』の序文にするつもりだったようです。なぜ発表されなかったのかは分からないことになっていますが、たぶん想像に難くはないでしょう。
自由社会における思想統制についてのオーウェルの意見が心に浮かんでくるのは、現在、注目を浴びているイラン核合意をめぐる喧々諤々の論争です。といっても、論争が盛り上がっているのは事実上合州国だけで、他の国ではほぼ例外なくこの核合意を歓迎し安堵と楽観論の中で議会審議の対象にさえなりません。これはアメリカ例外主義という有名なコンセプトの際立った例のひとつです。
じっさい、アメリカが例外的な国家であるということは事実上あらゆる政治家にきまったように唱えられていますし、もっと意味深いことには著名な学者や有名な知識人にも当てはまるのです。その例はどこにでも見つかります。例えば、ハーバード大学の政治学の教授を取り上げてみましょう。彼は著名なリベラルな学者で政府のアドバイザーです。彼はハーバードの権威ある学術誌「インターナショナル・セキュリティー」に執筆しています。彼はそこで、他の国々とは異なり合州国の「ナショナル・アイデンティティ―」は「自由、民主主義、平等、私的所有、および市場」という「普遍的な政治的経済的価値観によって定義されて」いると説明しています。したがって米国は世界の利益のためにその「国際的なトップの位置」を維持する厳粛な義務があるのだと。これは定義づけの問題ですから実証的な検証のうんざりする作業が免除されるわけで、私はこんなことに時間を費やしたくありません。
あるいは、リベラル左派の一流の知的ジャーナル誌「ザ・ニューヨーク・レヴュー・オブ・ブックス」に目を向けますと、そこで2,3か月前、カーネギー国際平和基金の前会長がこう書いていました。「国際安全保障、世界の経済成長、自由、および人間の幸福に対するアメリカの貢献が唯一無二のものであることは自明であり、他者の利益に向けられてきたのは明らかであり、アメリカ人は長い間、[合州国]は他とは違う種類の国なんだと信じてきた。」他の国々は自国の国益を追求するが、合州国は「普遍的原理を促進しようとしているのだ。」またしても定義の問題ですから何の証拠も与えられていない。こう言い続けることは非常に簡単なことです。
ただし、こういう態度については、例外的なものなどまったくないと付け加えておくのが公平でしょう。アメリカの例外主義はイギリスやフランスなど他の帝国国家が隆盛を極めていた時代にもよく見られた、きわめて標準的な態度でした。おもしろいことに、もう少しましだろうと期待したくなるような高潔な人物であっても、これが真実なのです。象徴的な例を挙げると、例えば英国のジョン・スチュアート・ミルがそうです。そこからは知的な生き方や知的な基準についての興味ぶかい疑問が湧いてきます。
さて、いくつかの観点から見れば、アメリカ例外主義に疑問はありません。ちょうどいま挙げた一つの事例が、現在のイラン核合意をめぐる状況です。ここでは合州国の例外主義と孤立が、目を引く形でむき出しになっています。他にも多くの事例がありますが、本日はこの問題を取り上げたいと思います。じっさい、米国の孤立は近いうちにもっと強まるかもしれません。共和主義者の組織は―これを「党」と呼ぶにはためらいを覚えますが―合意を台無しにすることに専念しています。そのやり方は、およそ現代の政党では見られないような満場一致、むしろ昔の共産党のような旧態組織によく見られたみんなが同じことをいわねばならない民主集中制に近いものです。他の多くの兆候と並んで、このことが示すのは、共和党はもはやまともな政党ではないということです。政党のふりをしているし、政党として扱われていますけれどね。
■世界平和の最大の脅威を引き起こしているのはイランではなく合州国
ノーム・チョムスキー:かつての共和党は、今日では、議会活動を諦めて「過激な造反」となりました。右派のアメリカン・エンタープライズ研究所の評判の高いかなり保守的な2人の政治評論家、トーマス・マンとノーマン・オーンスタインを取り上げてみます。じっさいに、共和党は増強される制裁にまた関連する他の国々への派生的な制裁にも成功するかもしれない。またイランを合州国との合意から手を引かせる別のアクションを実行するということもありうる。しかし、合州国との合意、それは必ずしも協定が無効になるということを意味しない。たびたびここに呈示されたやり方に反して、それは米国-イランの協定ではない。それはイランとP5+1、拒否権をもつ安保理5か国+ドイツとの間の協定です。ですから他の関係国がイランとの実施に合意するかもしれない。その上…、やがて彼らは中国とインドを合流させるでしょう。そこではイランとの対話を阻止する米国の横やりを避ける道をすでに見つけています。実際にそうなると、核開発プログラムを追及するイランの権利をNPT(核不拡散条約)加盟国としてずっと活発に支持している非同盟諸国会議、つまり世界民衆の大多数が合流することになるでしょう。彼らは国際社会のけして一部ではないことを覚えておくべきです。ですから国際社会がイランの核政策に反対しているとか国際社会が何か別のことをするなどと言うなら、それは国際社会と共に歩んでいる合州国や他のどんな国にも起こることを意味するのですから、そんな考え方は捨てるべきです。もし他の国々が合意を尊重し続けるということになれば、合州国は世界から孤立するでしょう。これは聞き覚えのない立場ではないのです。
それはまた、キューバ関係正常化の開始というオバマの主な外交上の成果、オバマの遺産と称される彼のもう一方の要素の背景でもあります。キューバに関していえば、合州国はここ数十年ほぼ完全に孤立していました。米国の通商禁止に対する国連総会における例年の採決を見聞きすると、それはめったに報道されませんが、つまるところ米国は単独投票です。最終的にイスラエル1国が同調する。しかしもちろんイスラエルはその通商禁止を破る。時折、マーシャル諸島やパラウや他のどこかが加わりますが、彼らは親分と正確に同調しなければならないのです。南北アメリカの半球では、長い間、合州国はほとんど孤立してきました。検討に付された大部分の問題で合州国は残りの国々にどうしても同調しないので半球の重要な会議は決裂してきました。2つの大きな問題があった先の(2012年)コロンビアでの会議(第6回米州首脳会議)です。ひとつの問題は―米国とカナダは拒否し他のすべての国は合意したのですが―半球に所属するキューバを認めていたのです。もうひとつはラテンアメリカを荒廃させている米国の麻薬戦争、半球のみんながその麻薬戦争から抜け出したいと願っているのに米国とカナダは合意しない。それが現在の、オバマが承認せざるを得なかったキューバ関係正常化へのステップの事実上の背景です。ことし、もうひとつの半球の会議がパナマで開催された(2015年第7回米州首脳会議)。もし合州国がそこで手を打っていなかったら、たぶん半球から追放されていたでしょう。その結果、たとえ事実は動機となる要因が米国の孤立であったとしても、キューバの孤立を終わらせる勇気ある行動だ、見事なジェスチャーだ、と呼ばれることをオバマはしたのです。
イランについて最終的に合州国が至るところで孤立状態になるというのは、とくに目新しいことではないし、事実、かなり他の事例があります。イランの場合での、合州国の懸念の理由は非常にはっきりしており、「イランは世界平和に対する最も重大な脅威である」と繰り返し明確に述べられてきました。合州国では、高位の政府高官、評論家、その他の人々からきまったように聞かされる。おまけにここは世界の外ですし、それは自分たちの見解でしかない。米国の主要な世論調査エージェンシーのように標準的な情報からこれらを見つけ出すのは簡単なことです。ギャラップが国際世論の定期的な世論調査を実施しています。例えば見せかけの質問のひとつは、「世界平和にとって最も重大な脅威はどこの国だと思いますか?」答えは明白で、圧倒的な大差で合州国。第2位を占めたのはパキスタン―確かにインドの票で激増した、ついで2,3の他の国。イランがイスラエルと一緒に挙げられ、いくつかの国がずっと落ち込んでいる。それが話しても仕方のない事柄のひとつです。また実際、主要な米国の世論調査エージェンシーから出た結果は、私たちが自由な報道と呼ぶ正々堂々の表玄関を通じて行われたものではなかった。しかしそんな理由で世論調査がなくなったりすることはないのですが。
さて、イランの脅威の重大性という君臨するドクトリンを考えてみると、合州国は軍事力で反撃する権利が―もちろん単独で―与えられているという事実上の満場一致の立場を理解してもいいでしょう。もしそれが合意条件からイランの何らかの離反を発見したという主張であればの話ですが。そこでもう一度、全国紙からランダムに一例を拾い上げると、ワシントンポストの先週日曜日の社説。引用すると、「もし核爆弾を製造するイランの企てが発見されたなら、オバマ氏ないし彼の後継者は即座に米国の軍事行動を支持することを明確にする」ことを議会に要求している。これが合州国の真意です。つまり、社説子は合州国が例外であることを再度明確にしているわけです。それは国際法や国際協定などどうでもいい、意のままに暴力に訴える権利が与えられた、ならず者国家です。しかしこの例外国家の政治水準の中ではほとんど至るところにあることですからその姿勢で社説子を咎めることはできません。それが意味していることにもかかわらず、再び言いますが言っても無駄な事柄のひとつなのです。
ドクトリンは、いかなる意味においても正義の上ではなんら公正ではないのに、ときにまったく異常な形をとります。一例を挙げると、クリントン・ドクトリン。主要市場、エネルギー供給、また資源戦略、自分だけの安全保障やまして疑わしい人道的懸念に対して縛られないアクセスを確保する、こういった目的のためにさえ、合州国は単独で軍事力の行使に訴えることが自由だというものです。このドクトリンへの執着は、現在の歴史の事実を喜んで迎える人々の中ではほとんど議論される必要がないもので非常によく承認され実行されているのです。
ワシントンポストの社説子はまた、合州国がその国際的なトップの役割に基づいてこうした極端な行動をとれる準備をする理由をも明らかにしている。もし合州国が軍事力に訴える準備をしないなら次にはイランがそうするかもしれない、と説明する。引用すると、イランは「中東全体に強引に覇権を確立するその企てをエスカレートする」かもしれない。それが、オバマ大統領がわれわれが封じ込めるべきイランの攻撃性と呼ぶものです。イランが中東全体に力づくで―あるいはそうしているという夢だったとしても―いかに覇権を確立しようとしていたか気付かない人々のために社説子は2つの例つまりアサド政権とヒズボラへの支援を呈示する。さて私は、イランが力づくで地域全体の覇権の確立を探っていたと証明する議論をしてみなさんの知性を侮辱したくはない。しかしながらイランの攻撃性にかんする―過去数十年間(several hundred yearsになっているが誤記と思われる)で私が思い出す―ひとつの事例があります。つまり、1970年代に米国が支援したシャーの体制下におけるペルシャ湾の2つのアラブの島(事実は1971年に3つの島)のイランの征服。
さて、力づくで地域の覇権を確立するというこれらのショッキングなイランの努力は米国の同盟国―例えばNATO同盟、シリアのジハード軍を活発に支援しているトルコなどの動向と対比できます。2,3週間前、ペンタゴンによってシリア内部に手引きされた数十人の戦闘員を捕えて殺害するため、トルコがアル・カイダ所属のアル=ヌスラ・フロント内部の協力者に助力したことは明らかなようで、援助はかなり強力なものです。それは数年の成果であって、訓練(資金)が何十億ドルになるか誰が知るでしょう。彼らは入国したものの実際にはトルコ諜報機関の助力で即座に捕えられ殺害されたようだ。そう、もっと重要なことは、シリアとイラクにおけるジハード反乱軍のために米同盟国サウジアラビアが率いる中心的な役割だ。より一般的に言うとサウジアラビアは、引用しますが、「1980年代からずっと反乱軍およびテロリスト組織に対する資金援助の主要な源泉」であったということです。周知のことを繰り返しているのですが、これはヨーロッパ議会による最近の調査報告によるものです。まして大部分のサウジアラビアにある布教の熱意は、ムスリム世界の至るところへ過激な宗教指導者を派遣してはクルアーンの学校やモスクを設置し、その極端な過激主義者ワッハービ-サラフィー(原文ではWahhabi-SafafiとあるがSalafiの誤植であろう)の教義を非常に大きな影響で宣布しているのです。その地域のもっとも信頼されているオブザーバー、パトリック・コバーン(湾岸戦争、イラク戦争などを取材したアイルランドのジャーナリスト)が、以前から米国の強力なサポートがあるサウジアラビアの「ワッハーブ化」について―「主流スンニー派イスラムのワッハーブ化は我らの時代の最も危険な動向である」―と書いている。これらの破壊的な動向は、かつてイギリスから世俗的(非宗教的)なナショナリズムに対立する過激イスラム主義を支援することを継承した合州国の長期の趨勢が直接育んだものであるという事実と一緒に、触れても無駄な言っても仕方のない事柄のすべてでもあるのです。これらが長く続いた関係です。
一方には、イランによる地域の弱体化を非難する米国連大使サマンサ・パワーのような人物がいます。弱体化とは政治的言説の興味深いコンセプトです。つまり例えば、イランがISISの襲撃に対する防御でイラクおよびイラクのクルド政府の援助という話になれば、それが弱体化であり、不当な侵略でなくともたぶん(西側は)イランを阻止することになる。対照的に、合州国がイラクを侵略し2、30万人の人々を殺害し何百万人もの難民を発生させ国を破壊し宗派対立を引き起こしイラクを悲嘆に突き落とし、現在、全地域がずたずたに引き裂かれ、他方で、この7つの要因で世界大にテロリズムを拡大させたのに、最初の年には、世界の利益のために続行すべしという我らのミッションの役割は安定化なのです。じっさい、慣行となった合州国ドクトリンの例外主義は注視するとまったく驚くべきものなのです。
さて、ワシントンポストの社説子を続けると、B-52爆撃機、たぶんより高度なB-2爆撃機、さらに巨大な大型貫通爆弾と呼ばれるバンカーバスターを非公式にイスラエルに供与するよう米国政府に要求することでデニス・ロス、トーマス・フリードマン、その他の名士がオバマのクリントン交渉人に加わります。だが問題がある。そのような大型飛行機の滑走路がない。しかし、おそらくトルコの滑走路を使うのでしょう。そしてこれは何ら防衛のためではない。覚えておくべきです。これらは防衛用の武器ではないのです。これらの武器のすべては、いったん使うとなったらイスラエルにとってイラン爆撃を行使する攻撃用兵器となる。分かりますか、イスラエルが米国のクライアントである以上、国際法なき自由をご主人から受け継いでいるだけのことで、いざという時に使う攻撃用兵器の膨大な備蓄をイスラエルに供与することは何ら驚くことではないのです。
さて、国際法違反は脅威をはるかに超えて進むもので、再び、例外国家としての我らの権利ゆえに、恐らくもっともらしく堂々と誇らしげに宣言される戦争行為を含むアクションに向かっていくものです。ひとつはサイバー戦争によってイラン核施設の破壊が成功した事例。サイバー戦争の展望をもつ国防総省、ペンタゴンはこれを戦争行為とみなし軍事的反撃を正当化しています。NATOは1年前に、同じ立場を断言しました。仮にサイバー戦争でどの国が攻撃されてもすべての同盟国が軍事攻撃で反撃できるという主旨で、サイバー攻撃による侵略行為はNATO同盟国の集団防衛義務を発動できると決意したと。それはわれわれが彼らに敵対したのではなく、われわれに対するサイバー戦争の攻撃を意味します。これらの立場の意味するものは、再び、触れても無駄な、言っても仕方のない何かであるのです。そしてあなた方はその条件がよく精査されていることを確認できるでしょう。
ノーム・チョムスキー:おそらく、合州国とイスラエルはその並外れた軍事力ということでイラン問題以前にテロに隠れて(in coweringはin coveringの誤記と思われる)正当化されているのです。そういった懸念を検討することは可能です。例えば、あなた方は権威ある分析、こうした情報の主要なソース、戦略問題国際研究所(CSIS、ワシントンD.C.の著名な超党派のシンクタンク)の詳細な分析に向かうことができます。この4月、そこで地域の軍事バランスにかんする膨大な調査研究が実施され発表された。引用したいと思いますが、「アラブ湾岸諸国は…軍事費および近代兵器の入手双方でイランに対する圧倒的な優位を保っているという決定的な事実」を彼らは見出すのです。それはバーレーン、クウェート、オマーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦のペルシャ湾岸協力会議諸国です。武器に関しては8倍もイランを上回る出費をしている。それは何十年も前からの不均衡です。彼らのリポートはさらに進んで、「アラブ湾岸諸国は世界で最も先端的で効果的な兵器の一部を入手しているが、イランは40年前の本来時代遅れの、しばしばシャーの時代に自国が産み出したシステムに頼って本質的には過去に生きることを強いられてきた」と認めてもいるのです。そしてこの不均衡は、もちろん、最も進歩している米国製兵器と協同するイスラエルによってさらに大きなものになっていますが、世界のスーパーパワーの実質的な海外軍事基地としてのその機能には、核兵器の膨大な備蓄も含まれているのです。(これが隠れている「重大な懸念」です。)
当然、その重大な懸念の根拠となる脇に置くことのできないもうひとつ別の脅威がある。核保有国が核兵器の秘密をジハード戦士たちに漏らす可能性です。ジョークではない。イランの事例では脅威は非常に小さい。イランの容赦ならぬ敵スンニー派のジハード戦士たちだけでなく、有力な宗教指導者も、またどんな人物が彼らジハード戦士のことを考えても、臨床的な精神病の何の徴候も示さなかった。また、もし漏えいした核兵器の情報からわずかなヒントさえあったなら、彼らジハード戦士たちのすべては、瞬時に消滅させる力を持つということを彼らは心得ているのです。(イランの)脅威を無視できるという意味ではないが、しかし、(核の)存在しないイランからではなく、まさに米国の同盟国パキスタンから、実際そこで脅威が非常に現実的になっていることなのです。パキスタンの2人の指導的な核科学者ペルベス・フッドボーイとツィア・ミアンが最近議論しています。英国の主要誌「インターナショナル・アフェアーズ」で、彼らは、戦闘員が核兵器または核物質を奪取するあるいは核テロを引き起こすという懸念が増大しており、核施設を守るために2万人を超える軍隊による専用部隊の創設を導いた、と書いている。しかしこの部隊が、「内部通報者の助け」でたびたび攻撃を受けた通常の軍事施設をガードする部隊と関連する問題の恐れなどないと想定する根拠はまったくないのです。別の言葉で言えば、サウジアラビア出自のスンニー派イスラムの「ワッハーブ化」およびレーガン政権以来ずっと合州国の強力なサポートがあるとパトリック・コバーンが指摘したその理由で、全システムには大きな度合いでジハード戦士の諸分子が織り込まれているのです。そう、手短に言うと、問題は充分に現実的であり、じっさい非常にリアルなのです。それが重大な問題として扱われていない。議論さえされていない。それどころか、時の公式の敵についてまったく別の理由ででっちあげられた夢物語に私たちが心配させられるのです。
イラン核合意の反対者はイランが核兵器開発に専念していると断言する。米国の諜報機関はこの証拠が何もないと認めるでしょうが、しかし過去においては彼らがそうしようとしていたことはまったく疑う余地がないことです。イランの最高権威にはっきりと言明されていたので、私たちはこれを知っています。イランは「間違いなく人が考える以上にもっと早く」核兵器を開発するだろうとイラン国家の最高権威が海外ジャーナリストに知らせていた。イランの核エネルギー開発計画の父、イラン原子力エネルギー機構の前トップが、指導部の計画は「核爆弾を組み立てること」にあると彼の信念を表明していた。そしてまた、CIAの報告書も、彼らの言葉で、もし近隣諸国がそうするなら、まして持つようなことにでもなれば当然イランが核兵器開発をすることは「疑問の余地がない」としていた。
これらすべては「最高権威者」シャーの支配下にあったことで、引用しただけです。これは米国高官―チェイニー、ラムズフェルド、およびキッシンジャー―が核開発計画を続行するためにシャーを強力に推し進め、またこれらの取り組みを受け入れるよう彼らが(米国の)各大学に圧力をかけていた期間中のことです。私自身の大学MITが一つの例でした。政府の圧力の下で、シャーからの助成金のお返しとして原子力工学部にイランの学生を入れるためシャーと取引をしたのです。これは強力な教授陣のサポートと同じくらい学生自治会の非常に強い反対に遭いました。学術機関が、またそれがいかなる機能を果たすかについて多くの興味深い議論を巻き起こしたのが印象的です。2、30年前(a couple ではなくdecades 2、30年前の誤記と思われる)の教授陣または学生は、施設が違った場所にありました。核の反対者、じっさい、MITのこれら一部の学生は、現在、イラン核開発計画に馳せ参じているのです。
核合意の反対者たちはそれ(イランの核開発計画)が十分成功していなかったと主張します。みなさんはそれについて多くのことを聞いています。また興味深いことに、一部の合意支持者は、中東全域が自ら核兵器、事実上、全般的に大量破壊兵器を一掃するべきだという(今回)達成されたことに勝る要求に同意している。現に、私はイランのジャバード・ザリフ外務大臣に注目します。彼は、何年ものあいだ、中東に大量破壊兵器の非核地帯(フリーゾーン)を創設するために世界の大部分で構成する非同盟諸国会議とアラブ諸国の呼びかけを何度も繰り返している。現在、それは、イランが引き起こしたという脅威が何であれ、的をしぼる非常に分り易い筋道となるでしょう。しかし、より以上のことが危機に瀕している。最近、米国の主要な世界軍備管理専門誌「アームズ・コントロール・トゥディー」で国際反核運動の2人の指導的人物およびパグウォッシュ会議と国連諸機関の専門家である2人の科学者によって議論されていました。彼らは、「中東における大量破壊兵器の非核地帯」創設にかんする決議の1995年に成功した採択は、核拡散防止条約の拡大を…可能にしたパッケージの中心要素だった」と語っています。これは最も重要な核軍縮条約であり、またここには、中東における大量破壊兵器の非核地帯、核-フリーゾーンの創設に向けた措置を受諾するにはその継続が必要条件とされているのです。
この計画の実施は、核拡散防止条約の5年の年次レヴュー・ミーティングで繰り返し合州国に妨害されてきました。2010年に、再びごく最近では2015年の2,3か月前に。同じ2人の反核の専門家が、2015年ではこの取り組みが「核拡散防止条約の当事者ではなく、また地域で核兵器を保有するただ一国のみと広く知られている一国家のために」合州国によって再度妨害されたと論評しているのです。それは礼儀正しくも控え目なイスラエルに対する配慮です。実現性への米国政府の妨害は、イスラエルの核兵器を守るために中東における危険な不安定性を持続させるだけでなく、おそらく核拡散防止条約を蝕んでいくでしょう―もちろん、どこまでも安定性の名目で…。ついでに言うと、疑わしきイランの脅威を終わらせるチャンスが米国政府によって崩されたといってもこれが唯一の事例ではありません。―いくつかのかなり興味深いケースがありますが、時間がありませんし、いまそれらのことに立ち入ろうとは思いません。しかし、これらすべてはかなり興味深い疑問を掻き立てます。そこで私たちは現実に危険に晒されている事態について問うべきなのです。
では、現実にどんな脅威が引き起こされているのか?そちらに向きを変えてみましょう。それは明らかに軍事的脅威ではない。これは明白です。イランの攻撃性、テロへの支援、力づくで地域の覇権を得ようとするという憑りつかれた意見や、ましてや核爆弾を持つイランがそれを使うかもしれず、その結果、即座に抹殺されるなどという門外漢の意見を私たちは脇に置いてもいいでしょう。現実の脅威は、世界の安全保障状況にかんする議会報告書で米諜報機関によってはっきり説明されてきました。当然、それらはイランに関するものです。報告書は指摘する―米諜報機関を引用しますが―「イランの核開発計画および核開発の可能性を開いておきたいというその意欲こそが彼らの抑止戦略の中心的な役割である。」いいですか?イランの抑止戦略の役割であって攻撃的方針ではまったくない、彼らは抑止力を構築しようといるのです。イランが抑止戦略に重大な関心を持っていることは、まじめな分析の中では疑わしいことなどないのです。それは、米諜報機関によっても認められているのです。ですから、影響力あるアナリストでけっしてハト派ではないCIAの古参専門官ブルース・リーデル、彼が「もし私がイランの国家安全保障の政策立案者であったなら、私は抑止力としての核兵器を欲していたろうに」と書いています。イランの抑止の理由は見事に分かり切っていることです。
彼はまた、別の重大なコメントをしています。地域におけるイスラエルの巧妙な策動の戦略的余地がイランの核抑止力によって阻止されるだろう、と彼は指摘しています。それはもちろん、合州国にとってもまた真実です。「巧妙な策動を考える余地」とは、攻撃または武力行使に訴えることを意味する。そうです、それがイランの抑止力によって阻止されるのです。2つのならず者国家―アメリカ合州国とイスラエル―にとって、地域で自由に暴れ回ることは当然どんな抑止力も容認できるものではない。そしてまた、彼らに与えられた力づくで支配する権利を行使するのは当たり前と思う人々にとって、その懸念は存在の脅威と呼ばれるものに簡単にエスカレートされるのです。もしあなたが、米国、第二にイスラエルが、通常しているように意のままに目的を達成しようと一方的に武力に訴えようと思っているなら、抑止という脅威は非常に耐えがたいものになるのです。さらに最近、米国第二の同盟国サウジアラビアは、かなり役立たずですが、穏健な改革派の法案を阻止するためバーレーンに侵略し、またごく最近にはイエメンへの大規模な爆撃でならず者クラブに仲間入りし、そこで膨大な人道危機が引き起こされている。ですから彼らにとって抑止力というものは問題であり、たぶん実存的脅威でさえあるのでしょう。
思うに、たとえ言っても仕方がない、考えても無駄だとしても、それが問題の核心です。起こりうる惨事を回避してより平和で公正な世界に向かうことを望む人々を除いて、(以上に述べてきた)これら(暗黙の)禁止命令を守り続けることが必要なのです。これらが、言ってもしょうがないこと、考えてはならないことなのです。あなた方がそれを読んだり聞いたりしていないとしても、そういうことが問題の核心だと私は考えるのです。ありがとう。
■質疑応答
チョムスキー:それでは、Q:「合州国はイスラム過激派をどのように支援したか?」
ちょうど私も触れたように、それ以前は英国でした。イギリス支配についてここでコメントしませんが、もし勉強するなら、非常にすぐれた英国外交史研究家による適切な本があります。資料にさかのぼって論じたマーク・カーティスは、イギリスがその支配期間中いかにイスラム過激派を支援したか詳細に物語っています。合州国はそれをずっと継承してきました。過激イスラム、極端なイスラム過激派の主要センターは明らかにサウジアラビアです。彼らこそ地域のワッハーブ化の源泉であり、パトリック・コバーンが指摘する現代という時代の重大な動向のひとつなのです。では、サウジアラビアの中心的なサポーターは誰か?あなた方ですよ。あなた方が支払うドルが行くところでしょう?それは長い間でした。ちょうど今、オバマ政権の下で供与されている何百億ドルもの兵器、しかもずっと以前からです。
じっさい、イスラエルと米国の強力な結びつきはここから育ったのです。合州国とイスラエルは親密な関係を保ってきましたが、1950年代と60年代の初期を通じて何ら珍しいことではなかった。それが1967年に変化した。1967年に何があったか?イスラエルは合州国とその同盟国サウジアラビアに大きな貢献を成し遂げた。サウジアラビアは、ISISを含むジハード運動などの分派である急進主義者、過激派、イスラム原理主義のセンターであったしまたあり続けているのです。当時、世俗(非宗教的)ナショナリズムのセンターはナセルのエジプトでしたが、そのうちの2派の間に紛争があった。じっさい、彼らは交戦中でした。その頃はイエメンで交戦中だった。イスラエルは、その世俗(非宗教的)ナショナリズムに深刻な打撃を与えた(第三次次中東戦争)。イスラエルはエジプト軍とシリアを挫折させ、サウジアラビアを救い合州国に大きな恩恵をもたらした。事実、あなた方が過去の資料に遡るならその当時は異常なことではない、事実上、イスラエルと合州国との間に類まれな関係が進展したということです。
そして実際、その後この関係が続きます。時間があればもっと多くの例を紹介できますが、それが一貫したパターンだったのです。しかし、わずかな例外もあります。次のように時々合州国は世俗的(非宗教的)イスラム国家を支援しています。もっとも極端で興味深い例は、レーガン政権と父ブッシュ政権に大いに愛されたサダム・フセインです。私は詳細を話すことができますが、彼らは、他の国とは違ってイスラエルだけが適えられていた贈り物を彼に与えたほどにサダム・フセインを支援しました。彼は米海軍艦艇の攻撃を許され、2,30人のアメリカ海兵隊員を殺しても何の罰をも受けずに叱責だけを浴びたのです。1967年にはイスラエルが同じことをしていた。サダム・フセインは1987年にその同じことをしました。そんな権利を与えられたほどにサダム・フセインとの友情は大きなものだった。それが世俗国家でした。事実として、父ジョージ・ブッシュは核兵器製造の高度な訓練のためにイラクの核技術者を合州国に招待さえしていました。これは見事な支援関係です。合州国が世俗的(非宗教的)なイスラムを支援した事例がこれですが、しかし以前の英国と同様、米国支援の受益者であったのは例によってイスラム過激派だったのです。
Q:「合州国はなぜシリア難民の援助にもっと多くのことをしていないのか?」
そう、それはあなた自身に問われるべき質問です。なぜもっと支援するわれわれではないのか?そもそもがずっと前から相当気前がいいですからね(チョムスキーの皮肉)。数年も待機されたあげく2000人足らずが受け入れられたと思いますが…。でもそうです。それはとても大事な質問です。広く適用されるべきです。別の難民たちがいます。ホンジュラスから逃げている人々についてはどうですか?ここ(合州国)で難民の危機と呼ばれるものの大きな出処です。彼らのうちの大部分はホンジュラスから来ています。なぜ?そう、2,3年前ホンジュラスで何かがあったのです。民主的政府を転覆した軍事クーデターがあった。合州国はそれに支持を与えた唯一の国でした。そして軍事クーデターの結果は本当の恐怖物語です、まことにおぞましい話です。以前も十分悪かったのですが、それから非常に恐ろしくなった。ですから人々は逃げ惑っている。またその結果われわれが建設することになる、わかりますか、テキサス国境もしくはどこであれ、1マイルもの分離壁を、です。ほんとうにそうですね、これはフェアな質問です。
Q:「オバマ・ドクトリンはシリアに向き合っているのか?」
これはよい質問です。米国政府には手がかりがないのです。それは明らかです。ですから彼らを非難することはちょっと難しいし、このまったくの惨事に建設的な結末を考えることはかなり難しいことなのです。
合州国は、その同盟諸国―はっきりしていますが―を支援することを除いていくぶん不介入の立場を採りました。私が触れたようにトルコ、NATO同盟は、アル=カイダに結びついたジハード・フロント、つまりアル=ヌスラ・フロントや2,3の他の分派へ支援してきました。湾岸諸国、また米国の同盟国サウジアラビア、それらが現在イスラム国となったものへの強力な支援者となっていた。厳密に言うと、サウジアラビア政府は―もはや直接支援はないと主張していますが―確かに過去には支援していました。また湾岸からの資金提供者―富裕な湾岸諸国は、過去にもそうしたようにたぶんまだ資金提供しているようですし、カタールの場合じつに開けっぴろげです。そうです、これらは間接的な米国の政策なのです。
国家を完全に破壊しているこの恐ろしい危機の何らかの解決への考えうる唯一の希望は、非常に尊敬すべきかつ賢明な国際的なネゴシエーター、特使ラクダール・ブラヒミLakhdar Brahimiのような本気でやるネゴシエーターによって取り組まれる和解の類です。どんなに無能なアナリストにも共有されている中心の考え方は、好むと好まざるとにかかわらず当然アサド政権を含んでおりまた好きでも嫌いでも反体制派分子も巻き込んで交渉されたある種の和解です。交戦している党派を含まないということでは交渉とはなりません。南アフリカの交渉がアパルトヘイト国家の指導者を参加させることだったように、それは非常に明白です。ほかのいかなる道もありません。ほかに交渉の場を持つことなどありえない。アサド政権が自殺行為になる条件を基にした交渉に入ろうとしないことは完璧に明らかです。もしそれが条件というなら、まさに彼ら(交渉者たち)は国を破壊に任せるままにしようとしていることです。残念ながら、交渉に対する米国の立場はそうだったのです。米国とその同盟諸国は、アサド政権が生き残らないことを前提条件にするよう交渉を要求したのです。それは恐ろしい政府です。私はそんな政府を生き残らせたいとは思いませんが、そんな条件で交渉に入るわけなどない以上、それがシリアを破壊する処方箋なのです。
【Lakhdar Brahimi:国連アフガニスタン特別代表、国連イラク特使、国連とアラブ連盟のシリア特使を歴任。紛争調停に評価の高い元アルジェリア外相。=訳者】
ちょうど今、実際には過去にも、ロシアによってかなり支援された提案がなされました。実際にはあなたはこれをまだ見ていないかもしれませんが、国際的な報道、2,3日前のイギリスの報道が2012年にはアサドを含まない暫定政権の提案をロシアがしていたようだと非常に興味深いすっぱ抜きをしました。それは合州国と西側によってかき消されてしまったようです。そのことはイギリスの報道各紙―ガーディアン、インデペンデント、デイリーテレグラフなどほとんどすべてで広範に報道されていました。合州国ではしばらく現われなかったのですが、印刷ではないがようやく出てきました。私が知るかぎりではワシントンポストのオンライン版で、それはふつうのべた記事です。噂されているから取り挙げたようなものですが、本気で受けとめられるはずがないなどと、わかりますか、そういうことは、たぶんまじめなことを意味していなかった、その他いろいろ。さぁ、どうです、あなた自身の結論を引き出せるでしょう。
質問に関してですが、あなたがオバマ・ドクトリンとは何かと問えば、そんなものは存在しません。私たちは2,3週間前オバマ・ドクトリンというものが分かりました。ペンタゴンが長年訓練したこれら50人の戦闘員を派遣した時、彼らはただちにトルコの協力者アル=ヌスラ・フロントに捕えられ殺害され、または寝返ったのです。私が述べたように明らかにトルコ諜報機関の支援でしたが。現在、それこそがドクトリンで、事実上、ジハード部隊を支援しているその同盟諸国をサポートする以外何もないのです。思うに、どんなドクトリンであるべきなのかじつに明らかです。それらの人々の諸条件の解決策のためにどんなチャンスがあるのか、たいして高度ではないが、言うことはむずかしい。しかし、あなたが代案を考えうるならそれを提示すべきです。別の代案が提案されたことはまったくなかったのです。
Q:「先にお話しいただいたアメリカの例外主義についてのお考えにふれて、ドナルド・トランプの戯れた振る舞いをどう思われますか?」
そうですね、実際には、他の候補者たちもそんなに違わないということを認識すべきだと思います。もしあなたが調べるなら、まさしく別の候補者の考え方を調べるのがいいということです。わかりますか、彼らがその考え方をあなたに教えるでしょう、それらは驚くべきものですよ。ちょうど2,3週間前にイランを従わせると言っていたのは、2人の先頭ランナー―彼らはもう先頭ランナーではありませんが―ジェブ・ブッシュとスコット・ウォーカーでした。彼らはイランについては少し意見が違っていました。ウォーカーは、もし選ばれたならイランを爆撃しなければならないと言っていたし、陣営は選ばれたその日にすぐ爆撃するつもりです。ブッシュはちょっと、わかりますか、彼はもうちょっとまじめです。最初の閣議まで待つつもりだと言いましたが、次いでイランを爆撃するのです。これはもう、国際世論だけでなく相対的な分別からさえその範囲を外れているということです。
これは、オーンスタインとマンが正しいと私は思います。それは過激な反乱であって政党ではない。あなたは選挙でも伝えることができます。どんなに複雑な問題でもその見解にはいくらかの多様性があるでしょう。でも、イラン合意または医療保険改革法案=いわゆるオバマ・ケア、またはその次のことが何であれ、満場一致の評決でそれをつぶすなら、いいですか、あなたは政党とは関係がないということでしょう。
【ブルッキングス研究所のトーマス・マンとアメリカ・エンタープライズ研究所のノーマン・J.オーンスタインが発表した2012年の著書『見た目よりもっとひどい―アメリカの立憲体制はいかに過激主義の新たな政争と衝突したか』で、主要2大政党が両者の対抗関係で双方が中道から右翼へ移動して「激しい敵意」を抱くようになり現在の米国議会が基本的な麻痺状態に達した、と主張した。】
それが真実であるという面白い質問です。私が思うに、現実に起こっていることは、先の世代のいわゆるネオリベラルの全期間中、両政党が双方とも右派に流れたということです。今日の民主党はかつての穏健共和党がそう呼ばれていたものです。共和党は多様な意見をもつ範囲から外れてしまった。彼らは先端の富と権力に頼ったあまり票にならない、そんな立場を表明していたのでは票が集められないのです。そこで起こったことは、彼らが長い間よく付き合ってきた民衆セクターを動員したことです。それはいろんな意味で見事に例外的な国です。ひとつはそれが極端で宗教的であることです。世界で最も過激な原理主義(ファンダメンタリスト)国家のひとつです。そして今では、共和党の基盤の大部分が福音的キリスト教徒(エバンジェリスト)、過激主義者、いやそれらは入り混じっていますが過激主義的な人々だと私は思っています。わかりますか、「彼らは我がホワイト・アングロサクソンの国をわれわれから奪い取っている」と恐れている移民排斥主義者であり、イスラムのテロリストなどに殺されるかもしれないと思ってスターバックスに行くとき銃が必要な人々なのです。つまり、そうしたことのすべてがこの国の役割だとしたらそれは植民地時代に戻っているのです。そこに本当の根源があります。しかしこれらは、過去には組織化された政治勢力ではなかった。それが現在あるのです。それが共和党の基盤です。あなたは予備選挙でそれが分かるでしょう。ですから、そう、トランプはたぶん道化リリーフです。が、まさしくそれは本流と違ったものではない、そこが最も重要な点だと思います。
Q:「米国の例外主義はドクトリン以来のものであった…」
ノーム・チョムスキー:「18世紀に現れた天命(領土拡張は神の使命)のドクトリン以来―実際には19世紀ですが―何が変わったか?」(これが質問です。)
ノーム・チョムスキー:そう、変わったことはドクトリンを実行するキャパシティーです。それで1823年のモンロー・ドクトリンを取り上げてみましょう。モンロー・ドクトリンはつまるところ、合州国は半球(南北アメリカ大陸)を支配しなければならないという宣言だった。そういう言葉で言われなかったとしても、結局同じことだったのです。モンロー・ドクトリンの理論的な生みの親がいたわけで、その人は天命(Manifest Destiny=領土拡張は神の使命)の理論的な創始者だったジョン・クインシー・アダムズでした。そう、そこに問題があった。これは1820年代です。問題は抑止力だった。抑止力とは英国です。英国は憎むべき敵だった。彼らは大きな軍事力をもって、つまり国家領域外の「外国」によって合州国の初期の外交目標の達成を阻止した。その目標とは、いわゆる侵略ではないが攻撃であり、今の国土、ナショナル・テリトリーの征服である。もちろん撲滅され放逐された先住民に対する戦争でした。しかし、最初のいわゆる外交目標はキューバを奪うことだったのです。1820年代に遡ってみてください。そうしかねなかった。そこに英国海軍が立ちはだかっていたのです。
ジョン・クインシー・アダムズは、われわれは待たねばならないと同僚に指摘した抜け目のない地上戦略家でした。「遅かれ早かれ米国の力は増大するだろうし英国の力は衰えるだろう。そして」…「ちょうどリンゴが木から落ちるように政治的沈下の法則によってキューバは我々の手に落ちるだろう」と彼が言ったように、それが本当に起こったのです。19世紀が終わるまでには、米国の力は増大し英国の力は衰えた。米国は西半球でさらに飛躍することができた。そして実際、1898年には、(米西戦争で)キューバを征服することができた。それは、もしあなたが合州国の学校に通っていたら、合州国は1898年にキューバを解放したと学ぶでしょう。事実は、キューバが自らをスペインから解放させないように米国が侵略したのです。それがその年に起きたことです。それ以来、その後、1959年(のキューバ革命で)ついに解放されるまでまさに事実上の植民地となったのです。またその時からずっと合州国はそのキューバを転覆させようとしてきたのです。
そして全般的には、同じことが真実です。19世紀前半に戻ると合州国はたぶん世界で最も裕福な国だった…おそらくそうでした。しかし合州国は最強の国ではなかったのです。英国が最強でした。フランスも強国でした。とくに第一次世界大戦で、やがては第二次世界大戦で、何年もかかって変わったのです。ですから、権力が拡大するにつれ例外主義も大きく拡大したということです。再び言いますが、帝国の権力と支配という彼らの時代の間、この例外主義はまた他の大国の真実でもあったのです。
Q:「世界的な反–貧困の目標と持続的な開発目標の新たな設定のため、来週ニューヨークで世界の指導者が会合を開きます。あなたはこれらの目標が十分であると思いますか?」
答えは簡単です。二言でいい。おまけに達成されることは何もない。こう言うことがじつに無難なところです。
Q:「ウィキリークス外電機密流出事件の重要性についてコメントしていただけますか?」
現在、じつに明らかにされていますね。それらからみなさんも多くのことを学んでいます。一部はあまり議論されていないものも含んでじつに興味深い。大部分はみなさんも知っていると思うのですが。たとえば、ウィキリークス事件のひとつで誰もが考えるべき興味深い問題があります。合州国とイスラエルとの並外れた関係の基盤は何か?そこには多くの理由がありますが、ひとつの興味深い局面がウィキリークス機密流出によって暴露された。それは報道されなかったと思いますが。
外電のひとつが漏えいのリストに上がりました。米国の内部文書、ペンタゴンの文書でした。どんなことをしても守らねばならなかったそれほど重要な世界の一地域、合州国のトップ戦略優先事項を記載したペンタゴンの文書が漏えいリストに載ったのです。たぶん、1ダースか、どれほどあったか忘れましたが…。それらのうちのひとつにハイファの右外側にラファエル軍需産業、重要な軍需工場があったことが出ていました。そこは無人機(ドローン)技術が開発された中心的な場所のひとつです。米国とイスラエルとの結び付きは先端技術軍需産業が極度に緊密で、事実、このケースでは、最大企業ラファエル社と合州国との関係は、ラファエル社がその管理本部を金のあるワシントンに移転したほどに緊密なわけです。
さて、みなさんに伝えることですが、興味深いことに関係の本質を見抜く眼が開かれます。イスラエルは、現在―大きな役割を演じている―小さな国ですが、高度なハイテク産業がありそれが鎮圧と攻撃で重要な役割を演じている。それはイスラエル武器見本市、そこで彼らが彼らの武器を売るのですが、正確に言えば、彼らは鎮圧と占領支配の先端手段を開発したのであり、また彼らが陳列している武器は、つまりパレスチナ人に対する戦闘場面で試験済みの武器だということです。だから彼らは支配のための先端技術を磨いたのです。彼ら(イスラエル)は、中米で、また合州国においてさえ、あらゆる地域で寄与している。例えば、彼らはホンジュラスの移民が合州国に来るのをいかに締め出すかアドバイスを提供している。警官隊の訓練を手伝うなど、たくさんの例があります。
さて、いま述べたのはたったひとつのケースですが、ウィキリークスのデータには多くの他のケースがありました。報道されてみなさんが知っているものだけでなく他にも多くのものがあります。本当にそれらは読み通す価値があるものです。ウィキリークスに現われたものは実に相当なボリュームがあるので、貴重な読書となるでしょう。
Q:「国連の外交政策は―米国の外交政策…Sorry…(質問を読んでいるチョムスキーのジョーク)―米国の外交政策がもっぱら経済的利害に動かされていることをあなたはどう思いますか?どんなほかの要因が米国の外交政策に影響を及ぼしていますか、どんな広がりで?」
これはかなりおもしろい質問です。間違いなく、経済的利害によって全面的に動かされているわけではない。事実、非常に際立った事例があります。ふつう、概して、米国の外交政策は他の主要国のように自国の支配的な勢力によって動かされます。それは当然のことです。そして自国の支配的な勢力は、もちろん大企業部門です。それは質問の中にない。ですから一般的には、外交政策は彼らの利害によって動かされる。私が引き合いに出したクリントン・ドクトリンのことは明らかなケースですが、他の中にもたくさんあります。けれども例外があって、これが非常に興味を引くものなのです。
まったく、じつに興味深いものですがイランは例外です。最初に米国がイランに重大な関与をした時期に遡ると、イランは英国の事実上の植民地のひとつでした。英国は、経済的にも政治的にもどちらにせよ、開発からも装備からもイランを妨害するよう関与していたのです。しかしそれが1953年に変わった。英国が議会制度を転覆させるにはあまりに弱体化していたので米国が乗っ取りを実行した―要するにシャーを据え付けてクーデターを実行したのです。まったく興味深いことがそのとき起こりました。合州国政府は、英国の採掘権の40%を米国のエネルギー企業(U.S. energy corporations)が接収するよう望んだ。相手は英国だった―英国はイランの石油を採掘していた。しかしアイゼンハワー政権はその40%を米国のエネルギー企業が接収するよう望んだ。これは経済的利害です。しかし彼ら(米国のエネルギー企業)はそれを望んでいなかった。彼らはもっといい理由があって望まなかった。サウジアラビアから手に入れる石油の方がはるかに安かったのだから、まさしく筋の通ったビジネス根拠で彼らはイランに行く必要を感じなかった。その上、本質的には国家を動かし所有しているサウジの独裁者サウド家との関係に傷がつくかもしれないと彼らは心配した。そんなことでサウジを困らせたりしたくなかった。米国政府は彼らに本当に強要した。40%の採掘権を接収するよう石油会社に押し付けたのです。アイゼンハワー政権は、彼らがそうしないなら独占禁止の告訴や別の脅迫で彼らを脅した。それで、もちろん彼らは手を引いてそれに従った。これは見事に異常なことです。
私が思うに、現在またそれが本当に起きています。私たちは現段階での証拠資料をもっていませんが、いいですか、早い段階の証拠資料は得ています。しかし、あなた方は米国のエネルギー企業がイラン市場に進出することを歓迎していただろうと信じることは出来るはずです。彼らはとにかくその考え方を気に入らない。―いいですか、だいたい残りすべての主要国がイランの開放から利益を得ようとする財界代表団、投資家またその他の者を派遣している、だから彼らは支援する。それなのに米国のエネルギー企業と他の米国の実業界は国家権力によって締め出される。あなた方は彼らがそれを好ましく思っていないことを確認できるはずです。もしその内部討議に立ち入っていたら、私は間違いなくそう言っていたでしょう。そう、この場合、経済的利害でさえ国家権力が圧倒するという一つの事例です。…イランは罰せられるべきだ。イランは重大犯罪に関わった。彼らは命令に反抗した。(会場に向かって)あなた方は命令に逆らわない。国際問題の大部分のドクトリンのひとつに、それは文献には現れないものですが、マフィア・ドクトリンがあります。国際問題はマフィアのように、非常にそのように動いています。ゴッドファザーは反抗には寛大ではない。あまりに危険なものです。そう、もしどこかの小さな店の主人が用心棒代を払わないと言ったら、それをドンは受け入れたりしない。彼をメタメタに打ちのめすためにチンピラを送るでしょう。たとえ金など必要でなくとも、そういう考えを他の者がもつかもしれないし次には形勢が崩れ始めるかもしれないのですから。それが国際問題の支配的な原理です。あなたが振り返るなら、事実、それが1953年のクーデターの背後の理由だったのです。そしてそれがまた、米国がイランに対して過激なほどに敵意を抱く理由でもあります。私はサダム・フセインへの支援について触れました。それはイランに対する攻撃でした。深刻なものでした。しかしイランは命令に反抗した。彼らは米国が押しつけた専制君主を転覆させたのです。…彼らは合州国をバカにした。あなた方はそんなことを考えないでしょうが…。
じっさい、キューバが非常によく似ています。キューバがこの上なく…なってからずっと、キューバに対する敵意はまったく興味深いものです。つまり、世論調査が実施されるようになってからずっと何十年間も大多数の米国国民は関係の正常化には賛成だったのです。OK、国民を無視すること、彼らを考慮しないことはデモクラシーでは普通のことですね。しかしこの場合、異常なことは米国経済界の主要部門―製薬会社、エネルギー産業、農業界の大企業部門―が正常化に賛成だったことです。彼らは皆キューバ市場に参入することを望んだ。しかし国家がそれを封じ込めた。まったく異常なことです。国家権力が大きな国内供給の活力さえ制圧した別のケースもあります。事実上、これらはかなり当たっている2つの例です。また同じ事柄です。キューバのケース、分かっていますよね。あなた方がケネディ政権に遡るなら、いいですか、キューバに対する戦争が事実上中断したとき、非常に露骨だった。国務省はモンロー・ドクトリンに戻って、キューバの指導者が米国政策に対する公然たる反抗が成功したと唱えたことは許せないと語った。ケネディのラテンアメリカ顧問アルトゥール・シュレジンジャーは、彼の「ラテンアメリカのミッション」という報告書でケネディに次のように報告した。「問題は、半球(南北アメリカ大陸)で同じ圧政に耐えている人々にアピールして自らの手で行動を起こすというカストロの思想です。あなたはそんな思想を広めさせてはならない。」もう一度言いますが、それがマフィア・ドクトリンです。経済的利害とするどく矛盾するほど十二分に強力だ。でも、これらのケースは珍しいことです。そして、それらがアメリカ合州国のドクトリンを照らし続けているのです。
司会アンソニー・アルノーブ:これが最後だと思います。すべて答えてもらいましたがもう時間がありません。
ノーム・チョムスキー:OK、Q「インテリジェンスとは何か?」
そう、それは疑いなきところに欠けている何かです。そう考えてみましょう。ありがとう。…彼らは合州国をバカにした。でもあなた方はそう考えたりはしません…。
【以上、講演終了】
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〔eye3130:151119〕
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