空爆強化で一般住民の死傷者急増―シリア人権団体が必死の訴え - シリア紛争解決への転機に④ -
- 2015年 11月 27日
- 評論・紹介・意見
- イスラム国中東坂井定雄
最も信頼できるシリアの人権団体シリア人権監視団(SOHR)は、アサド政権、イスラム過激派「イスラム国(IS)」、反政権・反IS勢力の三つ巴の内戦が続くなか、ISによるロシア旅客機爆破テロとパリでの連続テロ事件が発生、米国と有志国に加え、ロシアとフランスのシリア爆撃が強化され、一般住民の死傷者がさらに増加している悲惨な現状を世界に訴えた。その中で特にSOHRは、政府軍によるバレル爆弾(ドラム缶状の容器に爆薬とクギなどを詰めた殺傷用残虐兵器)による一般住民への爆撃継続を非難するとともに、ロシア軍に対して爆撃の目標をISの軍事目標に限定し、一般住民の被害を無くすよう求めている。
この緊急報告は、20日に発表され、世界のメディアで報道されたが、一部不正確な報道もあるので、全文をここに紹介したい。
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ロシア空軍は166人の女性と子供を含む一般住民403人を殺し、アサド政権(シリア政府)の空軍による爆撃は過去13か月間に約7千人の一般住民を殺した。
2014年10月20日から2015年11月20日までの1年1か月間に、政権空軍よって13の県の農村、町、市に対する4万2,234回の爆撃を記録した。(注:回数は1機1回の攻撃の累計)
政権軍のヘリコプターはリフダマスク、アレッポ、ホムス、アルハサカ、デイル・エツォ、ル、アルカンタラ、ダラー、アルスワイダ、イドリブ、ラタキア県の各地に2万2,370個のバレル爆弾を投下した。
政権空軍機はダマスカス、リフダマスク、アレッポ、ホムス、ハマ、アルハサカ、デイル・エツォル、アルラッカ、ダラー、アルスワイダ、イドリブ、ラタキアを少なくとも1万9,864回爆撃した。
SOHRは政権の空軍機とヘリコプターによる爆撃で、女性69人、子供1,436人を含む一般住民6,889人の死亡を記録し、約3万5千人が負傷、数万人が離散した。空爆は公的、私的資産を破壊し、被爆地域に甚大な物的損害を与えた。
それに加え、ロシア空軍機による数百回の爆撃で、子供97人、女性69人を含む403人の民間人と、反政府・反IS武装組織とISの戦闘員381人が死亡した。
また、シリア各地で政権側空爆とバレル爆弾投下によって、ISと反政権・反IS勢力双方の戦闘員3,702人が死亡、数千人が負傷した。
シリア各地での軍事目標と非軍事目標を区別しないアサド政権とロシア空軍による空爆のエスカレーションによって、シリア国民に対して毎日行われている殺人に関して、SOHRは国際社会の道徳的責任を問い、国連安全保障理事会に対して、シリア国民の毎日の殺人と離散を止め、シリア国民が差別なしに民主主義、正義、自由そして平等の権利を得るために真剣に助力するよう要請する。また、安全保障理事会に対し、シリアでの軍事行動の停止を求める拘束力のある決議の採択と、国際司法裁判所に戦争犯罪と人道に反する罪を提訴するよう、要請する。
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SOHRの上記発表には、米国はじめ有志国の爆撃による死亡者数については触れていないが、これまでに全体で3,649人が死亡したとの情報をSOHRが公表した、との報道もある。ISを攻撃する米軍、フランス軍の発表では軍事目標を攻撃したとしているが、ISの本拠地ラッカの市内の目標などでは目標周辺部に一般住民が生活しており、その犠牲は避けられないはず。またロシア空軍が、米軍とフランス軍に比べ、目標にするISの部隊や施設の位置情報がどれほど正確に持っているかは、不明だ。いずれにせよ、米軍、フランス軍、ロシア軍の爆撃が拡大するほど、一般住民の被害が増大するのは避けられない。しかし、空爆は、ISの軍事目標から石油施設、密輸ルートまで拡大しつつあり、双方の軍事情報の共有、作戦の調整が進む可能性はある。いすれにせよ、IS壊滅作戦を成功させ、さらにシリア内戦の停戦を一日も早く実現しなければ、シリア国民の犠牲を終わらせることはできない。
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