ナチと軍国日本のシンボル―反感受けNY地下鉄広告撤去
- 2015年 12月 26日
- カルチャー
- ネットストリーミング広告隅井孝雄
アマゾンがインターネットテレビ放送のために制作した作品の広告に対し、ニューヨーク州知事や市長が異議を唱えたことで撤去され、物議を醸している。
このテレビ映画は、ナチや日本が第二次大戦で勝利したあとアメリカを支配するという作品だが、地下鉄の一両分の座席をすべて、ナチス紋章や日本海軍旭日旗とアメリカ国旗をミックスした旗のようなデザインの座席に変えた。使われた電車は通称「シャトル」と呼ばれる、グランドセントラル駅とブロードウエー42丁目駅を行き来している路線。マンハッタンの目抜き通りを往復しているため、路線は短いが乗降客は多い。
衝撃のアマゾン地下鉄広告
この広告座席はアマゾンが11月20日からネットストリーミングで放送を始めた「The Man in the High Castle」という「ネットテレビドラマ」広告で、一両分の座席カバーをすべて覆った。また車体には主演俳優の写真とタイトルを掲載したほか、地下鉄の260駅にもポスターを張り巡らせた。
地下鉄一両分のシートが、アメリカ国旗に似たストライプの真ん中に、ナチのマークや日本の旭日マークがはめ込んであるデザインが、戦後の70年のいまでもアメリカ市民の心情に与える衝撃の大きさは、われわれ日本人の想像をはるかに超えるものがあると思われる。
アマゾン広告は11月24日に登場、12月6日まで広告契約を結んでいた。ところが一部乗客からクレームが入ったこともあり、アンドリュー・クオモ、ニューヨーク州知事が直々地下鉄トーマス・プレンジャガスト理事長に直接電話して、広告の撤去を求めた、またニューヨーク市のビル・デブラシオ市長もアマゾンに対し「この広告はホロコーストや第二次大戦の被害者はもとより、ニューヨーク市民全体を侮辱するものだ」と抗議した。
地下鉄当局は、広告の載っている車両を24日深夜に撤去して、翌日から代替車両で運行した。
ニューヨーク州当局者は内部問題なので言論表現の自由には抵触しない、と発言している。ニューヨーク市の地下鉄は州政府が運営、監督している。
原作は歴史書き換え小説
このドラマはPhilip K Dick 原作の小説をドラマ化したもので、第二次大戦でアメリカが敗れ、ナチドイツと帝国主義日本に東西に分割統治されるという空想ドラマ、10回シリーズ。原作小説は1962年に刊行された。歴史を書き換えて描くいわゆるオルターナティブ・ノーベル(歴史書き換え小説)というジャンルの作品である。第二次大戦は1947年まで続き、それから15年後のアメリカという設定。ルーズベルト死去の後のアメリカの大統領は弱体で、ナチと戦う英国とソビエトを助けられず、ナチはアメリカの東半分とソビエト連邦を支配下に、日本はアメリカ西半分を占有、ニュージーランド、オーストラリアなど太平洋一帯も領有するという設定。1963年、ファンタジー分野の優秀作品に与えられるユーゴ文学賞を受賞した。
ネットストリーミングドラマはいまアメリカで大流行
今回の作品はいわゆる「ネットストリーミング」として、アマゾンが自主制作した目玉作品の一つ。インターネット経由だが大型画面で視聴される。初回の放送はパイロットプレミアと呼ばれ定時だが、その後好きなときに繰り返し視聴出来る。「ネットストリーミング」はNetflix, Fuluなどが日本でも知られているが、売り上げが映画の興行収入、テレビの広告収入に迫るまでになっており、映画界、テレビ界の脅威となっている。最近アマゾンもこの分野に進出、オリジナル大型新作ドラマ(シーズンパイロット)を次々配信している。
The Man in the High CastleはNetflixなど先発ストリーミングに挑む大作。今回の広告引き揚げは打撃だといえるが、宣伝という意味ではまたとないチャンスでもある。アメリカ国内では大々的に報道されているので、視聴が増える可能性もある。
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