1.16現代史研:その後の質疑応答
- 2016年 1月 19日
- スタディルーム
- 染谷武彦柴垣和夫生方卓
柴垣和夫先生
昨日(17日)の先生からのメールを回覧しましたところ、早速以下のお二人から質問がありました。出来ましたら、この質疑と先生のお答を、ちきゅう座で公開させていただきたいと考えています。宜しくお願いいたします。 合澤清
どこまで十分なお答えできるかわかりませんが、染谷さんと生方さんお二人の質問のそれぞれの後に、回答を記します。 柴垣
質問事項(その1)
こんにちは、染谷武彦です。
柴垣先生に直接メイルするのは恐れ多いです。
以下が私の質問です。
「労働力商品化の止揚」の旗印を下ろさないのは、実は不可能なる共産主義に夢を
託せということと表裏一体で誠実さに欠けるのではないでしょうか。
労働を結合しかつ個人の自律性を尊重する普遍的制度とは、(私自身も苦々しい結
論とは思いますが)事実上市場機構以外にはないのではないでしょうか。計画は
管理を必至とし、管理は強制を必至とします。なるほど、計画の決定とその遂行
において、管理されるすべての成員が自身の要求が十分に反映されたと感得しえ
れば、ここでの強制はなくなります。しかし、こうした統合が可能なのは個人が
社会の全成員を見渡せるごく限られた小規模集団・社会に過ぎません。完全に統
合された社会を志向して夢を託すのは、リアリティに欠けます。市場機構を普遍
の制度として出発する以上、労働力商品化の止揚を宣揚するのは理路が通らない
のではないでしょうか。(二松学舎大学教員・ロシア経済専攻:染谷武彦)
【柴垣の回答】
私は、市場経済を全面的に廃棄して計画経済に置き換えるというかつてのソ連が実行していた社会主義を考えているわけでは全くありません。むしろそれは不可能で、市場経済そのものは人類の知恵が作り出した成果の一つとして利用されていくと考えております。もともと市場経済は資本主義の前提ではあってもそれとイコールではなく、古代中世の社会にも広く存在し、生産力の発展のひとつの動力になっていたと思います。問題は市場経済一般ではなくて、資本主義を資本主義たらしめている労働力の商品化です。当面考えられる社会主義は、この労働力の商品化の止揚を目標にすべきで、普通の財貨(生産手段や生活資料)やサービスは市場での商品流通を通して経済原則を充足することになるだろうと考えています。
ただ、労働力の商品化が止揚されるためには、技術的に単純労働の大部分がロボットで置き換えられ、人間が行う社会的労働の大部分が知的熟練労働となる生産力の段階が必要で(すでに先進諸国はその段階に到達しつつあると思いますが)、そこでは労働力の商品化に代わって、さまざまな種類の(熟練)労働が商品化するのではないかと考えております。現代資本主義に於いても、雇用関係としては労働力を売っているように見えても(労働力の売買という形式をとっていても)、大工さんは職人的熟練を売っているのであり、大学の教員は知的熟練を売っているのであって、労働力を売っているのではないのではないでしょうか。
私は社会主義経済論の専門家ではないのですが、行きがかりで関連した論文ないしノートを何本か書いていますので記しておきます。1)拙著『現代資本主義の論理』(日本経済評論社、1997年、第1章「福祉国家・日本的経営・社会主義」。初出は東大社会科学研究所紀要『社会科學研究』43巻1号、1991年) 2)「労働力商品化の止揚をめぐって−−宮田千蔵氏の批判に答える−−」(『武藏大学論集』50巻4号、2003年3月) 3)「クリーピング・ソーシャリズムについて−−榎本正敏編著『21世紀社会主義化の時代』を読む」(『武藏大学論集』57巻・3・4合併号、2010年3月)
質問事項(その2)
1、連合、基幹労連。民主党の基盤。この「会社主義」は原発推進・武器輸出推進の「労働貴族」。経営者と同じ、「資本の論理の人格的体現者」で資本そのものです。疎外されない自己活動どころではありません。
「孫崎 享 @magosaki_ukeru 1月15日 連合:共産との選挙協力に反対=神津連合会長、「各地方で民主党中心擁立無所属候補を、後から共産党が応援することはあっても、最初からその輪の中に共産党があるのは違う」憲法違反を平然とする安倍政権の深刻さを考えれば、リベラル勢力の統一は何よりも必要。脱原発問題といい、連合がガン。」
2、戦前の三井三菱と阿片と東條の関係聴きたかったけれど。
3、財閥系グループと経団連の関係も聴きたかったけれど。
4、日本の財閥系グループと欧米の財閥ファミリーとの戦前戦中戦後にわたる関係についても聴きたかったけれど。(明治大学教員・哲学、社会思想:生方卓)
【柴垣の回答】
1、労働貴族としての連合幹部と傘下の労働者=従業員とを同一視することはできません。前者について、おっしゃることのそう異論はありませんが、後者については、彼らの主観的には自己実現的労働が、客観的には企業(資本)の利潤追求という資本家(経営者)的労働になっていることが問題で、その点と、その克服の課題については、上記拙著1)の38〜41ページで論じていますので、ご関心があればご参照ください。
2、戦前の財閥研究は、旧著『日本金融資本分析』(東大出版会、1965年)『三井・三菱の百年』(中公新書、1968年)執筆以降は全くやめて、研究対象を戦後の日本経済と現代資本主義の研究に移しましたので、ご質問の件については存じません。
3、財閥系グループが複数存在するためだと思いますが、会長職には新日鉄とか財閥系グループの中では傍系の位置にある企業(トヨタや東芝など)の社長経験者が就任することが多いのですが、副会長職には必ず各グループの中核企業の社長・会長やその経験者が顔をそろえています。その点で、経団連は名実共に日本の支配的大企業の利害を代表する組織と言えると思います。
4、その点まで調べたことはありません。
以上、とりあえずのご返事です。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study699:160119〕
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