完全護憲の会より 違憲性への警告11号
- 2016年 3月 17日
- 交流の広場
- 完全護憲の会
安倍政権の原発再稼動推進は憲法違反!
3月9日、大津地裁は高浜原発3、4号機の運転差し止め仮処分決定を出した。大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた福井地裁判決(2014.5.21)、福井地裁の高浜原発3、4号機運転差し止め仮処分決定(2015.4.14)に続くもので、しかも稼働中の原発を停止させるという初めての画期的な判決である。ようやく、原発はやめて欲しい、という国民多数の声が司法に届き始めたと言えよう。
だが、この大津地裁決定が出た翌日、安倍首相は記者会見において「再稼働を進めるというのが政府の一貫した方針であり、この方針には変わりはありません。」と発言し、司法の判断を一顧だにしない姿勢をあらわにしたのである。
福島第一原発事故による放射能汚染によってふるさとを奪われ、5年経ったいまも10万人もの人々が避難を強いられている現実を前にしてなお、原発を推進するというのである。
安倍首相の言う「美しい国」とはどういう国なのか。現に国土の一部が汚染され、人間が住めない状況をつくり出しているにもかかわらず、万が一にも次の原発事故を発生させたら、日本列島は汚染列島と化すのである。地震の活動期に入って巨大地震に襲われる可能性が高いことも科学的に予測されているのにである。仮に高浜原発が福島原発のような事故を起こしたなら、日本文化の象徴のような京都・奈良や大都市の大阪をも含め、近畿、北陸、東海地方の広範囲に被害が広がる恐れがあるのである。想像するだけでも恐ろしいことである。
福島第一原発事故による被害の大きさを実感した国民の意識は大きく変化した。約6割の国民が脱原発を願うようになったのである。だが、安倍自民党政権はこの国民の意思とは逆の原発回帰・再稼働路線を突き進んだ。
定期点検も含め全原発が停止していたにもかかわらず、「原子力規制委員会」の新規制基準を「世界で最も厳しいレベル」とし、これに合格したものは再稼働するとして、川内原発1、2号機、高浜原発3、4号機を再稼働させ、さらに次々と残りの原発を再稼働させるつもりなのだ。しかも大津地裁決定が指摘する如く、福島原発の事故原因究明は「道半ば」であり、使用済み核燃料の最終処分場も定まらない状況での再稼働なのである。
さらに懸念されるのが安倍首相が熱心に取り組んでいる原発の輸出である。日本国内においてさえ福島原発事故の全容が把握できず、事故はいまもって進行中なのであり、なおかつ、使用済み核燃料の最終処分方法も確立できていないものを他国に売りつけるなど、正気の沙汰とは思えない。輸出先の国で事故が発生したら、その責任は誰がとるのであろうか。福島第一原発事故の責任も取らない日本政府が、大事故の可能性のある原発を他国に売り歩くなど、無責任と反道徳性の極みである。
何故に原発再稼働や原発輸出などという理性的に考えたらあり得ない選択をするのであろうか。すべては原発利権のため、「原子力ムラ」の既得利権のためである。安倍政権がこれら既得利権勢力に支えられているからだとしか言いようがない。さらに、2012年6月に改定された原子力基本法に「我が国の安全保障に資することを目的として」との文言が挿入されたことにも表れているように、すでに破綻が明白な核燃料サイクル計画に日本政府が固執しているのは、潜在的核保有能力を手放したくないからである。
こうした原発利権や潜在的核保有能力を保持しようとする安倍政権のありように鉄槌を加えたものこそ、大飯原発運転差し止め福井地裁判決、福井地裁の高浜原発運転差し止め仮処分決定、そして今回の大津地裁高浜原発運転差し止め仮処分決定なのである。
この一連の判決の基礎となったのは、大飯原発3、4号機運転差し止め福井地裁判決(樋口英明裁判長)である。
福井地裁判決は、「個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、その総体が人格権と言える」とし、「多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等を並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的に許されないと考える」と断じ、「このコスト問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止で多額の貿易赤字が出るとしても、国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻せなくなることが国富の喪失だと当裁判所は考える」と、まさに目の覚めるような核心を突く見解を提示したのである。事実上の違憲判決である。
今回の大津地裁判決で山本裁判長は、原発事故による「環境破壊の及ぶ範囲はわが国を越えてしまう可能性さえある」と指摘し、新規制基準も「直ちに公共の安心、安全の基礎となると考えることをためらわざるを得ない」と指弾する。そして、福島事故の際、「事故発生時に影響の及ぶ範囲の圧倒的な広さとその避難に大きな混乱が生じたこと」に鑑み、「国家主導での具体的な可視的な避難計画が早急に策定されることが必要であり、この避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準(……)を策定すべき義務が国家には発生している」と指摘した。そのうえで、本件各原発について、過酷事故対策についての設計思想や緊急時の対応に関する問題点、基準地震動策定に関する問題点、津波対策や避難計画に関する疑問等を挙げた上で、「住民らの人格権が侵害される恐れが高い」と判断し、原発の停止を命じたのである。
目先の既得利権のために、次の世代の子どもたちの生活やこの緑あふれる豊かな国土がどうなろうと知ったことではない、とするかのような原発再稼働は、憲法第13条の人格権や第25条の生存権を侵害しており、憲法違反と言わねばならない。
「完全護憲の会」公式ホームページより転載
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