こんな日本に、誰がした?
- 2016年 4月 3日
- 時代をみる
- 加藤哲郎原発安倍米大統領選
2016.4.1 数週間日本を離れていたあいだに、風景が変わったように感じられます。戦争法=安保法制が施行されて、自衛隊の海外派遣・戦争参加が可能となりました。3.11五周年なのに、原発再稼働はすでに実施され、東日本大震災・福島原発事故の教訓は政治に生かされていません。むしろ、安全保障からもエネルギー政策からも、ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマの体験に眼をつぶり、日本の核依存を強める方向でのバックラッシュが進んでいるように見えます。寒い季節から桜満開への自然の営みと平行して、新たなる戦前、言論統制社会に忍び寄っている気配が感じられます。3・11関連のニュースを見るつもりで録画予約していた「クローズアップ現代」はいつのまにか終了して、女子サッカーの試合が映っていました。ニュースショーのキャスターも、変わったようです。今日から生活必需品や医療費の値上げ、政局では消費税率アップの延期を口実にした衆参同時選挙の可能性が強まり、首相の口から憲法明文改正の意向が繰り返されています。それなのに、世論調査では、内閣支持率・自民党支持率がアップ、野党再編・選挙共闘への期待は薄く、アベノミクス期待の幻想は残ったままです。北朝鮮の核を脅威と見てか、既成事実化された戦争法の容認も増えていて、このまま衆参同時選挙に入れば、安倍政権与党勝利の公算大です。4月24日投票の衆院北海道5区補選の結果が、政局にどう響くか、注目です。
パリに続くブリュッセルの都市テロ、トルコでもパキスタンでも続く自爆テロ、ベルギーでは原発が標的になったことも明るみに出て、世界中が暴力と不安と恐怖にさらされています。ヨーロッパへの流入が続く難民、オリンピックを控えたブラジルの政情不安、中国の景気停滞と民衆暴動、中東、ウクライナ、南シナ海にも火種は充満しています。それらに対する「抑止力」が、米国との核軍事同盟と自国の防衛力強化というのが安倍内閣の選択ですが、それは同時に、戦争とテロの標的になる蓋然性を高めます。暴力と抑圧が常態化してくると、言論文化の自由が狭まります。宣伝と煽動の情報操作が強まります。新聞・出版物から電信・電話・ラジオ、映画・テレビからインターネットへと情報媒体=メディアが広がっても、その内容=メッセージが画一化されると、民衆のイメージ・夢、身体の動きと仕草にまで支配が浸透していきます。世論が「美しく強い国」や「強力な指導者」を求めるようになります。ジョージ・オーウェル『1984年』の描いた世界です。一見いつもと変わらぬ日常生活世界も、自由に交信できるソーシャル・ネットワークの世界も、ちょっと外界から眺めて見ると、萎縮しつつあるように感じられます。
外から日本を眺めたのが、アメリカ合衆国であったことが、こんな気分にさせたようです。彼の地の方は、大統領予備選の真っ最中。共和党のトランプ旋風は、止まりません。イスラム教徒の入国禁止からメキシコ国境の壁、ISへの核使用に堕胎女性の犯罪視ーー言いたい放題のヘイトスピーチが、格差社会の白人貧困層の「強いアメリカ」願望に結びつき、代議員数を増やしています。ワシントンDCのエスタブリッシュメントは、はじめは冷たくあしらっていたのに、どうやらホンモノになりつつあるので大慌て。もともと極右のクルーズ候補への保守票集中もままならず、夏の党大会までもつれこみそうです。一方の民主党は、日本の報道ではヒラリー・クリントン圧勝を既定の道としていますが、ダークホース・サンダース候補の健闘こそ、アメリカ大統領選のもう一つのドラマです。特に大学生など若い人々や知識人層には、民主社会主義者と自称するサンダースへの期待が結構あります。特別代議員制度で最終的に大統領候補がヒラリーになるにしても、民主党の選挙政策、共和党との対立点づくりに、サンダースの善戦は確実に刻印されそうです。現地で意外だったのは、初の女性大統領になりうるヒラリー・クリントンの女性の中での不人気。トランプやサンダースの支持層にとっては、ヒラリーは、既成エスタブリッシュメントの代表、格差社会の頂点にある1%の特権階級です。オキュパイ・ウォールストリート(OWS)の活動家たちが、サンダースを草の根で支えています。こうした米国二大政党の変調に右往左往しているのが、日本大使館をはじめとした在米日本人社会。日米安保を揺るがすトランプの過激な発言に眉をひそめても、いまや中国の台頭によって影響力も存在感も示し得ないもどかしさ。安倍首相の頼る日米同盟も、所詮は日本の片想いで、ホワイトハウスの動向に左右されます。こんな日本にしたのは、いったい誰なんでしょうか。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://members.jcom.home.ne.jp/tekato/home.html
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〔eye3373:160403〕
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