また始まった安倍首相の見え透いた得票戦術
- 2016年 4月 7日
- 時代をみる
- 増税安倍田畑光永
暴論珍説メモ(143)
このところまことに不愉快である。またもや安倍首相の露骨な、それだけに俗耳に入りやすい得票戦術というか、陰謀というか、その工作が続いているからである。
勿論ご記憶と思うが、一昨年(2014年)12月の衆院選で安倍首相は翌15年10月に予定されていた消費税の10%への増税を1年半延期して17年4月からとすることを認めてほしい、を争点(?)とした。簡単に言えば、増税を延期してもいいですか、と国民に問いかけて、賛成なら自民党へ投票してください、というわけだ。
誰が見たって、ずるい。どうころんだって、「増税延期はけしからん、予定通り税金をたくさん取ってくれ」、という声が多数となるとは考えられない。果せるかなこの選挙で自民党は公認候補だけで293人もが当選した。
今年は7月に参議院選挙がある。すでに昨年末の本欄で「安倍首相の買収選挙を許すな」と書いたが、この参院選対策としてはすでに昨年度の補正予算に3624億円を計上して、低所得年金受給者に1人3万円を支給することを決めてある。1208万人分である。つまり1票3万円で老人票1208万票を買おうというのである。国民年金の支給額は安いから、もらえる人にもらうなとは言えない。しかし、そこにつけ込む手口はなんとも腹立たしい。
ところがそれだけではまだ足りないとみて、安倍首相は新たな策略というか、陰謀というか、を巡らしている。目的は参議院選挙だけだと、野党の選挙協力が比較的に出来やすいので、それを分断するために衆参同日選挙にして一気に衆参両院で憲法改正を発議できる3分の2を確保しようということであろう。
手段として何を使うか。やはり前回味をしめた消費税の増税延期しかない。しかし、すでに1度延期したものをまた延期するというのだから、よほどうまくやらなければならない。
話を分かりやすくするために、ここで消費税増税決定と延期の経緯を振り返っておこう。
4年前の2012年8月、年々増え続ける社会保障費に備えるための「税と社会保障の一体改革」として、消費税を5%から10%へ2段階に分けて引き上げる法案が民主、自民、公明などの賛成で成立した。民主党野田内閣の時であった。そして第1段階として2014年4月1日から8%への引き上げが実施された。自民党安倍内閣の時である。
しかし、この増税は景気にとってはかなりのブレーキとなった。そこで、このまま予定通り15年10月1日に再度10%へ引き上げて大丈夫だろうかという声が高まった。それをとらえて放ったのが冒頭に述べた「増税を延期してもいいですか」を争点に仕立てての解散総選挙という強硬策であった。
それがうまくいったので、また同じことをと考えるのは自然だが、なにしろ与野党が合意して法律にしたものを、前回延期したわけだから、ならなる延期に際しては「景気の動向を見て」引き上げを再考するといういわゆる「景気条項」が削除され、今度は景気を理由に再延期することは法律的にできなくなっている。だから政府は「リーマンショックのような世界的な景気落ち込みとか、東北大震災のような大災害が起こった場合を除いて」再延期はしないとこれまで言い続けている。
リーマンショックや東北大震災級の地震はめったなことでは来ないから、このままでは再延期はできない。そこから今回の猿芝居が始まっている。政府とは別に自民党の稲田政調会長とか、内閣参与とかが「増税して、景気を悪くしては元も子もない」とか、「景気が悪ければ増税しても税収が増えないこともある」などと、大っぴらに再延期論を唱えている。政府の方針と違うことを与党や内閣の人間が堂々と発言しているのに、安倍首相はやめさせようとしない。それどころか時にはそちらに味方するようなことも口走る。
さらに先月には5月の伊勢志摩サミットに備えるという口実で、J・スティグリッツ、P・クルーグマンといった著名な外国の経済学者を招いてお説を拝聴し、彼らの口から日本国内向けに増税は再延期したほうがいいと言わせている。世界的に需要が減退している時だから、外国の学者が日本に需要をさらに減らすようなことを言うはずがない。こんな分かり切った芝居をうつのも、要するに世論工作である。
つまり、安倍首相は日本国内に「増税再延期」の声を巻き起こしたいのである。それに対してご本人たちは容易にそれに同調せず、公約だからと17年4月増税を主張し続ける。そのように対立をあおって、自らはあくまで公約順守、法律順守の姿勢をとり続け、いよいよとなった時に「それでは国民の判断に従いましょう」と「再延期してもいいですか」を争点にして衆参同日選挙に持ち込む、これが彼らの策略である。
14年の場合と本質は同じである。ただ2度目とあって少し芝居の手が込んでいるだけで、国民を目先の利害で釣ろうとする買収戦術であることには変わりはない。
これに対して、国民の側はどう立ち向かうべきか。増税を再延期すべきかどうか、という土俵で話をするのはすでに安倍首相の術中にはまっている。民進党の岡田代表は3日のテレビ討論で「再延期するなら安倍首相はやめるべきだ」と口走ったようだが、こういう「反撃」は拙速の典型だ。こんなことを言ったって民進党に票は集まらない。筋を通したつもりで罠にはまっている。
ここは再延期の是非ではなくて、公約を破ってまで再延期するなら、再延期に伴う税収減(消費税1%あたりの税収は約2.5兆円だから、2%で約5兆円)をどう穴埋めするのかの具体策を安倍首相ないしは再延期論者に求めるべきである。口では保育所を作ります、特養ホームを作ります、待機児童を減らします、介護離職者をなくします、と耳障りのいいことを言いながら、目先の票集めのために、社会保障財源の手当てをないがしろにする姿勢をきびしく追及すべきである。
野党も他人事ではない。揚げ足取りではなくて、社会保障財源をどう考えるか、自らの立場を明らかにしなければならない。やはり予定通り増税すべきか、それともほかに策を講じて税収増を見込むか、歳出減を実現するか、自民党が減税した法人税はそのままでいいのかなど、議論すべきことはたくさんあるはずだ。
いずれにしろ、現ナマで票を釣る安倍政権の姑息極まりない猿芝居を二度も成功させてはならない。日本国民はそんなにバカではないはずではないか。(160404)
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