アベ政権迎合の立場からの放送メディア・バッシングに警戒を
- 2016年 4月 8日
- 時代をみる
- 澤藤統一郎
例のアベ政治御用集団・「放送法遵守を求める視聴者の会」の蠢動がやまない。
4月1日付で、「TBS社による重大かつ明白な放送法4条違反と思料される件に関する声明」を発表し、記者会見をしている。あろうことか、TBSを標的にスポンサーへの圧力をかけることを広言するに至っている。
アベチルドレンが百田尚樹を招いての会合で、「マスコミをこらしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働き掛けてほしい」「悪影響を与えている番組を発表し、そのスポンサーを列挙すればいい」などと気勢を上げて、世論からの厳しい指弾を受けたのは、昨年(2015年)の6月。議員に代わって、今度は右派「言論人」たちが、気に食わないメディアのバッシングに一役買って出たということなのだ。一見在野の如くだが、明らかにアベ人脈の面々。
この声明の一部を抜粋する。カッコ内は私(澤藤)の感想。
「勿論、放送法第4条に定められた『政治的公平性』や『多角的論点の提示』は曖昧な概念であり、このような概念を根拠に政府による罰則を適用するのは極めて危険である。(そのとおり) が、今回のTBSによる安保法制報道は、議論の余地も政府による恣意の介在も許さない、局を挙げての重大かつ明確な放送法違反とみなし得よう。(そんな決め付けが危険ではないの?) 残念ながら、現行の標準的なガイドラインに従えば、TBS社は電波停止に相当する違法行為をなしたと断定せざるを得ないのではあるまいか。(「あるまいか」は「断定」とは矛盾するね) ただし、誤解ないように強調したいが、当会は、政府が放送内容に介入することには断固反対する。(本当? いったいどっちなの?) もしも電波停止のような強大な権限が、時の政権によって恣意的に用いられたならば、民主主義の重大な危機に直結する。いかなる政権も、どんな悪質な事例であれ、放送事業の内容への直接介入に安直に道を開いてはならない。(あなたたちが、その道を開こうと先導しているではないか)」
どうも何を言っているのか、よく分からない。
声明は、TBSが放送法違反を犯したと決めつけたうえで、TBS本社と、「倫理向上委員会を名乗る任意団体BPO」と、「TBSの報道番組のスポンサー企業各位」と、国会のそれぞれに「要望」を申し入れている。
この声明のBPOに対するむき出しの敵意が際立っており、「放送法遵守を求める視聴者の会」の性格をよく表している。
TBSを名指しの攻撃に、さすがにTBSも反論した。昨日(4月6日)付の「弊社スポンサーへの圧力を公言した団体の声明について」とするコメント。短いものなので全文を引用する。
「株式会社TBSテレビ
弊社は、少数派を含めた多様な意見を紹介し、権力に行き過ぎがないかをチェックするという報道機関の使命を認識し、自律的に公平・公正な番組作りを行っております。放送法に違反しているとはまったく考えておりません。
今般、「放送法遵守を求める視聴者の会」が見解の相違を理由に弊社番組のスポンサーに圧力をかけるなどと公言していることは、表現の自由、ひいては民主主義に対する重大な挑戦であり、看過できない行為であると言わざるを得ません。
弊社は、今後も放送法を尊重し、国民の知る権利に応えるとともに、愛される番組作りに、一層努力を傾けて参ります。」
公平・中立を求めるという名目での政権迎合のメディア攻撃。アベ政権が改憲を公言することができるのは、このような政権迎合の輩の蠢動の後押しがあってのことなのだ。
「視聴者の会」の声明自身がいうとおり、『政治的公平性』や『多角的論点の提示』は極めて曖昧な概念であり、どのようにも論じることができる危険を内包している。
このことに関連して、『法と民主主義』の最新号(2・3月合併号)が、「アベ政権と言論表現の自由」を特集している。
http://www.jdla.jp/houmin/
主な記事は、以下のようなもの。
◆安倍政権によるメディア介入と言論・表現の自由の法理………右崎正博
◆情報統制に向かう日本 進む放送介入………田島泰彦
◆安倍政権の圧力とNHK政治報道の偏向………戸崎賢二
◆安倍政権のメディア政策──その戦略と手法………石坂悦男
放送界での最大の問題メデイアは、TBSではなく明らかにNHKである。
「安倍政権の圧力とNHK政治報道の偏向(戸崎賢二)」は、「NHK『ニュースウオッチ9』が報道しなかった事項」を一覧表にまとめている。テレ朝の「報道ステーション」、TBSの「NEWS23」との比較においてである。
テレ朝とTBSの両者が報道して、NHKが報道しなかった事件(あるいは言葉使い)の主なものは次のとおり。
5月20日【党首討論】ポツダム宣言について「詳らかに読んでいない」との安倍総理の答弁
5月28日【衆院特別委】安倍総理「早く質問しろよ」などのヤジ(NHKは翌日報道)
6月1日【衆院特別委】日本に対して攻撃の意思のない国に対しても攻撃する可能性を排除しないとする中谷防衛大臣の答弁
6月1 日 衆院特別委】「イスラム国」に対し有志連合などが行動する場合後方支援は法律的に可能との中谷大臣の答弁
6月中旬 憲法学者へのアンケートほか、「違憲」とする憲法学者が多数であることの報道
7 月1 日 自民党「勉強会」の発言について「威圧」「圧力」という表現使う
7月15日【衆院特別委】採決に「強行」という表現使う
7月29日【参院特別委】戦闘中の米軍ヘリへの給油を図解した海上自衛隊の内部文書について共産党小池副委員長が追及
8月5 日【参院特別委】「後方支援で核ミサイルも法文上運搬可能」という中谷大臣の答弁
8月19 日【参院特別委】安保法案成立を前提とした防衛省文書で中谷大臣の矛盾する答弁を共産党小池副委員長が追及。
8月下旬 ノルウェーの平和学者、ヨハン・ガルトゥング博士が来日、安倍首相の「積極的平和主義」は本来の意味とは違うと批判
9月2日【参院特別委】自衛隊統合幕僚長が訪米した際の会議録について共産党仁比議員が追及
9月17日【参院特別委】採決で「強行採決」という表現を使う
情報源はもっぱらNHKという視聴者がいたとすれば、恐るべく偏頗な情報に操作されていることになる。なるほど、アベ政権と籾井NHK、持ちつ持たれつの関係がよく見えてくる。
このことは、3月31日の参院総務委員会質疑でも話題とされている。民進党の江崎孝議員が、この「法と民主主義」を取り上げて籾井会長らを追及している。上記の一覧表をパネルにして、NHKの報道姿勢の偏向ぶりを問題としたのだ。
「NHK」対「テレ朝・TBS」の対立の構図。けっしてそれぞれの側の応援団が相互に批判し合って、水掛け論になっているのではない。中立や公平という用語は、すべてを相対化してしまう危険を内包している。視聴者が真に関心をもつべきは、時の権力に不都合な事実が萎縮することなく放送されているか否か、という一点である。
真実を曇らせる力をもつものは権力である。その権力に遠慮も迎合もすることのない姿勢があってこそジャーナリズムと呼ぶにふさわしい。権力は、自らの正当性を訴えるのに十分な情報発信力をもっている。放送において、臆するところのない権力批判に圧倒的なスペースが割かれて当然なのだ。その基準からは、明らかにNHKがおかしい。TBSはそれよりはマシで、当たり前というだけのこと。
「視聴者の会」はアベ政権の外にあって、アベ改憲政権のお先棒担ぎ。この蠢動に動じてはならないが、軽視してもならないとおもう。
(2016年4月7日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.04.07より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=6698
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3381:160408〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。