SJJA&WSJPOの【西サハラ最新情報】No156 国連事務総長の西サハラ最終報告
- 2016年 4月 22日
- 評論・紹介・意見
- 平田伊都子西サハラ
2016年4月18日(日本時間4月19日)、国連事務総長パン・ギムンが彼の任期中で最後となる、西サハラ年次報告書を国連安保理に提出しました。 1991年に国連が「国連西サハラ住民投票」を提案して、1975年から砂漠の死闘を繰り広げてきたモロッコ正規軍とポリサリオ西サハラ難民軍は停戦しました。 そして1991年4月29日に、MINURSO(国連西サハラ住民投票監視団)が、住民投票に向けて設置されました。 しかし、モロッコが西サハラ住民投票を拒絶したため、国連住民投票は25年経った今も実施されていません。
これまで国連は、植民地(未確定地域)と定めた地域の将来はその地域住民自らが決めるとし、住民投票という解決策をとってきました。 西サハラも同様で、西サハラ住民が自ら、<モロッコ帰属か西サハラ独立か>を決めるべきだとしています。 が、モロッコの勝手気ままな態度にパンさんも相当頭にきてます。 以下に報告書の要約を紹介します。
(1) 「ガッカリしたよモロッコには!」:
パンさんは、常軌を逸したモロッコ政府の国連事務総長に対する悪口雑言を非難して、「私は、MINURSO(国連西サハラ住民投票監視団)PKOに個人的にも貢献しようと、さらにこの地域での人権問題状況を自らの目で確かめようと、西サハラ地域を3月3日から7日にかけて訪問した。が、この訪問に不満なモロッコ政府は、私の訪問中も訪問後も、言葉尻と行動を捉えて難癖をつけてきた。そのうえ、正式な外交ルールを無視して、ラバトやラユーンなどで官製デモを仕掛けたり声明を出したりして謝罪を強要してきた。私は何度も説明したように、モロッコ王国にたてついたりしたことはない。国連が西サハラ問題に関して定めた以上の行動を、私は取っていない。さらに、3月14日にはモロッコ外務大臣が、<直ちに公式に今回の訪問を釈明し謝罪しろ、モハンマドⅥ世国王陛下のご託宣に従え>との書簡をよこした。<陛下に従わない場合は、実力行使に踏み切る>と、最後通牒を出した。そして、その言葉通り一方的に、3月16日にはMINURSO要員をモロッコ占領地から追放した。そのうえ、モロッコ側の国連義務をボイコットした」と、正直に報告している。さらに、「モロッコ側は西サハラのみの訪問は不公平だというが、私は、モロッコとモロッコ占領地・西サハラの訪問を何度も打診した。訪問を断り続けたのはモロッコだ」と、言及している。
(2) 「ウェルカムのポリサリオ戦線西サハラ政府」:
「ポリサリオ戦線西サハラ民主共和国大統領アブデル・アジスは常に国連安保理と私と私の個人特使に敬意を表し、支持してくれている」とパンさんは述べて、「アジスは3月⒛日に私に書簡を送り、その中でモロッコのMINURSO活動妨害を強く非難している。アジズは、国連安保理に対して一日も早く国連の責任とMINURSOの更新を急かせるようにと、私を促した。さらに、モロッコ軍が2月27日に銃を発砲し、西サハラ遊牧民一人とラクダ3頭を殺したと告発している。このモロッコ軍の発砲は、両軍が停戦した1991年以来、初の軍事的挑発行為だ。モロッコ軍は発砲を認め、MINURSOは死体を発見し西サハラ側に引き渡した。アジズは、モロッコ軍の挑発と殺人を国連人権高等弁務官に告訴した。このモロッコ軍による軍事侵攻は国連緩衝地帯で勃発した。
2015年11月4日、私は、西サハラの最終的置位決定は、国連事務総長の指導下で両当事者が交渉し、平和的に民主的に西サハラ住民の民族自治権実現を目指す方向で決めるべきだと声明を出した。これに対して11月5日、モロッコは猛反発し、国連モロッコ大使ヒラールは私に電話で、<モロッコは断固としてこの声明を認めない>と、激怒した。
一方アジスは11月17日、私に書簡をよこし、私が主張する両当事者の交渉を支持し、ポリサリオ戦線西サハラ難民政府は私の個人特使を支援すると確約した。その一方で、西サハラ難民政府は絶え間ないモロッコの挑発行為に曝されていると、訴えてきた。
ポリサリオ戦線西サハラ政府は、2015年12月13日から22日まで第14回西サハラ民族大会を開催し、国連の両当事者交渉を支持し国連事務総長個人特使を支援すると、決定した」と、パンさんは詳細に記述している。
(3) 「MINURSOの一年更新お願いしま~す」:
国連事務総長個人特使クリストファー・ロスや国連事務総長前室長スザンナ・マルコッラ女史の努力にパンさんは敬意を表し、「私の個人特使ロスは一年間に4回の当該地視察をした。ポリサリオ戦線・西サハラ政府は大歓迎で大統領始めトップが対応したが、モロッコ政府は<サハラは既にモロッコのもの>と主張し、トップは登場しなかった。終にモロッコ外務大臣は、「国連事務総長個人特使ロスのサハラ(モロッコ占領地・西サハラ)訪問は今もこれからもまかりならぬ」と公言した。
一方ポリサリオ戦線西サハラ政府の大統領以下トップは、国連主催の両当事者交渉の場に着くことを快く承諾した。西サハラ難民の面倒を40年以上見ているアルジェリアの大統領は、私の個人特使ロスに直接会って、<西サハラ人が民族自決権行使のための住民投票をするという国連提案を、変わらず支持する>と明言した。リビアの例を挙げるまでもなく、今やマグレブ地方全般にIS過激派組織の脅威が迫ってきている。一日も早く平和的解決が可能な西サハラ紛争を終結させたい。そのためには国連西サハラ住民投票を目指すMINURSO(国連西サハラ住民投票監視団)の存続は欠かせない。MINURSOの任期を2017年4月30日まで認めてくださ~い」と、国連事務総長パン・ギムンは国連安保理にお願いした。
パンさんの報告書は105項目にわたっています。 最後の項でパンさんは、国連事務総長個人特使クリストファ―・ロスの辛抱強く弛まない外交努力に心から深謝の念を、さらにキム・ボルドクMINURSO代表やMINURSO団長やMINURSO要員の一人一人に対しても、篤いお礼の言葉を述べています。 去りゆく人の透明感に満ちた想いが伝わってきます。
が、一方のモロッコは、「早く引っ込め」と、パンさんの任期切れを待ちつつ、パンさんの悪口をあちこちでばら撒いて、追い打ちをかけ続けています。 そんな中で安保理に非常任理事国として参加している日本は、どんな姿勢を示すのでしょうか?
4月28日の西サハラ安保理決議に注目してください。
WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名敏之 2016年4月22日
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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