北海道5区補選・共闘の「成果」と「教訓」についてー郷路征記君の意見紹介
- 2016年 4月 29日
- 時代をみる
- 澤藤統一郎
北海道5区補選の教訓をどうとらえるかについては、各地のいたるところで議論がまき起こり、貴重な情報や意見が飛びかっていることだろう。メーリングリストというツールは、議論の場の設定にこれ以上のものはない。
私も、いくつかのメーリングリストで議論に参加しているが、同期弁護士のメーリングリストに札幌の郷路征記君から、以下の傾聴に値する意見をもらった。同君の許可を得たので、ご紹介したい。
まずは、郷路君が推薦する動画の画像。キャプションは省いての紹介。これだけでも、十分な「選挙総括」となりうる。
https://youtu.be/dkBxZu4IO5A
http://www.kanaloco.jp/article/168575
https://www.youtube.com/watch?v=6F-IicWUgZU
http://www.asyura2.com/16/senkyo204/msg/851.html
メーリングリストでは、私が次のように振った。
「さて、5区補選。残念でならない。「いま一歩及ばずの敗北」である。いま一歩のところまで追い詰めた積極面の教訓と、もう一歩のところで勝利に届かなかった消極面の教訓と。その両面について多くの人からの、とりわけ直接選挙に携わった人たちからの報告や意見を聞きたい。
共闘は本当にうまくいったのか。共闘によるシナジー効果が、客観的にあったのか。選挙戦を戦った人に実感できたのか。その「成果」についての確信が、全国に伝播するのか。
そこが最大の関心事だ。」
これに対して、郷路君のこの上ない丁寧な回答があった。
「澤藤君の問題提起に答えることができるかどうか。次のように考えている。
考える下敷きにしたのは、次の分析。
善戦じゃダメなのだ 衆院補選・野党共闘「惜敗」の絶望
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/180218
安倍官邸を苛立たせる、補欠選挙の「ある調査結果」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48537
そして、朝日の4月27日道内版記事「市民主導」浸透に壁
http://www.asahi.com/articles/CMTW1604270100003.html
1 野党共闘成立前には、ダブルスコアで自民が勝つという調査結果が出ていたという。票差の点は別にして野党分立では勝てっこないことは自明だったと思う。
その理由の一つは、安倍内閣への厚い支持。これがずっと変わっていないこと。アベノミクスによる経済活性化を掲げた(プラス、財政規律を無視した 自民党的ばら撒き政策の実行による)安倍内閣への支持は、正月以来の株安や円高、中国をはじめとする新興国経済の減速など、この先に不安要因をはらみつつ、まだ国民の支持をつなぎとめることに成功していたと思う。
2 それが、自民党・和田候補は、「伯仲・誤差の範囲」という調査がでるところまで追いつめられた。
その理由は
ア なんといっても野党共闘の成立。そのことによって前回の選挙での票数でいえば、勝負になるところまで持ち込めた。これがなければ何も起きなかっただろう。なんといっても展望がないからだ。
イ 「保育園落ちた 日本死ね」のブログによって、安倍内閣の新自由主義的経済政策による弱者切り捨て、格差拡大に苦しめられている国民の怒りのマグマに火が付きそうになった。そのことが契機となって、奨学金の問題とか、最低賃金の問題とか、保育士の待遇の問題とか、国民の貧困に関わるさまざまな問題が噴出しそうな形勢となった。
ウ 池田候補は子供時代から青年期を超える期間の、極度の貧困を乗り越えてきた経歴を持ち、他方、和田候補は三菱商事の社員。妻は町村の娘。一見して「上級国民」である。イの問題との関係で池田候補の経歴とその人柄が強い訴求力を発揮したと思う。
3 危機感を持った自民党は、党本部の総力を挙げた組織選挙をおこなった。なにせ、ダブル選の可否を占うという意味があった。
陣営の幹部の発言として新聞報道されたものの中に、「票を削り出している」という表現があった。それくらい、必死になってやったようだ。それくらいの危機感をもったようだ。野党陣営が勝って勢いがつけば、参議院の議席10程度に影響するという考え方もあった。自公が総力をあげた組織選挙を行うことによって、前回の票を若干上回る程度の得票に繋げることができたのだと思う。これが自民党の勝因だとおもう。総力をあげれば、この程度の票を削り出すことができる組織・人間関係の束を自民党・公明党は持っているということだと思う。大地の票(鈴木宗男)がどう動いたのかはわからないが、和田候補に行ったと考えるのが妥当だと思う。だとすると、必死で、総力をあげて、前回を下回っている程度ということもできそうである。
参議院選挙になれば、党本部が一地域に総力を挙げることはできない。この点では、自民党は厳しい選挙を強いられることになるのではないか?
4 野党共闘は浸透しきれなかった。投票率60%を目標にしたが届かなかった。60%に届いていれば勝てていたかもしれない。無党派層の7割を獲得していたのだから、その層が投票に来てくれていれば、勝機は生まれたのである。
浸透できなかった理由は
ア 熊本地震だという。たしかに、熊本地震を契機に、雰囲気は変わったと思う。保育園落ちたも報道の表層から消えて行った。おおさか維新の片山代表が「タイミングのいい地震」と言ったのは、本音で本当だったようだ。安倍はこれを最大限に利用した。事故直後に食糧90万食を送る(コンビニに送るのだが)と表明したり、自衛隊の派遣規模を 2000から2万に増加するなどした。現地視察を投票日の前日である土曜日にして、激甚災害指定をその時までしないで引っ張った。
報道によれば、選挙狙いに過ぎないと思われる、安倍の対応は評価されているのだという。 危機が発生すると世論は政権支持に回る。このことによって、上記イの問題が消し去られていった。
イ シールズも市民連合も学者の会もママの会も、全体から見れば少数である。北海道5区の住民に人的なつながりを持っているわけではない。絵を作るべく努力はした。でも、その絵が大きな力になるほどの参加者のボリュームはなかったと思うし、期間もなかったと思う。また、北 海道5区という地域性もあると思う(札幌市厚別区を除く)。
そうだとしても、昨年以来のシールズを先頭にした市民組織の継続的活動なしには、野党共闘すら考えることができなかった。その点で、彼らの奮闘と先見的活動には本当に頭が下がる。
ウ 市民主導の選挙運動を支え、実体化する組織が弱体化しているのではないか。民進党北海道の主体を担っていると思われる官公労 (北教祖・全道庁を中心とする自治労等)に往年の力はないだろう。共産党とその関連組織の力量の減退も疑う余地がないだろう。
エ 自民党の政治的影響力は全世代に及んでいる。池田候補は60代の年齢層でのみ多数だった。20代から50代のすべて、70代以上で和田候補が多数を占めている。若い世代まで、もはや保守である。そのような広い自民党支持層が醸し出す政治的雰囲気が、リベラルの風を吹かせなかったのではないかと思う。
5 以上で、澤藤君の問いに答えるとすれば、共闘は本当にうまくいったのかということについては、イエスなのだと思う。選挙対策の関係者達の談話でも否定的なものはない。お互い努力しあい、尊重し合ったのではないか。そして、各党の支持者を池田支持にほぼ纏めきることができたことも、信頼関係を作ることになったと思う。
共闘によるシナジー効果が客観的にあったのかという点についていえば、上記の経過が示す通り、客観的にあったといえるのではないか。その程度においては、この程度だったとしても。
選挙戦を闘った人たちが共闘の成果を実感できたのかという点でいえば、ぞれで一発逆転できるものではないにせよ、共闘して必死に戦わない限り、勝負にならない、共闘すれば勝負ができるというレベルではその成果を実感したのではないだろうか。
それが、全国に伝播するかという点については、多分、伝播すると思うが、判らないというところかな。確信が全国に伝播するかどうかは判らないけれども、野党共闘は広がると思う。民進党内部の主要な反対者らがこの選挙の経験を通じて、明確な反対をしなくなるのではないかなと思っている。
6 参議院選挙に向けて、安倍内閣の争点隠しは横行するだろうし、社会福祉についてもばら撒き的政策を打ち出すことによって、不利な争点を消失させようとするだろう。その中で、何をどう訴え、市民主導を拡げていくかが課題になりそうに思う。
弁護士 郷路征記
必死で選挙戦を闘った人たちがおり、共闘の成果を実感した人たちもいたことがよく分かる。私の、「その成果についての確信が、全国に伝播するのか。」は愚問だ。全国に伝播するのは、全国の人びと、私を含めた私たち自身の役割なのだから。
ささやかながらも、当ブログもその役割を果たしたいと思う。
(2016年4月28日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.04.28より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=6802
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3411:160429〕
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