加速する参院選野党統一候補の擁立 - 背景に共闘を求める反安保法の市民運動 -
- 2016年 5月 16日
- 時代をみる
- 参院選岩垂 弘
7月に予定されている参院選に向けて、1人区における野党統一候補擁立の動きが加速している。4月24日に行われた北海道5区の衆院補選で自民公認・公明推薦候補が野党統一の無所属候補を破ったことから、参院選1人区での野党統一候補擁立の動きにブレーキがかかるのではとの見方もあったが、その後もそうした動きが勢いを増し、野党統一候補が決まった1人区は、5月15日現在、32のうちすでに26を数える。こうした動きを後押ししているのは、全国で展開されている、安保関連法廃止を求める市民運動であり、こうした形態は日本の国政選挙に初めて現れた画期的な変化と言える。
改憲を悲願とする安倍首相は、今年1月4日の年頭記者会見で「(憲法改正を)参院選でしっかり訴えていく」と述べ、改憲を参院選の争点とする考えを明らかにした。
日本国憲法第96条には「憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない」とある。
衆院では、与党(自民党と公明党)がすでに3分の2以上を占めているが、参院(242議席)では135議席で、過半数を握っているものの、改憲発議に必要な3分の2以上(162議席)を下回っている。だから、安倍首相としては、今度の参院選で改憲発議に必要な3分の2以上の議席を獲得したいというわけである。
このため、首相は1月10日のNHK日曜討論で、「与党だけで3分の2の確保は大変難しい。自民党、公明党以外にも、おおさか維新の会もそうだが改憲に前向きな党もある。自公だけではなく改憲を考えている人たちと3分の2を構成していきたい」と述べ、憲法改定に積極的な政党で3分の2の議席の確保を目指す考えを示した。
すでに述べたように、参院の議席は242。今度の参院選ではその半分の121が改選される。非改選議席121のうち改憲派は84(自民65、公明11、おおさか維新5、日本のこころ3)だから、もし今度の参院選で改憲派が78議席を獲得すれば、非改選議席数と合わせて162議席となり、参院の3分の2を占めることになる。
前回の参院選挙(2013年7月)の結果は、自民65、公明11、民主17、共産8、社民1、日本維新の会8、みんなの党8、諸派1、無所属2だった。与党系(自公系)と民主・非自公系で大きく差がついたのは、1人区で自公系が圧倒的に強かったからである。すなわち、1人区31のうち自公系が29選挙区で当選し、民主・非自公系はわずか1選挙区で当選したに過ぎなかった(もう1選挙区は無所属候補が当選)。1人区という小選挙区では、野党がバラハラではとても与党には勝てなかったわけである。
それだけに、2カ月後に迫った参院選に向けて、1人区で野党各党と市民団体による統一候補の擁立が進んでいる。「1人区で自公に勝ち、自公を中心とする改憲勢力に3分の2を取らせまい」というわけである。これまでに野党統一候補が決まったのは32選挙区中、次の26選挙区だ(カッコ内は候補者の所属)。
沖縄(オール沖縄)、熊本(無所属)、宮城(民進党公認)、長野(民進党公認、)徳島・高知(無所属)、宮﨑(無所属)、長崎(民進党公認)、青森(民進党公認)、山梨(民進党公認)、栃木(無所属)、鳥取・島根(無所属)、山口(無所属)、石川(無所属)、福井(無所属)、山形(無所属)、岡山(民進党公認)、群馬(民進党公認)、滋賀(民進党公認)、新潟(無所属)、秋田(民進党公認)、福島(民進党公認)、大分(民進党公認)、富山(無所属)、岐阜(民進党公認)、愛媛(無所属)、鹿児島(無所属)
これらの擁立劇で中心的な役割を果たしている政党は民進、共産、社民の3党で、ところによっては、生活の党、新社会党、綠の党が参加している。
しかも、これらのうち、ざっと7割の1人区で、統一候補擁立に地元の市民団体が関与している。
政党と市民団体で統一候補を擁立するにあたっては、関係団体間で政策協定書とか、確認書とか、覚書が交わされる。これまでにまとまった選挙区を見ると、そこでは、いずれも①安保関連法の廃止②集団的自衛権容認の閣議決定の撤回③安倍政権の打倒、がうたわれている。
野党統一候補擁立の動きを追ってきて印象に残るのは、こうした動きが市民主導で行われているということだ。
参院選に向けた野党共闘の動きは当初、極めて鈍かった。それを後ろから突き動かしたのは市民が参加する安保関連法反対運動だった。
安倍政権が推進する、集団的自衛権行使を可能にする安保関連法案が衆院の特別委員会で可決されたのは、昨年の7月15日。同法案は翌日、衆院本会議で可決され、参院に送られた。その参院で、同法案は9月17日の特別委で野党の反対を押し切って強行採決され、同19日の参院本会議で可決、成立した。
この間、これに抗議するおびただしい人々が国会周辺につめかけた。地方でも、各地で抗議の集会やデモが盛んに行われた。これらの行動に加わった人たちが掲げていたブラカードに書かれていた文面で目立ったのは「戦争法反対」「安倍内閣退陣」とともに「野党は共闘」だった。この人たちが叫ぶコールにも「野党は共闘」が加わり、その声は日毎に高まっていった。
昨年12月20日には、安保関連法に反対してきた諸団体の市民有志によって「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)が結成された。市民連合は野党に対し①安保関連法の廃止②立憲主義の回復(集団的自衛権行使容認の閣議決定の撤回を含む)③個人の尊厳を擁護する政治の実現、に向けて共闘するよう求めた。
これを機に、熊本選挙区を皮切りに1人区で野党統一候補を擁立する動きが進んだ。いまのところ、最終的には、1人区の全選挙区で野党統一候補が実現するのでは、との見方も出始めている。
これまでの日本の国政選挙では、政党と有権者(市民)の関係は歴然としていた。候補者を決めるのは政党であり、市民は候補者を選んで投票するだけだった。候補者選定にあたって市民が意見を述べるなどということはなかった。が、今回の参院選では、候補者選定にあたって市民も意見を言うという行き方が全国的に展開されている。
これは、日本の憲政史上、画期的な出来事と言っていいだろう。日本国憲法でうたわれている「国民主権」が憲法施行70年にして実現しつつあると言えるのではないか。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3437:160516〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。