クレジットカードだらけ-はみ出し駐在記(追補)
- 2016年 5月 25日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
下宿から二十分も走れば、Roosevelt Fieldという大きなショッピングモールがあった。そこに行けば、スーツやジャケットにジーンズ、下着や靴も、スパナやレンチなどの工具にしても、なんでもそろった。郊外によくある大きなモールで四角い敷地の四方にデパートが一軒ずつあって、その間にさまざまな専門店がならんでいる。建物の周囲が駐車場になっていて、道を挟んでその外側には衣料品のディスカウントストアや本屋にダイナーやレストランが並んでいた。
下宿から走って手前の入りやすい駐車場に止めてモールに入ると、そこはJCPennyという大衆向けのデーパートでSearsと同じようにスパナやレンチなどの工具類も売っていた。
ある日、いつものようにJCPennyに入ったら、きちんとスーツを着た歳の頃四十前後の女性に声をかけられた。大衆向けデパートの店員でスーツを着ているのはいない。何を言ってきたのかと思ったら、軽く明るい声でアンケートに協力して。。。と言われ、暇だったこともあって、訊かれるままに答えた。
数週間経って、JCPennyから封書が届いた。たまに何か買うことがあるだけで、懇意にしたいデパートでもない。いったい何がきたのかと思いながら、封書を開けて呆れた。頼みもしないのに、JCPennnyのクレジットカードが入っていた。
赴任したての頃は、クレジットカードをもらえないで困っていたが、一年も過ぎれば、必要なカードも揃って、日常生活や出張先でも困らない。もう財布はクレジットカードで一杯で、何か特別な理由か目的でもなければ、新しいカードなどいらない。勝手に送ってきて、うっとうしい。鋏で切って捨ててやろうかと思って、名前を見て驚いた。
まったく商魂逞しいというのか、ここまでやるかと呆れた。アンケートで妻帯者か独身かと訊かれた記憶はないが、クレジットカードには姓「Ms xxxx」だけで名前がない。存在しない女房用で発行されていた。食料品や日常生活のこまごましたものから始まって、服や靴からバッグにしても装飾品にしても、買うのは圧倒的に女性という判断なのだろう。
アメリカで生活を始めると、最初の一枚のクレジットカードを手に入れるに四苦八苦する。これは七十年代だからということでもない。今でも最初の一枚に苦労する。日本でAmerican Expressを持っているから、VISAやMasterCardを持っているから、アメリカでも同じカードをもらえると思う人が多いだろうが、ことはそう簡単にはゆかない。カードの名前が同じなだけで、日本で発行されたクレジットカードをアメリカでいくら使ってもアメリカのクレジットカード会社にCredit recordは残らない。どれをとろうにも居住期間が短すぎる、利用履歴がない(Credit record)=信用がないを理由に断られる。
日本で発行されたクレジットカードがあるのだからアメリカのクレジットカードなんかなくたっていいじゃないかと思われるかもしれないが、短期の出張や旅行ならまだしも、二年三年と住んで生活するとなると話が違う。日本で発行されたカードを使うと、支払の度に為替手数料をとられるから、その分支払いが多くなる。
アメリカで発行されたクレジットカードがないからCredit recordを残しようがない。Credit recordがないからカードをもらえない。どっちが先かという話になる。それでも、なんでもいいからまず一枚手に入れてしまえば、それを信用の裏付けにして、二枚目以降のカードの入手が楽になる。楽になったと思っているうちに、このガススタンドの、あのデパートの、あの店のこの店の。。。最初のうちは、ありがたがってもらっていたカードが、いくらも経たないうちに、もういらないになる。それにしても、JCPennyの女房用のカードはちょっと度が過ぎる。たいして欲しくもない、ただちょっとディスカウントになることもあるしでカードをもらって、気が付いたら財布は金を入れるものではなく、クレジットカードを入れるものになっている。
日本ではアメリカのようにクレジットカードが溢れるようなことも少ないが、それでも、どこにいってもメンバーカードやなんやらのカードを出してくるから、アメリカにいたときと同じように財布は金を入れるものではなく、カードを入れるものになってしまう。
アメリカの財布には、かなりの量のクレジットカードを収納できるようになっているものもあるが、日本の財布はまだそこまで進化?していない。日本の財布ではカードを収容できないから、いまでも持ち帰った財布を使っている。財布屋さん、もうちょっと市場の需要に敏感であってくれないかな?
クリーブランドで事故を起こして病院に担ぎ込まれたとき、看護師の世間話が聞こえてきた。「この間担ぎ込まれた、あのおじさん、何枚持ってたと思う?」「あんまり多いから数えてみたら、八十一枚もあった」八十一枚あっても、よく使うのはせいぜい二三枚だろう。あまりの多さに、財布に収納するのをあきらめて、輪ゴムで束にして持ち歩いているのまでいる。何はなくとも信用の国アメリカということなのだろう。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
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