コソヴォ生体臓器密輸出に関する欧州評議会議員会議の1月25日決議
- 2011年 2月 8日
- 時代をみる
- コソヴォ生体臓器密輸岩田昌征欧州評議会
ポリティカ紙〈2011年1月26日〉によれば、ディック・マーティ〈スイス人、検察官〉の調査報告書(ちきゅう座における岩田による関係論述を参照)に基づいて1月25日、ストラスブルグの欧州評議会議員会議は「コソヴォにおける非人道的行為と人間臓器密貿易に関する訴追捜査」決議を賛成169票、反対8票、そして保留14票で可決した。アルバニア代表団は、19の修正動議を提出して必死に防戦したが、そのうち18動議が否決されてしまった。かくしてEULEX等による正式な捜査が開始されるであろう。ディック・マーティは「犯罪の目撃証人が殺害されていることを忘れまい。これは正義に反する最凶事だ」と語ったが、同時に「もちろん私は、アルバニア人すべてを告発しているのではない。特定の人々だけにかかわる話だ。またこのテーマをコソヴォのステイタスにかかわる事柄であると語ろうと努める人々は、ここでは人権がテーマであることを知るべきである。1999年6月にNATO作戦が終了してから、正式政権の樹立に至るまで、コソヴォ解放軍がその領域を支配していた。私が言及した犯罪が行われた時、彼等が実権を握っていた」と言明した。私、岩田が見る所、諸個人による反人権的犯罪行為が問題とされているのであって、セルビアが期待するようにコソヴォの国家承認、つまりステイタス問題とは次元が異なると述べたわけである。ディック・マーティは、二人の女性、ハシム・タチを告発するスイス人女性カルラ・デル・ポンテ(元ハーグ法廷主任検察官)とハシム・タチをひきたて、コソヴォ独立を推進したアメリカ人オルブライト女史(元アメリカ国務長官)のそれぞれの立場をこのように理解して見せたのであろう。
捕虜となった、あるいは誘拐されたセルビア人や、裏切り者とされたコソヴォ・アルバニア人の生体から切り取られた諸臓器の売買が国際組織によって捜査される。かかる極悪非道な犯罪が果たして実際に起こったのであろうか、今日、一国の首相や政権党党首に選ばれた人物ハシム・タチが本当に関与していたのか徹底的に究明されるべきである。しかしながら、私、岩田は、それだけでは不十分であると考える。すなわち臓器の供給者側の、つまりバルカンの後進小国の犯罪性だけでなく、先進市民社会の臓器需要者側の犯罪性をも解明されるべきである。コソヴォ・アルバニア人にのみ汚名を着せるわけにいかない。これまで、1990年代、先進文明的市民社会によってア・プリオリに汚名を着せられ続けてきた被害者セルビア人常民も私、岩田と同じように思うであろう。
コソヴォ・アルバニア人の反応はどうであろうか。ポリティカ紙(2011年1月27日)のジヴォイン・ラコチェヴィチ署名の小論説によれば、コソヴォ・エコロジー党、非政府セクター、分析評論家、独立知識人、地域共同体、古参兵士、作家、画家、西欧派、硬派民族主義者、全アルバニア人連合スポークスマン、そして宗教家等は、すべて心を一つにハシム・タチを支持している。「ハシム・タチの無実を信じる気持ちが今日アルバニア人を団結させているほどに、アルバニア人が何かあることをめぐって一つになったことはない」。ディック・マーティの調査報告がコソヴォに与えた破壊的な一撃に、コソヴォ・アルバニア人社会は、是非善悪を越えて、団結したというより固着したのである。
このような客観的状況の中で、欧米が説くベオグラード(セルビアの首都)とプリシティナ(コソヴォの首都)の対話が可能であろうか。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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