マンション生活で知り得た社会問題を考える(14) ――その後2 鬼島紘一著「妻恋坂マンション」に出会って
- 2016年 6月 18日
- 評論・紹介・意見
- マンション羽田真一
上記表題(1)~(13)でマンション管理の社会問題を論じてきた。マンション内外の社会への手紙文書の配布では、種々の忠告や非難を受けながら、社会正義を実現するために「言論の自由」を守るべく訴えてきた。その効果あってか、全くそれまで繋がりのなかった志を同じくする2,3の仲間を得ることができ、お互いに情報を交換する機会に恵まれるようになり、孤立感が救われている。その一つが初対面のマンション管理士である知人から紹介された「妻恋坂マンション-あなたのマンションは騙されていないか」(徳間文庫、2016)である。その後、住民としてマンション管理組合の管理規約改正の動き(13)への対応などに専念せざるを得ない状況に追い込まれ、風邪を拗らせて入院となり病院のベッドで集中して一気に読むハメとなった。おかげで負の精神状態を前向きに変えてもらった。
読み始めると、羽田のこの数年間にマンション管理組合から受けた仕打ちとの共通点があまりにも多々あって共感する場面があり、これは文庫の形で手に取りやすく、広く関心のあるマンション管理当事者だけでなく、マンション住まいの現役やこれからマンション生活を望んでいる一般の人々にも読んでもらいたいと願うようになったので、書評の形でお伝え推薦することにした。
筆者は生涯理系鉄鋼技術者であった羽田と違い、東大文学部心理学卒の製鉄会社勤務のサラリーマン経験もある文学賞受賞の実力者である。ストーリー展開を巧みに表現できる素地の持ち主であるとお見受けする(折角の読者の意欲を削がないために、敢えて内容を詳しく紹介することは避けることにする)。また、ストーリーは最後の勝利まで進んでいるが、羽田の場合はまだ道半ばであり、最終結論に至っておらず本丸の管理会社は退いていない。主な類似点は、組合理事会幹部に管理会社と結託した工事に関わる会計不正があることや一般住民が無関心であること、告発者が大竹に羽田であることで、相違点は主人公大竹の動きに有力な賛同者を得ることができ理事長になれたこと、会計不正の証拠となる領収書が手に入いったことで裁判訴訟に勝てたこと、さらに管理会社を追放できたことなどである。羽田が関係している一部ブログへのツイットでは「管理会社の犬」と思われる関係者の仕事への悪影響の観点からとしか思えない酷評が数々寄せられた。全体のストーリーの正当性を評価せず、枝葉末節の分節に描かれた内容構成を論じても大した意味がないと思われる。羽田の置かれている状況、即ち、違法な理事長辞任強要、会計閲覧公開の阻止、理事会傍聴や資料配布の拒否、文書配布に対する刑事告訴提起などマンション内での村八分的状況は「事実は小説より奇なり」という文句を噛みしめるに相応しいものと言える。羽田や読者には未経験の対処手段は大いに参考になろう。
書店に行くと法律のコーナーに手軽に手に取りやすい「マンション管理組合の理事になったとき最初に読む本」や「マンション居住者のための管理組合会計がまるごとわかる本」などとハウツーものの書物が並んでいる。これらは素人が管理組合の役員に選任された立場を想定して書かれているが、真にマンション管理を住民本位にしようと活動するには全く物足りないものである。羽田は当事者としてマンション管理組合の管理会社委託の理事会管理方式の適否を疑うまでに至っている[管理会社マンションの一部であろう]。賛同者が現れないまでに管理中枢の統制が進んでいる。羽田は孤立させられ、情報をコントロール遮断され、組合への要望すら拒否される中ではまともな抵抗もできないのである。平気で自ら管理規約を破るくせに、羽田には遵守を強要する厚かましさも、マンション内部では1対その他多数で通用するのである。外部公的機関は時には訴えを伺ってくれるがそこまでであり、相手への事情聴取や忠告など望むべくもない。人権侵害ではないかと問題を投げかけても、人種差別・労働問題のようなビッグな課題に比べてマンション管理ごとき小さな諍いは取り上げる気配もないから、当事者はそれで悩まなければならない。案外、軽んじられているが、多勢の理事会に抗うには、経験から精神力と体力を要することは認められねばならない要素と思っている。相手は長年獲得してきた隠れた利権を当然のことと思っているから、強力な団結で水も漏らさぬ情報操作までして守ろうとする。夜中に目が覚めることがあるとトラブルのことが浮かんできてあれこれと考え寝付かれない事態が生じる。不規則睡眠・寝不足などから不整脈が発生し、心臓病などに繋がりかねないのである。(13)に述べたように短期1か月ばかりの管理規約・細則改正の不備を攻める活動に時間を取られて上記の入院の事態に繋がったと言えなくもない。それならマンションを売り払って他所へ引越したらいいではないかという意見も出てくる。しかし、そこに会計不正の確実な嫌疑があり、明らかに工事費の不明朗が見え(羽田のマンションでは、年間約6,500万円規模の[管理費]*予算で数年ごとの約2億円前後の大工事)、一部の有力者がうまい汁を享受しているのが目の前に見えているのに、黙って引き下がる訳にはいかないのである。それでマンション外部の関心ある人々に、個人として可能な限りの働きかけをしている。共感を覚えた「妻恋坂マンション」をマンション管理に関心のある一般の方々にお薦めする次第である。*[管理費]=管理費+修繕積立金+各種専用利用料
最後に(有識者には蛇足と思われるが)、[人権擁護委員会]なるものの定義を記したい。
国民の基本的人権が侵犯されることのないよう監視し、もし侵犯された場合その救済のための処置をとり、あわせて人権思想の普及高揚に努めることを使命とする。国家権力による人権侵犯については、人身保護法や刑事訴訟法がその防止や救済を図っている。法的手続によらない事実上の救済を求める場合とか、とくに私人間における人権侵犯については、その救済機関として法務省に人権擁護局*を、その管理下に人権擁護委員を置いて、「太陽の下でおこりうるあらゆる人権問題」に対処しようとしている。例えば、ボスや雇用主が市民や被雇用者の人権を侵犯した場合や、村八分が行われた場合などに、被侵犯者救済の求めに応じて、人権擁護の任にあたることが期待されている。法務大臣が、市町村長の推薦した者のなかから、知事・弁護士会などの意見を聞いて、市町村ごとに人選し委託する。任期は3年で人権侵犯事件について、調査と情報の収集をし、法務大臣に報告し、関係機関への勧告などの処置を講ずる。[日本大百科全書12:小学館1986、p505]
*法務省に人権擁護局を設けるにあたっては、当時、国連よりその意義重要性から政府法務省から独立して外に設置するよう勧告されたと記憶している(羽田のコメント)。 [(14)終り]
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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