Brexit
- 2016年 6月 30日
- 評論・紹介・意見
- 熊王信之
瓢箪から駒のような英国のEU離脱を選択した選挙結果を受けた報道の中で、AFPのニュースが、スコットランドと北アイルランドに依る英国(UK)からの「離脱」を絡めて英国民が自主独立を選択した結果を示唆していました。
英国がEU離脱へ、スコットランド首相は独立を示唆 AFP 2016年06月24日 14:33 発信地:ロンドン/英国
http://www.afpbb.com/articles/-/3091626?cx_part=ycd
元々、英国では、EU懐疑派が多くて、経済的にも、ドイツ一国偏重が目立つECBへの批判も強く、ユーロ導入を否定した論理に従えば、早晩、EU離脱を選択するのが理に適う筈です。
その点では、ロジャー・ブートル(Roger Bootle)の「欧州解体」(The Trouble with Europe: Why the EU isn’t Working, How it Can be Reformed, What Could Take its Place )は、先見の明がありましたが、この国のEU賛歌合唱の前では、無視されました。
それが証拠に、離脱を選んだのは、何も下層階級・労働者層のみでは無く、地域的には、富裕層・指導層の住まう地域でも離脱選択が見られます。
我が国で多い近年のEU域内からの移民増大とギリシャ危機救済支援への不満をBrexitに結びつける論調は、聊か単純に過ぎる見解ではありますが、また、誤りでもない、とも思うものの、事情は、もう少し複雑系であるようです。
英国(UK)は、一民族で為る単一の国家では無く、古来、複数の民族より成る国家が栄枯盛衰を繰り返して連合王国(United Kingdom)に為った経過があるところです。 従って、地方(と言うより国)の自主・独立を求める要求が強く、例えば、憲法史を読めば、それが自主・独立・自治を求める民衆の闘争の歴史であることが分かる程です。
ロンドン等の大都市では、事情は違うのでしょうが、地方では、昔ながらの暮らしがあり、金融業全盛の現代でも、未だに、落日した重厚長大の製造業で生活している人々が多数です。 ただ、伝統的に、民主主義原理が生活の些少な出来事にまで行き渡り、それが人々の生き方に反映されても居るのでしょう。
私は、昔、自分が勤務していた役所の職員の研究活動で小さな環境保護団体の基金の運営にも、細かい神経が行きわたっている事実を知ったことがあります。 何処かの田舎のパブで、エールを飲みながら、団体の運営に関わって構成員同士が話し合っている情景が眼に浮かぶようであり、民主主義とは、こんな細かい心使いが要るものだ、と密かに感嘆したものです。
ところが、EUでは、それら地方の歴史的必然性に頓着しない官僚群が、国家主権を無視しEU単一の価値に基づく指令を発出して国家の上位に君臨するのです。 民主主義の原理に悖るEUの支配原理に拒否感が募るのは、英国民のみではありません。 しかも、EUの官僚支配の裏面には、エマニュエル・トッド(「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告)曰くの「ドイツ帝国」が支配者宜しく統制を強めている訳ですから、嫌悪感も強まります。
アイスランド、ノルウェー、スイス、とEUに加盟しなくとも、何等、国家利益を損なうことも無く、自主独立を貫くことが出来るのですから、英連邦諸国と言う友邦がある英国が多額の「上納金」を収めつつ自主独立を損なうEU加盟を継続する必然性が無い、と国民が見切りをつけるのは当然でしょう。
処で、プーチン大統領は、英国のEU離脱を眼前にされても、意外とクールで、ロシアは介入せずの立場ですが、強い経済の国家は、弱小経済国家を支える等は欲しない、と一言で切って捨てられました。 因みに、RTの当該記事中の読者アンケート回答では、Brexit後には、何が生じるか、との質問に回答した中で、「ドミノ効果でEUは崩壊する」との回答を選んだ人は、65%だったそうです(Domino effect will break the Union 65 %)。
Putin on Brexit: No one wants to support weak economies RT Published time: 24 Jun, 2016 12:44 https://www.rt.com/news/348201-putin-brexit-weak-economies/
(平成28年6月29日記)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion6171:160630〕
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