投票日の翌日ーBrexitと併せて考えること
- 2016年 7月 12日
- 交流の広場
- 熊王 信之
野党共闘が一定の効果を発揮したのか、予想した程には差が開かなかったものの、この国が改憲に必要な手続の第一歩を歴史に刻んだ7月10日であったように思われました。
大阪の選挙区では、改憲派が全議席を占め、民進党候補は惨敗、共産党候補は、健闘したものの、中核支持層の殻を破れず、でした。 自民支持層が、大阪維新に移ったのをまたもや実感しましたが、もともと、自民の政治家が、大阪維新に移ったのが核になった政党でもありますので、自民、大阪維新共々に保守から急進的民族主義政党に支持を変えた人々に支えられているのが良く表れていると思われます。
そもそも、これだけ無党派層・無関心層が棄権すれば、政党組織が殆ど無い民進党候補では、知名度が劣ると得票は困難ですし、組織票のみでは、共産党候補も当選は難しいでしょう。
投票の帰りに依った近くにある理髪店のマスターに依ると、投票日の早朝には、常連の高齢者多数が投票所に詰め掛けるので、何時も込むそうです。 営業始めの時間帯には、そうした常連の高齢者多数を見かけたそうです。
保守・民族派ともども、何時も投票所に足を運ぶ高齢者に支えられている訳です。 でも、日頃、彼等を路上で見かけることは有りません。
早朝、投票所で拝見した方々は、男女とも身ぎれいな身なりで、普段の生活はどうされているのかが余り伺えません。 朝夕に通勤のためにJRや近鉄の駅に急ぐお姿を見掛けたことも無く、商店街でお会いしたこともありません。 少なくとも、我が家の御近所でお会いする階層の人々では無いようでした。
彼等の内の何人かに、その支持される理由をお聴きしたいもの、と思っています。 身近で言えば、自治会会長の御宅に貼付されていた自民党のポスターが、何時の間にかに大阪維新の会のものに代わったのに気づいていますので、今度の会合の帰りにでもその理由を訊いてみることにします。
リベラル・左派は、安倍自民党を糞みそに貶し、護憲を唱導され、選挙の結果が意に反した場合には、有権者を罵倒し、衆愚政治を嘆くのですが、それだけで良いのでしょうか。 改憲に繋がる選択をされた有権者の内在された意思を伺うのが第一で、その意思を変容されるように働き掛ける有為な行いが無かったがための結果を観ている、との自省が無ければ、最終場面の国民投票でも敗れるのが必然では無いのでしょうか。
同じくリベラル・左派の品質的欠陥を観た思いがしたのは、日頃、憲法論を拝見している水島朝穂(早稲田大学教授)氏のブログを拝見し、英独の政治家対照を記された項を観た折でした。
教授も、英国民のEU離脱を愚民の選択と思われているようで、離脱を表立って扇動した世俗政治家の資質を批判されます。 しかしながら、保守党のボリス・ジョンソン氏は、議員でも無く、閣僚の経験も無く、党首・首相に選ばれる見込み等はありませんし、英国独立党(UNIP)党首のナイジェル・ファラージ氏の引退等は、英国政治には何の関わりも無いことです。
そもそも英国は、議員内閣制の国であり、英国民の選択を政策化し、EU離脱を実施するのは、現に政権に就いている保守党であり、その党首・首相には、少なくとも閣僚の経験を有する実力の保持者でなければ選ばれることはあり得ません。 そして、現時点では、保守党の党首・首相には、二女性候補の内から選ばれることに間違いがありません。 党首、即、首相に就任されるのは当然のことです。
英女性首相誕生へ、保守党首選はメイ・レッドソム両氏が対決 Reuters World | 2016年 07月 8日 02:52 JST http://jp.reuters.com/article/britain-eu-wrapup-idJPKCN0ZN23E
それにしても、教授がメルケル首相を賞賛される様には、呆然とします。 それも何か具体的な政治判断を賞賛されるのでは無く、御自身の印象のみですので、自国政治家等の批判と比較しますと、手放しのようであり、同じ識者の論か、とも疑ってしまいます。
「「政治家の資質」という観点から診ると、現在のドイツの政治家が優等生というわけではない。しかし、少なくともアンゲラ・メルケル首相の腰は座っている。抑制的な表現や表情のなかにも、問題解決への「情熱」を忘れていない。世界とEUのなかでのドイツの位置をしっかり自覚した「責任感」、そして何より、どんな事態にもぶれない「判断力」は、G7各国首脳のなかでも群を抜いている。安倍首相が「根回し」に1日だけドイツにきたときも冷やかに対応し、伊勢志摩サミットのおりに伊勢神宮に首脳たちを招いて、おのれのパフォーマンスの数々を駆使した時にも、前に腕を組んで一人だけ手をふらなかった(写真)。決して礼を失することなく、しかし「距離をとる判断力」がそこにある。」
「政治家の資質」を問う――『職業としての政治』再読 早稲田大学 水島朝穂のホームページ http://www.asaho.com/jpn/bkno/2016/0711.html
ドイツ帝国首相礼賛の教授の言葉山積には、辟易としながらも、少し英国政治家の肩を持てば、キャメロン英国首相の国民の選択に従い、残留支持の自身は辞任し、再度の選挙は実施しない、との言明には、政治家としての良心があり、如何に自身の意思に反していても国民の意思は尊重する、との民主主義の精神が溢れていて好感が持てました。
そして、政権政党の保守党政府は、離脱の具体化に向けて動き出しました。 ブルームバーグに依りますと「英国政府は通商担当チームの専従スタッフを最大300人増やす計画だ。欧州連合(EU)を離れた後の各国・地域との新たな関係構築に取り組むためだ。ジャビド民間企業相が明らかにした。」とのことです。
英政府、通商担当スタッフ300人増員へ-EU離脱後見据え交渉力強化 Charlotte Ryan Bloomberg 2016年7月8日 18:09 JST
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-07-08/O9ZN746JTSEB01
最近見た、生死を賭けた政治選択の重さを感じさせた記事にあった英国の漁民の言が気になっています。
「英国の領海なのに、なぜ我々は漁に出られないんだ?他国船は来ることができるのに。漁獲量の割り当てがあるからだ。だが我々の魚だ。漁業に限った問題ではない。英国全体として交渉すべきだが、決定権はブリュッセルが握っている。
これは銃弾を使わない第3次世界大戦なんだ。ドイツがヨーロッパ全土を支配しようとしている。離脱しなければ崩壊を迎える」
「これは銃弾を使わない第3次世界大戦」 イギリス地方都市の漁師が、EU離脱を支持した理由 Tomoko Nagano 投稿日: 2016年06月30日 17時29分 JST The Huffington Post http://www.huffingtonpost.jp/tomoko-nagano/brexit-world-war-3rd_b_10749042.html?utm_hp_ref=japan
EUに於いても、日本でも、リベラル・左派は、こうした市井の民の言葉に背を向けているのではないのでしょうか。 戸惑った表情を浮かべて彷徨う労働党首コービン氏の顔を思い浮かべながらそう思います。
(平成28年7月11日記)
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