都知事選:「政策協定」を都民に示すことが急務
- 2016年 7月 13日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2016年7月13日
私は東京都民ではないが、日本の政治の動向に大きな影響を及ぼす都知事選の動きに思うことを書きたい。
政策不在の候補者選び
明日の告示を控え、与党に加え、野党も前日まで分裂選挙の可能性が強まっていた。今日、日本記者クラブで開かれた共同記者会見に、自民・公明両党が推す増田寛也氏、無所属での立候補を表明している小池百合子氏、野党4党が支援を表した鳥越俊太郎氏、元日弁連会長の宇都宮健児氏の4人が出席した。
与党候補者が増田、小池の両氏に分裂する流れは数日前から濃厚になっていた。もつれたのは野党候補である。11日夜に民進党に立候補の意思を伝え、12日に正式に出馬表明の会見をした鳥越氏を、会見から1時間後に野党4党が共同で支援すると表明した。水面下の動きはともかく、急転直下の決定である。
11日に民進党東京都連は古賀茂明氏に立候補を要請、古賀氏も前向きに検討すると表明したばかりだった。
早くから、立候補の意向を表明していた宇都宮健児氏はこうした動きに、「知名度頼みの政策不在の候補者探し」と反発を強め、上のとおり、告示日前日の今日、開かれた共同記者会見にも立候補者の1人として出席した。このままでは、野党も分裂選挙となる可能性が強まった矢先、ちょうど、この記事を書いているさなかに、一転、立候補辞退を表明した。
前回の都知事選にあたって私は宇都宮健児氏の立候補表明、同氏の行政人としての力量と資質、過去の宇都宮選対の非民主的体質などをこのブログで厳しく批判した。その指摘に対し、今日まで宇都宮氏本人からも宇都宮選対の幹部(政党、個人)からも誠意ある応答は直接にも間接にも全くなかった。そうである以上、私の宇都宮氏とその選対幹部に対する評価は今も変わらない。
今回の都知事選にあたって、野党統一というより、市民共同を願う立場からすると、宇都宮氏がまたも、都政の刷新を望む政党、市民団体、個人の協議を待たず、立候補の意向を表明したことに賛同できない。共同候補を検討する協議を困難にし、市民団体に分断を引き起こす要因を生んだことは否めないからだ。
では、野党各党や市民団体は、この間、政治・行政面で信頼に足る力量と資質を備え、なおかつ、「勝てる可能性」を十分に持った共同候補を模索する努力をどれほど尽くしてきたのかとなると、きわめて不透明である。
鳥越俊太郎氏のジャーナリストとしての経験と力量は私も十分に評価している。告示日が迫る中、大詰めの段階で鳥越氏が野党統一候補者となったことも理解できる。しかし、それで、胸をなでおろし、あとは鳥越氏勝利のために頑張ろう、では都民不在である。それでは、判官びいきではなく、「知名度頼み、政策不在の候補者選び」という宇都宮氏の批判に一理がある。
「抱負」を「政策」へ具体化することが急務
7月12日、13日に開かれた立候補予定者の共同記者会見における鳥越氏の発言を聞くと、同氏が述べた都政への抱負は次のように要約できる。
①住んでよし、働いてよし、環境によしと、この3つのよしを持つ東
京都のために自分の全力を注ぎたい。
②東京オリンピック、パラリンピックは、全力を挙げて輝かしい日
本の、東京の存在を世界中に発信できるようにやりたい。ただ
し、税金を使う以上、コンパクトでスモールな大会をめざすべき
だ。
③現在の東京都に広がっている「きょうより、あすは悪くなる」と
いう不安をなくす施策の一例として、がん検診の受診率を100%
に引き上げるよう改善していく。また、公共事業よりも待機児童
問題、少子高齢化問題にお金を使っていく。
④戦争を知る最後の世代として、戦後の平和と民主主義の教育のな
かで育ってきた第一期生として、憲法改正について考えていく。
どれも、都政を担う政治家、行政人が今日の東京都が置かれた状況に照らして、避けて通れない問題である。しかし、また、どの発言も「抱負」であって「政策」「公約」と言えるものではない。それぞれについて、肉付けをし、都民に信を問うに足りる具体策に練り上げる作業が急務である。
①の「3つのよし」は何人も異論がない抽象的な理念にとどまる。②の簡素なオリンピックは、どの候補者も掲げるにちがないスローガンである。
具体的な政策といえるのは③だが、総体としての社会保障政策が不在のまま、「がん検診の受診率を100%」と語られると唐突な感を否めない。待機児童問題、少子高齢化問題となると、施設用の土地と財源を確保する目途を示すことなしには誰もが口にする机上の空論で終わる。
④は改憲が日程に上った今日、重要なテーマであるが、都政のレベルでどう具体化するのか、たとえば石原都政時代以来、続いている学校行事の場での国旗・国歌への起立・斉唱の強制問題にどう向き合うのか、などを示し、都民の信を問うことが求められる。
こうした都民に向ける政策、公約が告示日の前日になっても不在のまま、4党の合意で候補者だけが決まるというのは異常である。
地方自治不在・政党中央主導の候補者選びがまかり通る異常
告示日前日まで政策づくりが進まず、候補者選びがもつれた大きな原因は、与野党を問わず、参議院選が終わるまでは作業を見合わせるという判断がまかり通ったからである。
小池百合子氏はこうした党本部、都連の対応に業を煮やし、自民党の公認なしでも立候補するという意思を表明した。増田氏は参院選の結果が判明するのを待ちかねたように自民党に推薦依頼をし、同党都連は直ちに増田氏擁立を決定した。その間、どのような政策協定があったのか、都民には何も知らされていない。
野党の場合は「日替わり候補者選び」といってもよいほど、混迷した。それも支持母体の政党、市民団体との政策の合意に手間取ったというより、参院選での4党共闘の枠組みを踏襲したい各党中央の意向に沿う候補者を探すのに手間取ったというのが実状のようである。そのため、自民党の場合以上に、野党、特に民進党では党中央と都連の意思がしばしばすれ違い、それが候補者選びを混迷させる大きな要因になった。
その象徴は鳥越氏を擁立する4党と鳥越氏の共同会見に並んだ野党の顔ぶれが、すべて都連の代表者ではなく、党中央の幹部だったという点である。
首都東京といえでも、一地方自治体である。辺野古移設を強行しようとする政府の姿勢を沖縄の自治権侵害と訴える野党が、東京都の知事選となると、東京都の自治権を無視するかのように党中央が候補者選考の前面に出るのはどういうことなのか?
舛添氏の政治資金使用をめぐる公私混同を追及した時は、当然のことはいえ、各党都議会が前面に立ったにもかかわらず、後任の知事候補選びとなると、各党の都連ではなく、党中央が取り仕切るのはどうしてなのか?
各党の内部自治とはいえ、自民党のように国会議員が都連の幹部を占めるのは、国と地方の自立した対等の関係を確立するうえで好ましい姿とは思えない。
こうした与野党に共通する実態は、都民と東京都の自治よりも、政党の内部事情、思惑が優先される内向き志向の弊害が露出したものと思えてならない。
都民に信を問うに足る政策を一日も早く
遅きに失したとはいえ、私は鳥越俊太郎氏が野党と市民団体の共同候補にふさわしい、都民に信を問うに足る、充実した政策を練り上げることを強く要望する。
初出:醍醐聡のブログから許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://wwwchikyuza.net/
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