「ドイツからの短信」-参議院選挙結果
- 2016年 7月 14日
- 評論・紹介・意見
- 合澤清
10日の日本の参議院議員選挙結果は、さすがにドイツでもそれなりに大きく取り上げられていた。こちらでの報道の骨子は、やはり安倍・自民/公明連立政権による「日本国憲法」の改定、特に第9条の平和条項廃棄問題に絡むものである。
7月11日の“DIE ZEIT“の記事からかいつまんで紹介したい。
表題は「日本:アベ、国会で過半数を獲得」というもので、それにすぐ続いて、「日本の安倍晋三政権は参議院選挙で勝利した。それによって確実に憲法改定の安倍プランは行われるだろう」と書かれている。そしてすぐ下に、満面の笑みを浮かべて選挙民と握手するアベの顔が大きく写真掲載されていた。
ファシズムは笑顔とともにやってくる。まさに「地獄への道は花々で飾られている」のである。押し込み強盗が、自分で『強盗です』といっては入ってこない。親切めかして入り込んだ後、突然豹変するのが世の常ではないだろうか。
「自民・公明連立政権は、日本の参議院選挙で過半数を確実にした。メディア報道によれば、安倍の連立は、憲法の改定にとって必要な3分の2以上にも達している。連立政権は既に衆議院の3分の2以上をもっている」
小選挙区制が如何にまやかしのある選挙制度だとはいえ(それが証拠に、得票総数は議員数ほどの開きがない)、アベはこの選挙結果を「国民の声」「民意だ」と強弁するにきまっている。
「安倍はアジアの国(日本)の平和憲法の変更を彼の核心にしていた。この憲法改定を実現するためには両院議員の3分の2を必要とする。安倍を止め、憲法改定を阻止するために最大野党の民進党と共産党は共通の候補を選挙戦に送り出した。しかしながら民進党は公に表明した目的議席への予測を外してしまった。選挙結果は、次の事を示している、日本人は野党の中に安倍政権への選択肢(安倍政権に代わりうるもの)を見ていないということである。」「安倍は平和的な戦後憲法が独立国にそぐわないという見解を堅持している、つまりそれは1946年に日本がアメリカ占領軍によって押し付けられたものだからだ、と。批判者たちは次のことを懸念する、アジア最古の民主主義国(日本)は、もはや民主主義的でも自由な国でもなくなっているのではないのか、自民党は党の目的を憲法改定に移動させようとしているのではないのか、と。2012年の自民党の憲法草案は基本的な市民権の制限をもくろんでいるのだ」
そして公明党代表の山口が選挙の夜にこう語ったことを紹介している「山口那津男党首は選挙の夜、日本に戦争遂行を禁じている憲法9条を来るべき未来に変更する必要は無い、と語っている」。しかし、今までのこの党の自民党追随路線を振り返ってみれば、この党に安倍の暴走をストップさせられるだけの力量も意思もない事は誰の目にも明らかだろう。表向き「反対」、裏では「一緒にやりましょう」というのがこの党の政治体質である。
「選挙戦の間、安倍晋三首相は憲法改定というテーマにほとんど触れなかった。その代わりに彼は日本経済の再建者として自己紹介していた。安倍は2012年末に首相になったが、その時の約束は経済を停滞とデフレから取り戻すことだった。しかしながら極端な金融緩和と債務融資刺激策と改革からなる彼のアベノミクスと呼ばれている経済政策は、これまでのところ思っていたような成果を上げていない。選挙の少し前、安倍は予定されていた消費税値上げを延期したのである」
これに続いて「日本の民主主義は去って行ってしまったかもしれない」という解説記事が載っている。この記事の中で安倍晋三は、「超保守主義者Ultrakonservative」とか、「保守強硬論者ein erzkonservativer Hardliner」(文字どおりには、青銅でできた保守強硬者とでもいうのであろうか?)と紹介されている。そして彼の保守反動ぶりが次のように羅列される。第一は、安倍がこの数年来、第二次大戦中の日本軍の忌まわしい振る舞いをひたすら緩和して、特別目くじら立てることではないかのように努力していたこと、第二に、戦犯を合祀している靖国神社への国会議員の参詣を、彼が取りなしてきたこと、第三に、航空自衛隊の学校で、その教材用機械のボディにNo.731と大書して、それを写真に撮っている。これはヨーロッパでSS(Schutzstaffelナチス親衛隊)という文字がもたらすのと同様に、アジアでは極めて挑発的で嫌われている数字である。第四は、安倍が憲法の改訂を公然主張することで、中国や韓国(朝鮮半島)との緊張が一気に高まる気配がある。
おおよそこういう内容になっていた。われわれ当事者よりも、他人の目の方が正鵠を得ていることが往々にしてありうる。特にドイツは、かつてやはり国民大多数の選挙での支持によって「ヒトラー、ナチス政権が樹立」した経験をもっている。彼らの言に注意深く耳を貸し、もってわが身をいさめる必要があるだろうと思う。
2016.07.13記
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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