女性週刊誌『女性自身』を買った
- 2016年 8月 19日
- カルチャー
- 吉永小百合小原 紘書評雑誌評
韓国通信NO496
8月23日30日の合併号で450円。今まで女性週刊誌を買ったことがなかったので、私には真夏の「変事」「珍事」といえる。表紙の一番上にある吉永小百合&姜尚中の対談記事が目にとまったからだ。
<私は「サユリスト」>
同世代の吉永小百合は私にはずっと気になる女優であり続けてきた。今や国民的大女優となった彼女は俳優の仕事の他、映画のプロデュース、さらにはJRのポスターで存在感を示す。また「原爆詩集」の朗読、東日本災害への支援などの社会的活動を知る人も多い。
「サユリスト」を自認する私は彼女が世の中をどう見、どう考えているか興味があった。「オバカ芸能人」が多い中、吉永小百合が週刊誌で「思い」を語った。写真入り4頁に及んだ対談から彼女の発言を抜粋して以下に紹介する。
〇若い頃、母に何故、戦争が起こったの。反対出来なかったの?と聞いたら「言えなかったのよ」。それが理解できるようになったのは最近のことだ。今の世の中は息苦しい。憲法9条の話を友人にしたら「よその国が攻めてきたらどうするのか」と反論されてしまった。最近は「反核や反戦という言葉を口にするのがためらわれる時代になった」と聞いてショックだった。
〇「戦争だけはダメ」という思いの芸能人は多いが、「バッシング」もある。こんな時代だからこそ「思っていたら言わなきゃいけない」とあらためて思う。唯一の被爆国である日本政府が明確に核廃絶を主張しないのはおかしい。
〇(沖縄に基地が必要なら)海兵隊を東京に持ってきたらどうかと思うくらい(沖縄の人に)申し訳ない気持ち。言葉では言い表せないほどつらい経験をしてきた沖縄の人たちに、もっと人間らしい対応をしてほしい。
〇これまで「さよなら原発」集会に何回か参加している。一市民として参加した。集会もデモも暗い雰囲気でないのがいい。憲法9条への思いも、お祭りみたいにして表現できるといい。今年6月の参院選挙前に、関西の市民団体に「武器ではなく対話で平和な世界を作っていきたい」というメッセージを送ったが、「市民たちが声をあげることは素晴らしい。意見が違ってもつながって行動する力強さ」を感じた。
〇「原爆の詩」の朗読を30年間続けている。原発事故以降「原発の詩」も朗読することになった。帰還困難区域の葛尾村に行ったことがある。今年の6月に避難指示が解除され、「どんどん帰りなさい」と云われても汚染が心配な子どもたちは戻っていない。原発事故は終わっていない。被災地の人たちを根本からサポートできないものか。被災者に「寄り添う」ことが大切。
〇二度と戦争をしないという憲法9条を大切にして、戦後が80年、100年と続くよう、みんなの思いで平和をつなげていきたい。戦後71年の今年、ここからが大事!
短く端折ってしまったが、特別ビックリする内容ではない。むしろきれいごとに過ぎないと感じる人もいるはずだ。しかし断定をしない静かな語り口は多くの女性読者に共感を与える内容だ。サユリストとしては喝采をあげたい。
『女性自身』の今回号は皇室関連記事、イケメン男性の話題、健康問題、料理、漫画、さらに寂聴の「いきいき名言」など盛りだくさんの内容である。パラパラめくっていると憲法の特集記事が目に入った。第一面には、誰が守るもの?誰を守るもの?「改憲」を考える前に…。憲法学者南野森さんによる憲法の解説が7ページにわたりマンガ入りで載っていた。「立憲主義」を知らない首相に読ませたい好企画。憲法前文から始まり、9条、13条、14条、15条、21条、24条、25条、26条、29条、31条を毎日の生活と結び付けわかりやすく解説。勉強感覚ではなく料理のレシピ感覚で書かれているので気楽に読める。
偶然買った女性週刊誌に圧倒された。婦人たちは美容室や病院の待合室でこんな記事を読んでいるのだ。何よりスゴイと思うのは販売部数に血道をあげている週刊誌が、女性読者に読んでもらえそうな記事として選んで掲載していることだ。啓蒙する気持ちなどはさらさらない。そんな記事なら読者から「ソッポ」を向かれてしまうはずだ。
前ページで紹介した姜尚中と吉永小百合の対談で、大切なことが知らされていないことを心配するくだりがあるが、テレビや新聞が失ってしまったものが女性週刊誌に発見できたのは今年の夏の収穫だった。もっともそれに気がついた官房長官が「憲法を解説することは問題がある」と口ばしを入れる可能性もある。宣伝をするつもりはないが合併号なのでしばらくは書店・コンビニに置かれるはずだ。立ち読みも可能だが保存版として購読をおすすめしたい。
もうひとつオススメの本 岩波新書『原発プロパガンダ』
博報堂に勤務していた本間龍の最新作だ。電力会社とテレビ・新聞との関係を「金」をとおして明らかにした。原子力ムラが惹き起した原発事故の背景には天文学的な広告費(電気料金から支払われる)によって作られた安全神話があったことを実証してみせる。黎明期、発展期、完成期にわけて実態を明らかにし、事故後の現在、原発の「再生」に向けてどのような戦略が進行中なのかが語られる。「ウソ」でも金をかければ「真実」になる。原発の問題だけではない。あらゆる情報が金と権力によって歪められる構造まで見えてくる。企業現場にいた人が勇気を奮いおこして世に送り出した「警世」の書である。
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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