国民の自信と誇りを高めるオリンピック報道?~NHKの国策翼賛体質はここにも~
- 2016年 8月 27日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2016年8月26日
一つ前の記事で掲載したNHK宛て「リオ・オリンピック報道について」の意見・質問に関して、珍しく約30分後(2016年8月26日、14時25分)に以下のような返信メールが届いた。全文を転載する。その後に私のコメントを記したので、併せてご覧いただけるとありがたい。
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醍醐聰 様
NHKの番組をご視聴いただき、ありがとうございます。
お問い合わせの件についてご連絡いたします。
ご指摘のようにIOCによるオリンピック憲章では、IOC自身と組織委員会が国別ランキングを作成しないことをうたっておりますが、メディアによる報道は禁止しているわけではありません。
取材・編集権の侵害にあたるため、IOCもメディアによる報道までは禁止していません。NHKのリオオリンピック特設サイトにも国別のメダル獲得数一覧を掲載しておりますが、これについては、事前にIOCに申請し掲載の許可をもらっています。
また、「国威発揚」という表現は、解説委員がオリンピック開催の効果の一つとして、国民を元気にする、国民の自信と誇りを高めるといった意味で使いました。
視聴者の皆さまのご意見なども踏まえて、今後もより良い放送に努めてまいります。今後とも、NHKをご支援いただきますようお願いいたします。
お便りありがとうございました。
NHKふれあいセンター(放送)
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醍醐コメント
迅速に返答が届いたのは、それなりの「誠意」かと思わなくもないが、同じような意見が数多く寄せられたため、「定型的回答」が用意されていたのではないかと想像もした。
「IOCによるオリンピック憲章では、IOC自身と組織委員会が国別ランキングを作成しないことをうたっておりますが、メディアによる報道は禁止しているわけではありません。取材・編集権の侵害にあたるため、IOCもメディアによる報道までは禁止していません。」(NHK返答)
NHKからこの種の見解――「取材・編集権」を根拠にして視聴者からの異議をさばく応答――に出会うたびに、NHK(メディア)の取材・報道の自由は何のためにあるのか、編集権は報道の倫理という自律をも超える無制約な自由なのかと考えさせられる。
「自律」とは、他者(ここではIOC)が認めたか否か、法律に触れるか否かを超えた自立的規範のはずである。
「国威発揚」という表現は、解説委員がオリンピック開催の効果の一つとして、国民を元気にする、国民の自信と誇りを高めるといった意味で使いました。」(NHK返答)
言葉のあやとりのような言いくるめの返答である。
オリンピック憲章で謳われたオリンピズムは、国威発揚のためでもなければ、開催都市への波及的経済効果のためでもない、被災者を励ますためでもない。参加する選手同士が日頃の努力の成果を競い合う場であり、それを通じて選手はもとより、関係者が国際的な友好・親善を広げ、深め合う場である。
そもそも、
*オリンピックを通じて高められる「国民の自信と誇り」とは、どのようなものなのか? 国威発揚、ナショナリズム鼓舞とどこが違うのか?
*オリンピックを通じて「国民の間に自信と誇り」を高めるのに肩入れするのは メディアの使命なのか?
そう言えば、籾井会長は会長就任会見(2014年1月26日)でこんな発言もしていた。
「――スポーツ報道の展望は
ロンドン五輪からスポーツに対する国民的な人気が高まってきていて、注目されなかったスポーツがどんどんでてきています。メディアのスポーツ放送に関する責任、役割は非常に大きいと思っています。国威発揚というと古めかしいが、奮い立たせる作用がある。スポーツ放送は極力積極的にやろうと思っています。」
籾井会長は、政治報道を通じてばかりでなく、スポーツ報道を通じても国策に肩入れするつもりらしい。
しかし、オリンピックが人々に感動と勇気を与えるとしたら、国ごとのメダル獲得数を国民に誇示することからではなく、女子バトミントン決勝で見られたような、選手同士が実力を出し尽くして、息詰まる熱戦を繰り広げること、
韓国と北朝鮮の体操選手が自撮りで一緒に撮った笑顔の写真が世界中を駆けめぐって国境を超えた賞賛を得たこと、
http://www.asahi.com/articles/ASJ8B43D0J8BUTIL01S.html?ref=yahoo (朝日デジタル、8月10日)
女子5,000m予選で足がもつれて互に転倒したり負傷したりした米国とニュージーランドの選手が励まし合ってゴールした場面が世界中を駆けめぐって国境を超えた賞賛を得たこと、
http://www.bbc.com/japanese/37103314 (BBC、8月17日)
などではないか。
あのようなシーンこそ、オリンピックでしか見られない「感動の場面」だろうと私は思う。
初出:醍醐聡のブログから許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye3617:160827〕
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