大阪地裁ヘイトスピーチ訴訟に価値ある判決
- 2016年 9月 29日
- 時代をみる
- 澤藤統一郎
昨日(9月27日)、大阪地方裁判所がヘイトスピーチを違法として損害賠償を命じる判決を言い渡した。原告は在日朝鮮人フリーライターの李信恵、被告はおなじみの在特会・桜井誠(本名・高田誠)である。認容金額は77万円。被告の側は、反訴を提起していたが、これは全面棄却となった。
注目すべきは2点。
判決は、名誉毀損ではなく民族差別を侮辱ととらえた。
そして、人種差別撤廃条約を前面に押し出した。
いずれも、今後に影響が大きい。ヘイトスピーチ撲滅への「価値ある勝利」と言えよう。
報道を総合する限りだが、認定された桜井の侮辱行為の内容は次のようなもの。
街宣活動やネット動画・ツイッターで、原告を「朝鮮人のババア」「朝鮮ババア」「反日記者」「差別の当たり屋」などと表現し、名前をもじって「ドブエ」と連呼した。
このことを通じて、在特会を「在日朝鮮人を日本から排斥することを目的に活動する団体」と断定、「人通りの多い繁華街などで原告の容姿や人格を執ようにおとしめた。論評の域を逸脱した限度を超えた侮辱で、在日朝鮮人に対する差別を助長する意図が明らかだ」「社会通念上許される限度を超える侮辱行為で、原告の人格権を違法に侵害した」と認定した。また、違法の根拠として「日本が加入する人種差別撤廃条約に違反する」と明示的に認めた。
一方、在特会側は「互いに批判し合う表現者どうしの言論のやり取りで、賠償すべき発言ではない」と主張した(NHK)というが、一顧だにされなかった。当然のことだ。
問題になったのは「互いに批判し合う表現者どうしの言論のやり取り」ではない。一方的な差別の言動である。差別の悪罵は、マジョリティからマイノリティに、強者が弱者に向けてする一方通行のもので、その逆はない。これを「相互批判の言論」へのすりかえは、卑怯この上ないというべきである。
さらに、同判決について被告側代理人弁護士は、「在日特権を批判、追及している政治団体への偏見に基づく一方的な判決で不当であり、控訴を検討する」とコメントしたという。このコメントは判決に不満だとは言っているものの、判決のどこが間違っているという指摘ができていない。むしろ、できないことを自白する内容。事実認定にはケチをつけようがない以上、不満は違法の評価にある。
「日本の裁判所の日本人裁判官であれば、『在日朝鮮人を差別し侮辱してけっこうだ』というべきではないか」とコメントすれば、ホンネがよく分かるのだが。
ところで、「公然事実を指摘して、人の社会的評価を低下させる」という名誉毀損の要件の認定には、それなりのハードルを超えなければならない。一方、民族差別の言動を人種差別撤廃条約に照らして違法とし、これを「人格権を違法に侵害した侮辱」ととらえれば、被害者側からの訴訟は簡明になる。今は代理人弁護士が付かなければ提訴は困難だが、やがて代理人不要で定式化された訴状のひな形に、侮辱の言動を補充することで損害賠償請求訴訟提起が可能となる。無数の反差別裁判が日本中に提起されることによって、民族差別がなくなることを考えると痛快ではないか。
判決後、原告は伝統衣装のチマ・チョゴリ姿で記者会見し、「どんな判決が出るのか眠れなくて不安でしたが、民族差別だと認められたのはうれしく、すごく価値のある勝利だと思います。これからも小さな勝利を積み重ねて差別のない社会を作りたい」と喜びを語ったという。
深く同感する。あなたの勝利は価値あるものだ。その「小さな勝利の積み重ね」が差別のない社会に通じる。不義不正の横暴と闘ってこその正義の実現である。面倒な訴訟を勇気をもって提起し、勝訴されたことへの敬意と祝意を表したい。
(2016年9月28日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.09.28より許可を得て転載
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