東京の教育現場における「日の丸・君が代」強制の実態。
- 2016年 10月 15日
- 時代をみる
- 澤藤統一郎
本日は、東京「君が代」裁判第4次訴訟での原告7名についての本人尋問。東京地裁103号大型法廷で、午前9時55分開廷午後4時30分閉廷までの長丁場。充実した、感動的な法廷だった。
10・23通達関連の訴訟は数多いが、そのメインとなっているのが、起立斉唱命令違反による懲戒処分取消を求める「東京『君が代』裁判」。172名の1次訴訟から始まって、現在一審東京地裁民事第11部に係属しているのが4次訴訟。
2010年から2013年までの間に、17名に対して懲戒処分22件が発せられた。その内の14名が原告となって、19件の処分取消を求めている。なお、処分内容の内訳は、「戒告」12件、「減給1月」4件、「減給6月」2件、「停職6月」1件である。
主張の骨格として、第1に、公権力は、立憲主義の構造上、主権者に対して、国家象徴に敬意表明を強制する権限をもたないとする立論(「客観違憲」と呼んでいる)をし、また第2に、個人の権利侵害による違憲違法性として、憲法19条、23条、26条違反ならびに国際条約等に違背する(「主観違憲」)ことを主張している。さらに、本件各懲戒処分が裁量権を逸脱・濫用したものであることを主張している。
申請のとおりに原告13名の本人尋問が採用されて、本日(10月14日)7名、次回(11月11日)に6名の尋問が行われる。
本日7名の原告は、それぞれの立場から処分の違憲違法を基礎づける事実を語った。皆が、児童・生徒を主人公とし、それに向かい合う真摯な教育実践を語り、その教育理念と真っ向背馳するのが、「国旗国歌」ないし「日の丸・君が代」に象徴される国家主義的教育観であり、公権力による教育支配であると述べた。
ある者は、侵略戦争と植民地支配をもたらした戦前の教育の誤りを語り、その轍を踏んではならないとする思いから日の丸・君が代を受容できないとし、またある者は、教員としての良心において、生徒に国家主義を刷り込む行為に加担できないとし、またある者は生徒の前で面従腹背の恥ずべき行為はできないとした。
明らかになったことは、誰もが悩みなく不起立を貫いているのではないこと。多くの原告が、最初は不本意ながらも起立していたという。強い同調圧力と懲戒処分の威嚇効果からである。累積処分が職を奪うことになる恐怖心から不本意な起立を重ねたという原告がほとんど。しかし、やがて真剣に生徒に向かい合おうとする努力の中で、不本意な起立に訣別する。悩みながらも、自分を励まして、起立強制を拒否するに至る。問題の深刻さから体調を崩し、精神的なバランスを崩したりの葛藤の末にである。さながら、感動的な7本の人間ドラマを観ている趣だった。
また、各原告は「10・23通達」体制下で、教育現場がいかに変わったか。都教委の横暴が、現場をいかに荒廃させたかを語った。職員会議での採決禁止通達以来、教員集団の教育力は地に落ち、教員の情熱も自発性も責任意識も、既に大きく失われてしまったとの証言は生々しい。
私が主尋問を担当した教員は、不本意ながらも起立を続けたあと、大きな緊張と決意で不起立に転じた。しかし、5回の不起立は現認処分なく経過し、6回目から処分されるようになった。その後、現認と処分が繰り返され、3度の戒告処分を受けたあと、2度の減給処分を受けている。
この教員は次のように述べている。
「反省なく、不起立を繰り返せば処分を重くするのは当然、という考え方には同意できません。一般的な非違行為であれば、反省を欠くとして繰り返しの処分が重くなることは理解できます。しかし私は、自分の思想や良心に照らして、起立できないのです。非違行為といわれること自体も不本意で、反省の色が見られないと言われても反省のしようがありません。」
「もちろん戒告も納得できませんが、4回目と5回目の処分が戒告ではなく減給になっていることについては、どうしても納得できません。私の思想や良心は不可分の一個のものです。何回目の不起立であろうとも、職務命令に従えなかった理由は、同じ一個の思想・良心に基づくということです。ですから、私の思想良心が変わらない限り、同様の状況で職務命令が出されれば、結果として何度でも不起立とならざるを得ません。私に、『反省して起立せよ』というのは、思想や良心を変えろ、あるいは屈服せよ、ということです。減給処分は、そういう脅しにほかなりません。」
次回(11月11日)午前9時55分から午後4時30分まで、6名の原告尋問が、同じ103号法廷で行われる。関心おありの方には是非傍聴をお薦めする。いま、この社会で、東京の教育現場で起こっている現実が語られる。貴重な体験となると思う。
(2016年10月14日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.10.14より許可を得て転載
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