世界史の大転換か - 米大統領選挙、まさかのトランプ勝利 -
- 2016年 11月 10日
- 時代をみる
- 伊藤力司米大統領選
11月8日投票のアメリカ大統領選挙で、野人ドナルド・トランプ共和党候補が大方の予想に反して、正統政治家のヒラリー・クリントン民主党候補を破った。トランプ氏は来年1月20日第45代アメリカ合衆国大統領に就任する。筆者は当ブログ10月31日のエントリーで、アメリカ社会を揺り動かしたトランプ現象は「アメリカが壊れつつあることを示す」という分析を書いたが、トランプ勝利を予測することはできなかった。
筆者の知る限りトランプ勝利を予測したのは、アメリカ社会の暗部を描くことで定評のあるドキュメンタリー映画の監督マイケル・ムーア氏(民主党支持者)と国際情勢解説者田中宇(さかい)氏の二人だけである。ムーア氏は、トランプ支持者の多いラスト・ベルト(rust belt さびれた工業地帯)のミシガン州出身で、中産階級から貧困層に転落した白人ブルーカラーの境遇と気分をよく知っている。
トランプ氏は、自動車産業の経営者を対象に行った講演で「私が大統領になったら米国からメキシコに移した工場から、米国に逆輸入する自動車に35%の高関税をかけてやる」と言い放った。ムーア氏によれば、自動車産業の経営者、自由貿易推進の政治家や金融界などスーパーリッチのせいで、中産階級から貧困層に転落させられたラスト・ベルトの人々に残された復讐の最後の手段は「投票」だ。多くの人々がトランプ氏に投票することで大金持ちに復讐しようとしていると、ムーア氏はトランプ勝利を予測していた。
これに対してアメリカのマスメディアは圧倒的にクリントン支持であり、トランプ氏の女性蔑視発言やら、大金持ちでありながら連邦所得税を18年間払わなかったことなどをあげつらった。また各メディアが行った世論調査では、程度の差はあれクリントン優位を報じ続けた。だがマスメディアは結果として、アメリカ市民トータルの心情を正確に伝えることができなかった。
ヒラリー・クリントン氏が、夫のビル・クリントン大統領時代に8年間ファーストレディとして、次いでニューヨーク州選出の上院議員として8年間、さらに2008年から第1次オバマ政権の国務長官として4年間の計20年間、アメリカ政界の中枢にあったベテラン政治家であることは誰もが知っている。それに比べてトランプ氏はリッチな不動産王であり、TVショー番組の司会者として著名人ではあるが、政治にはまったくの素人だ。
対照的なキャリアを持つ両氏が大統領の座を争うのは、240年のアメリカ史上初めてのこと。それだけにワシントンの政界筋や政治記者たちは、アマチュアのトランプ氏に厳しく、プロのヒラリー氏には甘い採点をつけたようだ。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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