26万100万126万人 韓国通信NO511
- 2016年 11月 22日
- 評論・紹介・意見
- 小原 紘韓国
韓国通信NO511
去る12日、大統領退陣を求める「キャンドル集会」に想像を絶する多くの人たちが集まった。朴大統領自らが「情けない」といえば、国民も「情けない」と怒った。大統領支持率は三週連続5%! 若者の支持率は何と!0%。「残存5%ならバッテリー(朴大統領、韓国語の発音でバクテドリョン)も交換」というプラカードには思わず笑ってしまった。
「韓国政治が恥ずかしい」という巷の声。憲法を守らない大統領。国政を私物化した「オトモダチ」政治。財界との癒着。次々に明らかになるスキャンダルに韓国人はもちろん私たち日本人もあきれた。
19日(土)には前週に引き続き、4回目の「ローソクデモ」がソウルだけでなく全国で行われた。「ねばる」大統領側に対して民衆側はすでに長期戦の構えで、「退陣」「下野」まで一歩も引かない態勢に入ったと言われている。
朴槿恵大統領を支持する5%の人たちのデモが行われたが、保守系の新聞も揃って、「風が吹けばそのうち、ろうそくの火は消える」「憲法では大統領を辞めさせられない」という大統領側の開き直りに厳しい批判を加えた。12/18付『中央日報』は「大韓民国の主権は国民にあり、すべての権力は国民から生じる」、憲法1条に背いた大統領は退陣すべき、「風が吹いても国民は集会に出てろうそくの火を持つだろう」と断じた。
<日本政府の困惑>
日本のマスコミは連日、窮地に陥った朴槿恵政権を報じるが、前代未聞の「スキャンダル」を興味本位(時には芸能スキャンダルなみ)に報じているように見える。
韓国国民の怒りは大統領個人の問題にとどまらない。批判の眼は韓国社会全体を覆っている権威主義への反発、それから生まれた不公正、貧富の格差、分断社会の息苦しさなど、韓国が抱えているあらゆる問題に向けられている。先進民主主義国ニッポンという高みから今回の事件を見ていると理解できないことかも知れない。だが、セウォル号沈没事件も大統領の憲法違反も国政の私物化も日本とは全く無縁なことなのか。
財界挙げての企業献金。収賄事件(甘利大臣の事件は記憶に新しい)、教育の機会平等のない不公平社会。死ぬまで働かせる企業、非正規雇用の横行。福祉の切り捨て。原発の再稼働。沖縄の基地問題。自衛隊の海外派兵。日本も韓国同様、不安と不満が渦巻く社会だ。
韓国国民の怒りは日本にも向けられている。従来から渦巻いていた朴政権の対日・対米外交への不信がここに来て表面化し始めた。
北朝鮮の脅威に対して日米韓が緊密な軍事行動をとるための情報の共有化―軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結に対して韓国世論の過半数が反対、締結が危ぶまれている。日本の集団的自衛権を容認した軍事大国化に対する不安が背景にある。また朴政権が日本と拙速に合意した従軍慰安婦問題についても異論が噴出している。当事者抜きの解決はあり得ない。反省と謝罪抜きの日本政府に国民は納得しない。日本とは直接関係はないが、アメリカ軍が推し進めてきたTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)の韓国配備計画も白紙化される可能性が生まれている。
「新しい社会システム」を求める韓国国民はこれまでのアメリカの覇権主義を背景にした日米韓の軍事一体化をそのまま受け入れそうにない。朴槿恵大統領が国民の意見を無視し続ければするほど韓国の日米離れが加速するはずだ。今回の事態を日本政府も決して「対岸の火」とは見ていない筈だ。
<まさに対岸の火事ではない>
同じ問題を抱えた日本に韓国の反政府デモが「飛び火」する可能性が十分ある。20世紀後半に東欧の社会主義政権が次々と崩壊した事例、2010年から始まった「アラブの春」がそうだったように民衆の蜂起は国境を超える。
「和」と「おもてなし」の心を持ち、「お上」と争わない日本人が凄まじい反政府デモを見て目覚めることを心配する人がいる。
「デモは意味がない」と思い込んでいる日本人が余りにも多い。投票に行かない。自分で考えて投票しない。選んだ政治家のデタラメを許す。これまで政治に無関心だった日本人が、若者たちから年寄りまで、自分意思を表現する韓国市民を見て何も感じないはずはない。全く影響がないとするなら日本人の「一大事」ではないのか。
NHKも民放、大新聞も韓国の「政局報道」に熱を入れても、市民たちの不満や要求を掘り下げた報道をあまりしていない。日本も「同じだ」と気づかせない報道ぶりだ。
12日のデモ参加者はソウル市発表126万人、主催者発表100万人だった。NHKが警察発表26万人にこだわり続けたのが何とも不思議だった。主催者側は多めに、取り締まる側は少なめというのが「常識」だが、あえて少なめの警察発表を採用したNHKは、「大した人数ではない」と思いたい大統領側と、飛び火を怖れる日本政府をおもねているように見える。126万と26万では5倍近い差がある。数字に自信があるならNHKはその違いを釈明すべきだ。
問題を明らかにし、市民の間に運動が広がることを恐れたきたNHKのこれまでの報道姿勢がこんなところにも表れている。NHKは権力者の思いを伝える、まるで鏡のようだ。
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