青山雫氏の論文についてのコメント
- 2016年 11月 26日
- スタディルーム
- 吉村信之
- 日時 2016年11月26日(土) 午後2時~5時
- 立正大学大崎キャンパス 9号館5階 951教室
- 報告者:青山雫
- 題 目 1930年代世界大恐慌の教訓と2008年世界金融恐慌・アベノミクス」
- コメンテーター:五味久壽(立正大学名誉教授)、吉村信之(信州大学、
以下のものを読ませていただきました。
①「青山論文要旨 現代恐慌論へのプレリュード 2016/11/19」
②「情況2016年8/9月号掲載 1930年代世界大恐慌の教訓と2006年金融恐慌・アベノミクス」(報告)
③「1930年代世界大恐慌の教訓と2006年金融恐慌・アベノミクス」(『情況』掲載論文)
勉強になりましたが、コメントなので、以下、疑問点についてのみ記すことにします。舌足らずのため、意図が伝わりにくいかも知れません。誤読等あればお許しください。
(1)全体を通じて、1930年代世界大恐慌と2008年の金融危機との比較に重点が置かれており、共通点として、中央銀行による金融引き締めがそうした中央銀行信用に依拠した限界部分にしか効果が無いということを強調されているように読める(①4‐5頁、③9頁)。
同様の観点から、19世紀循環性恐慌やアベノミクスについても論じられているが(③8‐9頁)、金融政策が恐慌期以降の不況期にそれほど奏功しないことはその通りであるが(「意図を引っ張るのは簡単だが、押すのは難しい」[ケインズ]③15頁)、金融引き締めが恐慌の勃発そのもの、つまりブーム末期のバブル退治には歴史的事例から見ても大きな力を発揮したのではないか。1929年10月の大恐慌勃発は、確かに青山氏の言うとおり、連銀の金融引き締めが鋭角的な恐慌勃発に直線的につながることはそれほどなかったものの(これはアメリカ金融市場の特殊性と当時の再建金本位制下でのアメリカへの資金流入が重なったものと思われる)、19世紀の循環性恐慌におけるイングランド銀行のバンクレート引き締めや2008年サブプライム危機における投資銀行の資金調達困難から発生した短期流動性危機等々は、その後の後始末を含めて中央銀行による短期資金の供給の有無が景気の転換に重要な役割を演じているように思える。恐慌勃発時の中央銀行の役割(ブームを退治する機能)を、1930年代の連銀の金融政策や今日のアベノミクス等における不況期における景気浮揚策としての金融緩和の効果という問題と一緒にして、「効かないものは効かないものよ」(③10頁)としてしまうのは、無理な一般化ではないか。
(2)世界大恐慌について、侘美大恐慌論に依拠して「かつての自動回復力を伴う循環性恐慌とは全く変質」(③2頁)と判断する根拠。もし市場メカニズムによる均衡回復力が侘美大恐慌論の言うように独占体その他の力で「全く変質」していたとするならば、1980年代以降の市場原理主義がそれなりに奏功した点を青山氏はどう考えておられるのか。同じ文脈での大内国独資批判(②4頁注1)について、青山氏は労働生産性の範囲内に賃金を上昇させ(労働者を耐久消費財の購買者にし)ていくという戦後の蓄積体制についてのこれまでの通説的な理解そのものが成り立たないと考えておられるのか。
(3)2008年危機と1929年大恐慌下の状況は、先日のトランプの選出等々、アメリカの孤立主義への回帰という点で、政治的には似通ったものがある。青山氏の分析では、アメリカの産業構造の転換の代表こそ、「IT分野であり、金融業界なのであ」(③13頁)るという見解が示されている。1930年代と今日の世界とのアナロジーという青山論文のシェーマからいうと、では産業としては、戦間期には不発に終わった自動車・耐久消費財産業の普及が、戦後の高度成長を作ったように、今後は「IT分野」と「金融業界」の拡大が新たな成長基盤になると青山氏は考えておられるのだろうか。
以下、やや瑣末な点
(4)「宇野が作り上げた神話」(②3頁)について。好況末期の労賃騰貴はそれほどでもなかった、農産物騰貴の方が恐慌に決定的だったとの説を『恐慌論研究』(馬渡論文?)から引き出しているが、そもそも労働力商品と一次産品は資本蓄積に対する供給制約になるメカニズムは同じであり(両者とも自然の産物である点)、この点を強調したのは青山氏が依拠する侘美氏ではなかったか(侘美光彦[1990]『世界資本主義』日本評論社)。また資料的には問題があるにせよ、いくつかで19世紀好況末期における労賃騰貴については実証も挙がっており(川上忠雄[1971]『世界市場と恐慌』法政大学出版会、同[2013]『1947年恐慌』御茶の水書房)、この点を於いたとしても、(青山氏がそう主張しているかどうかは不確かだが)そもそも好況末期に労賃上昇が生じないとする方が論理的にいって難しいのではないか。
(5)青山氏がバブル退治における金融政策の無効性を主張する背景について。いわゆるFed view(事後対策)とBIS View(事前対策)の例でいえば、青山氏は後者のようなバブルの事前退治については否定的な(不可能と考えている)ように見える。では前者かというと、グリーンスパンの発言「バブルは潰れてみないと分からない」に対する揶揄に見られるように(③4頁)、必ずしも賛同しているわけではないように読める。ベーシックインカムによるマインドの安定化(②8頁)という対策のほか、本稿の太宗を占めている金融政策という側面については、どのような対策が取られるべきと考えられているのか。
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『情況』8-9月号掲載青山論文「30年代の教訓と2008年金融恐慌・
アベノミクス」を恐慌形態変容論へと整理し、現代恐慌論へのプレリュードと
して報告します。
出席はできません、文書でコメント)
●どなたも参加できます。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study786:161126〕
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