セルビア軍の兵士労働組合
- 2016年 12月 8日
- 評論・紹介・意見
- 岩田昌征
1999年にNATO軍が新ユーゴスラヴィア軍とたたかった時、新ユーゴスラヴィア軍の主力は、セルビア軍であった。NATO軍の将校達は、セルビア軍の戦車を百数十台破壊したと戦果を誇っていたが、休戦が成立してみると、セルビア陸軍は殆ど無傷であった。そんな事実を知らないで、NATOが地上戦を開始していたならば、結果はどうなっていたであろうか。
やがて、新ユーゴスラヴィアは、解体して、セルビアとモンテネグロの二国家となった。今年、モンテネグロのNATO加盟は事実上決定した。セルビアは、NATOとロシア連邦のいずれとも距離をおく、軍事的中立の立場をくずしていない。
そんなセルビア軍に関する興味深い記事「兵士労働組合の抗議」(イェレナ・ポパディチ記者、2016年11月23日、水)がベオグラードの日刊紙『ポリティカ』にのっていた。
兵士労働組合(メンバー7000人)が防衛省に諸要求をつきつけ、25日(金曜日)までに諸要求をのまないと、すでに予告してある抗議集会を防衛省の前で27日(日)11時55分に実行する、と言うのだ。もし実行されれば、セルビア軍の歴史で初めての事件だ。
新聞には防衛大臣ゾラン・ジョルジェヴィチと兵士労組代表者達との団交の様子を示すかなり大きな写真がカラーでのっていた。22日に開かれたらしい。
兵士労組の要求は、以下の如し。
基本給が2万6100ディナール、すなわち2年前の額よりも低かったならば、予告通り、抗議集会を防衛省前で開く。
任務中の傷病の治療中に解雇するな。
軍関連の医療施設を削減するな。
兵士労組活動が妨害なく出来るような諸条件を整えよ。
軍の被雇用者のための労働協約締結交渉を開始せよ。
そのほかに、兵士労組の代表者達は、次のような諸事実を指摘している。
軍内のアンケート調査によれば、半数が給与に不満であり、前年や前々年よりも不満者は倍増している。軍隊法によれば、基本給は、セルビア社会の平均賃金の75%以下になってはならないはずだ。今年9月の平均賃金は4万6558ディナールであるから、上記の2万6100ディナールは譲れない。軍務遂行の士気にいちじるしく影響するほどに、物質的条件が悪い。経験ある古参下士官と将校の間の給与格差が大きすぎる。将校は下士官の2倍以上の給与をもらっている。そして、自分達の行動には、スポンサーもなければ、政治的背景は全くない、と念を押している。
こんな『ポリティカ』の記事を読んだので、インターネットでセルビア語(Vojni Sindikat Srbije)で「兵士労組」を検索してみた。びっくりした。集会は開かれていた。約1000人参加。しかも警察官労組との合同集会だった。
12月11日(日)11時59分に、政府の建物の前でセルビアの警察官労組と兵士労組が合同で抗議集会を開くそうだ。
そして、兵器産業諸会社の労組からも、支援の手紙(12月1日付)が届いている。
その上、更にびっくりする事に、ロシア連邦秩序維持機関の従業員労組との国際連帯・国際交流も実現されつつあると言う。
日本で自衛隊労組や警察官労組が考えられるであろうか。
(注)11月23日の為替レートは、100円=104.6ディナール
平成28年12月7日
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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