日本を破滅の寸前にまで追い込んだものとは何か
- 2016年 12月 21日
- スタディルーム
- 島薗進
山崎雅弘著『日本会議 戦前回帰への情念』書評
首相の靖国神社参拝、特定秘密保護法の制定、集団的自衛権の是認、憲法改正の提起などの政策を押し進めてきた安倍政権が、いったいどのような考え方に基づいてそのような強硬姿勢をとっているのか。それを知るには日本会議という組織について調べてみる必要がある。安倍首相が日本会議系の人々を重用していること、その考え方が日本会議が主張してきたことと合致しているのは明白だからだ。
しかし、機関誌『日本の息吹』などの刊行物を丁寧に追って、この集団の考え方の特徴を歴史的に明らかにしていくのは容易ではない。一九九七年に設立された日本会議のもととなった団体は一九七〇年代半ばから八〇年代初めに成立しているが、そこで採用されている思想信条は戦後の早い時期に固められている。
そして、それは戦前、国民皆が天皇にいのちを捧げることが促された時代を彷彿とさせるような思想内容を核にしている。戦時中の日本で理想とされた日本のあり方に「本来の美しい日本の国柄」を見ているかのようだ。
なぜ、そうなのか。戦前から戦後への転換をどう受け止めて「本来の日本」を考えるか。日本会議を理解するにはここが要となる。著者はこの点を踏まえて、日本会議の「思想」、「価値観」、「目ざす目標」を明らかにしている。安倍政権が何を目ざしているかは、昭和初期から現代に至る歴史的展望のなかで捉えてこそよく見えて来る。
本書を読んだ後、あらためて国会議員の多くが日本会議国会議員懇談会に属するという事実を知ると目眩がするかもしれない。明治以降に広められた「国体」論や「国家神道」の影響が、なお現代に色濃く及んでいることに愕然とする読者も多いだろう。
著者がいうように、日本会議の思想信条について知ることは、日本を破滅の寸前にまで追い込んだものが何かを顧みる機会ともなる。その理解を踏まえて、日本の精神文化の伝統について、また神道についてあらためて考え直したいものである。本書は伝統文化を深く愛することの意味を問いかけてもいる。
初出:『青春と読書』2016年8月号から許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study804:161221〕
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