ぼんぼん宰相の行き当たりばったり外交
- 2016年 12月 27日
- 時代をみる
- 外交安倍盛田常夫
白けた「トランプ詣で」からほどなくして「裏地ー見る」の罠にはまり、オスプレイ飛行再開を「理解」して、オバマの顔を立てるハワイ巡礼の旅に向かう無定見な放浪外交
慌てる乞食は貰いが少ない
トランプが大統領選に当選して慌てた首相官邸の拙速外交は、後代にまで語り継がれる笑い話になるだろう。外務省の予想と異なる結果に驚き、首相官邸が慌てた様子は容易に想像できる。ボンボン宰相の驚きと焦りに、官邸秘書官たちは慌て、予想を外した外務省を無視して、必死に別のコネクションを探す。こういうときの秘書官たちの傲慢さと強引さは目に余る。首相の威を借りて、外務省の無能さを批判し、次官や担当大使・公使を怒鳴りつけることも稀ではない。今回は経済産業省のトップ官僚に、トランプタワーに入居している日本企業を使って、なんとかコネをつけろと命令した。
逆転一発で、先進国の中で一番初めにトランプに面会できる政府首脳となり、首相官邸は沸いたことだろう。アメリカ政府からの警告で個人面談だと釘を刺されても、死に体のオバマに何の遠慮が要ろうか。ところが、アメリカからアルゼンチンに渡り、意気揚々と臨んだAPEC首脳会議の直後に、トランプがTPPからの離脱を表明して、「アベノ・トランプ詣で」は白けたものになってしまった。「何だ、ゴルフや四方山(よもやま)話だけだったのか」、と。
50万円の金色ゴルフクラブを手土産にするというセンスも理解できないが、相手も同程度の俗物だから良いとして、トランプがこの程度の代物を有難がるわけがない。純金製の黄金クラブならどこかに飾っておくだろうが、「ポチがもってきたメッキもの」と下駄箱に仕舞われているか、誰かがお下がりを受けるのが関の山だろう。ゴルフクラブの買い出しに外務省の職員を使ったようだが、こういう無駄な仕事が結構多いのが外務省なのだ。官邸秘書官から言われれば、外務省も趣味が悪いと思っても断れない。
ネットでは、「50万円でトランプに会えるなら安い」という阿呆なコメントが多く見られたが、国際政治の世界では「日本のおもてなし」や「土産の心遣い」など何の威力もない。少しは効果があるのではないかと考えるのは日本人だけだ。井の中の蛙だから、世界を知らない。西欧の首脳たちは、日本の首相は政治的センスがあって、硬質な論理と高尚な趣味を持ち、立ち振る舞いも素晴らしいなどとは露も思っていない。金箔趣味の秀吉に詣でる田舎大名程度の認識だ。安倍マリオも金色クラブも、国内向けの話題作り以上のものではない。世界を知らない日本人には、到底理解できないだろうが。
ともかく、「トランプ詣で」は、堅固なディフェンスを忘れ、前掛かりになりすぎて失点する素人外交だ。
「裏地ー見る」とは何だ
欧州では日本のテレビの衛星放送が見られる。安倍―プーチンの共同記者会見はライブで放映された。ボンボン宰相の喋りはいつも舌足らずで、語尾が不明瞭だ。短く区切って話す時ですら、早口になると、最初の音と最後の音を何と発声しているのか分からない。
ボンボン宰相が何度も繰り返した「裏地ー見る」と聞こえた音が、「ヴラジーミル」だと分かるまで時間がかかった。「ウラジーミル」と発声したつもりのようだ。たぶん、プーチン本人も、最初は何を言っているのか分からなかったはずだ。何度も繰り返すから、自分の名を呼んでいるようだと分ったとは思うが。
ロシア語綴りのBは英語のVと同じ発音だから、歯で下唇を噛む発声になる。日本語にない発声だから難しいが、ぼんぼん宰相はアメリカで2年も語学を勉強し、その後も会社員時代にアメリカ勤務があった。発音の基本を学ばなかったはずがない。FとH、BとVの違いは嫌というほど叩き込まれたはずだが、そういう勉強はしなかったようだ。
もっとも、ぼんぼん宰相の面目のため言えば、今回の「裏地ー見る」は首相が考えついたものではなく、外務省の指南である。ロシア語のVの音は日本語の「ウ」のように聞こえるから、外務省も「ウラジーミル」と表記を使っているようだ。
「ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン(H.E. Mr. Putin, Vladimir Vladimirovich)」
上の外務省標記では、ミドルネイムのvichのvには「ヴ」を当てていながら、先頭に来るVは「ウ」を当てている。先頭に来るVは無声化してFになりやすいから、Uと発声しても良いと考えたのだろうが、日本語のU(ウ)と発音してしまうと、破擦音にならないから間違った発声になる。日本語にVの音がないから比較は難しいが、例えて言えば、「ブラジャー」と「フラジャー」と発声するようなもので、急に「フラジャー」と言われたら、まず英語が母語の人は何を言っているのか理解できない。昔はPhotoを「ホト」と表記していたが、今では「フォト」と発声に近い表記をとっているのと同じである。逆に、今の若い人には「ホト」を理解できないだろう。
外人の名前を呼ぶときは、正しい発音にもとづく発声に努力しないと、礼に失する。自分の名前が間違って発声されて、気持ちが良い人はいない。「晋三」を「シュンゾウ」や「チンゾウ」と何度も呼ばれれば、良い気持ちはしないだろう。日本人はこういうところはきわめて鈍感だ。
プーチンは温泉に入らなかったようだが、それは予想できたことだ。客人をもてなすのは日本の良い習慣だとは思うが、誰もが魚料理や寿司が好きなわけではないし、温泉が好きなわけでもない。よほどの日本通でない限り、欧米の政治家で日本の食文化や生活文化に拘りのある人は多くない。そもそも、欧米の政治家は、日本の政治家のように、公金を使って頻繁に5つ星のホテルやレストランで食事しない。また、ヨーロッパの温泉はほとんどが38℃止まりだから、日本の温泉は熱くて入れない。欧米ではぬるま湯に1時間ほど浸かるのが温泉浴である。だから、欧米の政治家に「おもてなし」の粋を極めた接待を行っても、日本人が考えるような有り難みを感じることなど期待できないし、それで交渉ごとがうまくいくことはない。そう考えるのは日本の宴会政治の発想でしかない。それが日本の政治家には理解できない。首脳会議や国際会議があるごとに、日本では討議の内容より、食事などの接待内容が大きな話題になるが、まったく公金の無駄遣いだ。
飛行停止を要求できない日本政府
プーチンに北方領土返還と日米安保との矛盾を突きつけられたボンボン宰相だが、その意味をどこまで分かっているのだろうか。事あるごとに、「日米同盟関係」という枕詞を使っているが、日本とアメリカとの間に軍事的な意味での対等な同盟関係は存在しない。日本は軍事的主権をアメリカに握られており、日本が自立的に軍事上の判断を下す権限をもっていない。そのような現状で、北方領土が返還されたらどうなるのかとプーチンは問うている。それにたいして、日本政府は何も答えていない。答えられないのだ。
図らずも、オスプレイの墜落後の政府の対応で、アメリカにたいする日本の軍事的従属関係が明々白々に露呈されてしまった。何とも間の悪いことだ。日本政府は、「事故原因が明確になるまで、飛行停止」を「お願いする」ことはできても、それを最後まで貫き通すことができない。アメリカ軍が飛行再開の意向を示せば、それを「理解する」ことしかできない。何とも情けない限りだ。
オスプレイの2件の事故から1週間も経たないのに、菅官房長官も稲田防衛大臣も、「米側の説明は防衛省、自衛隊の専門的知見に照らし合理性が認められ.......オスプレイの空中給油以外の飛行を再開することは、理解できる」と、防衛省幹部が用意した文面を読むだけである。この文言には、日本政府の主体的な判断は何一つ示されていない。「アメリカが言っていることは理解できる」と言っているだけである。これが日本におけるアメリカとの軍事関係の現状だ。日本は軍事主権を持たないから、日本駐留のアメリカ軍にたいして、自らの主張を通すことができない。アメリカ軍の言い分をただオウム返しする以上の知恵をもたない。日米安保は戦後占領の継続だから、軍事的に対等な同盟関係など存在していない。軍事的に日本は主権国家ではないのだ。
アメリカへの軍事的従属関係を前提にしたままで、北方領土問題は解決しない。だから、一方的な経済的貢献だけに終わることは目に見えている。「従属同盟」を「対等同盟」であるかのように思い込んでいるボンボン宰相には、日米安保を維持したままでは北方領土返還実現が不可能なことを理解できないだろう。
過去の歴史を不問にする相互訪問
オバマ大統領の広島訪問の返礼や、「トランプ詣で」で怒りを買ったことへの謝罪を兼ねて、ボンボン宰相は真珠湾を訪問する。どの民族にとっても、過去の歴史を直視し、そこから学ぶとことほど難しいものはない。
オバマ大統領は非戦闘員である市民を大量殺戮した原爆投下について、間違いを認めることはなかった。オバマ大統領のみならず、戦後のアメリカの歴代大統領は、「日本への原爆投下を戦争終結のための不可欠な戦闘行為だった」という以上の説明を行っていない。このアメリカの姿勢こそ、戦後の世界各地におけるアメリカ軍による大量虐殺を正当化させている出発点である。自らが正しいと考えれば、「大量の市民が犠牲になっても止むを得ない」という正当化こそ、帝国主義的発想である。その出発点は原爆投下にある。
戦後の世界で、もっとも大量の殺人を行ってきたのはアメリカである。ヴェトナムでの大量殺戮は、まさに広島の原爆投下の延長線上にある。ヴェトナムや中東でアメリカが惹き起こした戦争のために、どれほどの命が犠牲になったか。そういう反省ができるまで、アメリカは原爆投下について、間違いだったことを認めることはないだろう。
アメリカが誤りを認めないのだから、日本も真珠湾攻撃を謝罪する必要はないのだろうか。ボンボン宰相にとって、オバマ大統領が原爆投下を謝罪しなかったことが、真珠湾訪問を決める救いになっている。オバマ大統領と同様に、犠牲者を慰霊するが、謝罪はしない。日本帝国主義の侵略戦争を認めたくないボンボン宰相にとって、これほど都合の良いバーター取引はない。
アメリカが帝国主義的な戦争を止めない限り、原爆投下への反省は不可能だろう。だから、ボンボン宰相も、過去の日本帝国主義への反省を口にする必要はないと考えているのだろう。なんとも虚しい相互訪問である。
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