自滅する西側世界の左翼運動 左翼のリベラル化と極右の台頭
- 2017年 2月 8日
- 時代をみる
- 童子丸開
バルセロナの童子丸開です。
新しい和訳記事ですが、これも前回と同様に、スペインのポデモスの動向に絡めています。しかし今回の記事の内容は、前回と同じく、アンチ・トランプの嵐が吹き荒れている欧州と米国(たぶん日本も)では非常に問題にされるべきものでしょう。
ぜひご拡散をお願いします。
この訳文はこちらでもご覧になることができます。
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自滅する西側世界の左翼運動
左翼のリベラル化と極右の台頭
先日、当サイト記事『“反対派でっち上げ”と誤誘導される大衆運動』)の前置きで書いたのだが、いまスペインの新しい左翼政党ポデモスが分裂あるいは党の変質という、重大な危機を迎えている。今回の和訳(仮訳)は、そのミシェル・チョスドフスキーの文章と並んで、ポデモスを襲う「死に至る病」について書かれているものだ。(参照:『ポデモスは分裂の危機?カタルーニャは?』)
私はポデモス党首(2017年2月7日現在)のパブロ・イグレシアスの考えが十分に労働者階級に根差しているとは考えていない。グラムシの影響を受けているのか「文化的な要素」に引きずられているところがある。しかし彼は幼いころからマルクス主義運動と労働運動の中におり、マドリッドの労働者地区に居を構え、ポデモスを街頭と地区(calle y barrio)に根差した運動体に戻そうと苦心している。この党がイグレシアスの下に強力にまとまっている限り、ヨーロッパだけではなく世界中の左翼運動をその原点に、労働者階級の闘いへと、引き戻す流れが生まれる可能性が残されるだろう。
問題はポデモスの内部に結党当初から、あるいは15M(キンセ・デ・エメ)運動に初めから、紛れこんでいたリベラル派の者たちだ。党内部の半分がこの者たちに引きずられている。イグレシアスがありったけの勇気を払ってこの者たちと決別し、ポデモスを新しい党に作り替えない限り、この左翼政党は、他の西側世界の左翼政党・集団と同様に、自滅の坂道を転げ落ちるのみだろう。この2月11日と12日に(当初予定されていたより短縮されたが)行われる全国党大会がどのようになるのか注目される。
今回翻訳したのは、スプートニク・ニュースに寄せられた次の記事である。
https://sputniknews.com/columnists/201702021050271445-far-right-liberalization-lessons/
How the Liberalization of the Left Led to the Rise of the Far-Right: 15:09 02.02.2017: Neil Clark
著者のニール・クラークはイギリスのジャーナリストで、ザ・ガーディアン、ザ・ウィーク、モーニング・スターなどで記事を書くが、彼自身は自らをネオコンの戦争アジェンダの強い反対者であると述べているようだ。ただ社会思想上の「リベラル」と経済概念の「ネオリベラル」とがややごちゃまぜになっているように感じる。あるいは、「ネオリベラル」を伝統的な自由主義と区別される「新しいリベラルの潮流」という意味で使っているのかもしれない。しかし、ネオコンの権力掌握、ネオリベラル経済のグローバリゼーションと「アイデンティティ政治」の戦闘部隊であるリベラル派の台頭が、同じ時期に重なっていることは事実だ。これは一つのコーディネートされた流れと受け取るべきだろう。
この記事で紹介されている「右翼の台頭(The Rise of the Right)」という本については始めて知ったが、取り寄せる値打ちがあるのだろう。ここで紹介されている文章を読む限りでは、現在の労働運動と左翼運動にとって最も重大な警告だと言える。警告しても、もう手遅れなのかもしれないが。訳文には必要に応じて(*)【赤文字】で訳注を付け、人物名などには原文の英語を添えておいた。また訳文中の太文字強調は原文に従っている。
2017年2月7日 バルセロナにて 童子丸開
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(翻訳、引用開始)
左翼のリベラル化はどのように極右の台頭を導いたのか
2017年2月2日 ニール・クラーク
2008年の財政危機(*)は、非常に裕福な銀行家たちの貪欲さと無慈悲さによってもたらされたのだが、政治的左翼にとって大きなチャンスとなるはずのものだった。ところが逆に、エリートに優しいグローバリゼーションに対する民衆の反対が大きくなるにつれ、西側世界中の国々で地位を得たのは右翼、特に極右だった。
【(*)スペインでの実例が当サイト『シリーズ:スペイン「経済危機」の正体』、『シリーズ:スペイン:崩壊する主権国家』に書かれている。】
傑出した新刊書「右翼の台頭(The Rise of the Right)」の中で、サイモン・ウィンロウ(Simon Winlow)、スティーヴ・ホール(Steve Hall)そしてジェイムズ・トレドウェル(James Treadwell)は、イギリスでの右派ナショナリズムの台頭の説明作業に着手した。
その本は主要にイギリスの社会と政治に関わるものなのだが、アメリカと他のヨーロッパでも指導者たちにとって学ばれるべき教訓を含んでいる。実際、ウィンロウたちが言わざるをえないことに対して西側諸国の左翼が注意を払わないならば、左翼運動は永久に終わってしまうかもしれないということまで言えるのだろう。
状況は実際に極めて深刻である。
「資本主義の地平」
著者たちによって突き止められた基本的な問題は、左翼が、かつては労働者階級の人々の日常的な関心事を政治プログラムの最先頭に掲げていたのだが、いまやリベラルになってしまったという点である。ネオリベラリズムが主導権を取るにつれて、左翼の主要政党とその代議士たちが経済的な改革からその注意を背け、その代わりに文化的戦争をやり始めた。公的所有と真の意味の平等主義は消え去り、アイデンティティ政治(*)が入ってきた。「寛大さ」が話題となり「搾取」は話されなくなった。
【(*)アイデンティティ政治については、当サイト『アイデンティティ政治の秘密』を参照のこと。】
「左翼は、政治経済の伝統的な分野への関心を失い、その代わりに文化の分野で新たな闘争の舞台を開いた。全般的に言って、左翼は資本主義の地平を受け入れたのだ」とウィンロウたちは説明する。
労働党と保守党が資本主義に優しく経済的・社会的にリベラルなアジェンダの推進に集中すると同時に、イギリスの政治は不毛なものとなった。労働者階級はこの新しい、ロンドン・シティ承認のコンセンサスからはじき出された。
2001年の総選挙では、トゥイードルダム(*)のトニー・ブレアーとトゥイードルディー(*)のウィリアム・ヘイグの間の選択となったのだが、たった59%の人々がわざわざ投票しただけだった。1950年の総選挙のレベルと比較せよ。そのときは83.9%だったのだ。しかしそのときには、労働者階級は適切に代表されていたのである。
【(*)トゥイードルダムとトゥイードルディーは、マザーグースの童謡に登場する兄弟と思しき二人の滑稽な男で、争いながらも似た者同士の者たちを表す。】
「右翼の台頭」の著者たちは、「労働者階級の思考と政治に対する中産階級リベラルの支配は新しいものではない」と強調する。労働党の歴史の初期でファビアンたち(*)が果たした役割を考えればよいのだが、この脱社会民主主義の時代に物事は全面的に悪化しているのだ。
【(*)ファビアン協会は、19世紀に作られた非マルクス主義の社会主義知識人の集まりで、バーナード・ショーやH.G.ウェルズなどもその会員だった。】
社会主義の悪魔化
大工出身のエリック・ヘファー(Eric Heffer)は、1991年に亡くなったが、「労働党の中で最後の正直で闘争的な労働者階級の有力者の一人」として引き合いに出される。著者たちは、純正な社会主義左翼を破壊するためにCIAがいかにその役目を果たしたのかをもまた述べているが、それはH.ウィルフォードの本『The CIA, the British Left and the Cold War: Calling the Tune?』によって書き留められたものである。第3章で次のように引用されている。
『これの中心となるのは、階級性の放棄であり、言語的・文化的アイデンティティと社会運動への転換である。ファシズムと同等のものとして社会主義を悪魔化するアメリカのリベラルで進歩的な習慣がヨーロッパに移入され、それが、保守主義右翼の(社会主義)悪魔化計画に対する、より魅力的で巧妙な支持を提供したのである。』
CIAはまさに望んだ通りのものを得た。
ネオリベラルが主導的地位を握る時代では、社会主義的な視点からリベラル左翼を敢えて攻撃する者なら誰でも、支配階級の見張り番どもに「スターリン主義者」あるいは「極右」とすら言われて告発されると覚悟しなければならないだろう。1945~79年に存在したはるかに公正な経済政策への回帰を訴えることすらとんでもないものとみなされる。
「リベラルな」メディア
70年代に戻る? イギリスで金持ちと貧乏人の格差が歴史上最も小さかった時に、そしてこの国がまだ製造業の基盤を持っていた時代に ― なぜだ? お前は気が狂っているに違いない! 「リベラルな」メディアが、多数派に利益をもたらすような別口の解決法を「立ち入り禁止」状態にしておく主要な役割を果たしているために、受け入れられる議論のパラメタ―は絶望的なほどに範囲を狭められているのだ。
「リベラル右派とリベラル左派のメディアは、福祉、多文化主義や税制のような事項に対するアプローチの仕方で区別がつけられる。しかし本物の左翼政治のような何かに戻るほんのかすかな可能性にでも出くわしたときには、それらは声を一致させるのだ」と著者たちは述べる。
だから、かつてはイギリスの労働者階級を代表すると主張した者たちによって自分たちの声を無視された場合に、労働者階級が他のオプションを探すことに何の不思議があるだろうか?
「右翼の台頭」の後半部は、イングランド防衛同盟(EDL)のような極右政治グループを支持している労働者階級の男女へのインタビューが収められている。ここで、39歳のステッピーが、なぜ労働党に投票しないのかについて語っている。
右翼の台頭
「あんな上流白人のやつら・・・。あいつらは労働党を分捕ってやがる。どこでも分捕ってやがる。やつらがやってることを見てみろよ。まず自分の身近な仲間たちに上等な仕事を与える。次にその仲間がまたその身近な仲間たちに上等な仕事を与える。あのフェミニストたちも同類だぜ。やつらは民主主義と言うけど、民主主義なんかありゃしない。国中のどこにも・・・。」
反ムスリムの偏見がインタビューを受ける人々の間に広がっていた。
ムスリムたちは、EDLと他の極右グループの多くの支持者が感じる怒りと不満と疎外感をぶつけるスケープゴートにされている。(*)
【(*)世界中でリベラル左翼が「イスラム教徒への弁護」と「難民受け入れ」を叫んで、トランプ政権打倒の動きを起こしているが、この者たちは、オバマやクリントンが何千何万ものイスラム教徒を最新兵器で殺害し、北アフリカに介入しISISを育てて難民発生の主要な原因を作っている際には、何一つ声を上げなかったばかりか、偏執的な熱心さでそれを応援し続けていた。右翼を非難する前に悔い改めが必要だが、まあ無理だろう。】
しかし、著者たちが示しているとおり、我々が住んでいる略奪経済のシステムこそが大問題だ。それは多数派の最大の利益に対して敵対的である。労働者階級のコミュニティーと以前には存在した連帯の精神を破壊したのはネオリベラリズムなのだ。これほど多くの孤独と不安を産み出したのもネオリベラルなのだ。
トニーは、インタビューを受けた他の人たちと同様に、40年前のイギリスを懐かしそうに思い出す。(*)
【(*)この「トニー」は先の「39歳のステッピー」とは別の人物だろう。少なくとも50歳を越していなければならない。】
「あのときは良かったよ・・・。俺のような者たちにとって、ずっと良かった。俺たちは学校で楽しく笑って、そしてうん、みんなうまくいってるようだった。そして仕事もあった。みんな働いていた。人々はまとまりあっていたよ。」
原点に戻る
トニーのような労働者階級の人々に聞くのではなく、あまりにも多くの「左翼」の代表者たちが、中産階級の「リベラルな」メディアの解説者たちから手掛かりを得ることを好んでいる。そして、メディアの解説者たちが最も緊急の懸案事項だと信じていると言われる事柄に、焦点を当てる。もし極右の台頭がチェックされるなら、こんなことは止めなければならない。
この本の第8章で、著者たちは、左翼が「出発点に立ち戻らなければならない」と主張する。
「我々に言わせれば、今日の左翼は労働者階級に戻る必要がある。社会的・経済的な構成を求める闘いに勝利しなければならないのは労働者階級なのだ。中産階級のリベラルは自分たちの利益を守るからそれを勝ち取ることができないしそうしないだろう。」
左翼は、「ヒッピー的反文化主義(hippy counter-culturalism)」と呼ばれるものが「全くの誤り」だったことを認め、そしてそれが引き起こした被害の一部を元に戻す必要があると、著者たちは言う。
文化は捨て去るべきではないが、「二義的な位置に戻す」べきだ。経済的改革、特に金融資本の独裁を終わらせることが、最優先されなければならない。公的所有の国民投資銀行、主要産業の再国有化、そして仕事を ― 見捨てられた場所に、適切で意義深い、十分な支払いを受ける正規契約の仕事を ― 取り戻すことが(*)、労働党のアジェンダのまさに最先頭になければならないのだ。
【(*)ここに書かれていることの一部分が、紛れもない右翼であるドナルド・トランプによってアメリカで実現を目指されているのは実に皮肉な話だが、リベラル左翼がネオコン・グローバリズムの戦闘部隊となっていることから、必然的に出てくる事態だろう。】
極右の台頭は不可避的でもないし、不可逆的でもない。しかし、労働者階級の俗っぽい事柄のために闘い、エリートに優しいネオリベラルときっぱりと手を切らなければ、左翼は破滅してしまう。もし労働党党首のジェレミー・コービンがまだ「右翼の台頭」の一冊を注文していないなら、私は、早急にそうするように彼に勧めたい。
(*The Rise of the Right, English Nationalism and the Transformation of Working-Class Politics — Simon Winlow, Steve Hall and James Treadwell, published by Policy Press.)
(翻訳・引用ここまで)
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye3890:170208〕
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