TPP交渉に「参加反対」の動き強まる -連合内や生協陣営にも「反対」の声-
- 2011年 3月 11日
- 時代をみる
- 「TPPを考える国民会議」TPP参加反対岩垂 弘
菅政権は、「今年6月をめどに環太平洋経済協定(TPP)の交渉に参加するかどうかの結論を出す」として、2月26日から全国各地でTPPに関する地方説明会「開国フォーラム」を始めたが、TPP交渉参加に反対したり、「慎重対応」を求める動きが、急速に高まりつつある。
まず、注目すべき動きは、「TPPを考える国民会議」が、学者、国会議員らによって2月24日に設立されたことだ。民主党、社民党、国民新党、新党日本の国会議員約180人が参加する「TPPを慎重に考える会」(会長・山田正彦前農水相)が中心になって設立されたもので、代表世話人に宇沢弘文(東京大学名誉教授)、副代表世話人に久野修慈(中央大学理事長)、世話人に山田正彦、金子勝(慶応義塾大学教授)、榊原英資(青山学院大学教授)の各氏らが名を連ねる。
国民会議は全国各地で集会を計画しているが、そのホームページで会議の設立意図を次のように表明している。
「私たちは、世界の平和と繁栄のために自由な経済的取引や人間の移動がいっそう進展されるべきだと考えております。しかし、TPPが市場アクセスについて10年以内の関税撤廃を原則としているばかりでなく、サービス貿易、投資、政府調達、競争、知的財産、人の移動など幅広い分野にわたる包括的協定であって、農林漁業への甚大な影響とそれに伴う食糧安全保障、美しい景観、伝統文化の維持に対する危倶や国民生活を脅かす大胆な国内改革に対する懸念を抱かざるを得ません。
私たちがめざすのは、気候風土や文化、経済など様々な違いのある国家がともに共存し、持続可能な地域と世界をつくることです。政府に対してTPPへの拙速な参加でなく、真に国益に適う経済連携を求めること、さらに国民がTPPを判断するための十分な情報を提供するために、国民運動を展開するものです」
日本がTPPに参加した場合、最大の影響を受けるのではと懸念されている農家の団体である全国農業協同組合中央会(JA全中、組合員943万人)は、全国でTPP参加反対の1000万署名を始めた。署名用紙には「関税撤廃の例外措置を認めないTPPが締結されれば、結果として、農林水産業をはじめ、関連産業を含む地域経済・社会が崩壊することは必至です。また、TPPにより、金融、保険、食品安全性などあらゆる分野に関するわが国の仕組み、基準が変更を余儀なくされ、私たちの暮らしが一変してしまう可能性があります」とある。
経済界の日経連、同友会、日商の3団体はあげて政府に対しTPPへの参加推進を迫っており、日本労働組合総連合会(連合、組合員680万人)も昨年10月の中央執行委員会で「参加支持」を決めた。
しかし、その連合内から「参加反対」の単産が現れた。全たばこ、キリン、日本ハム、味の素、ニチレイ、キッコーマン、サントリー、日清製粉、明治乳業、全森永などの労組で組織している日本食品関連産業労働組合総連合会(フード連合、組合員10万3000人)で、1月24日の中央委で「TPPに対する特別決議」を採択した。
決議は「関税の全廃を原則とするTPPの参加は、とりわけ、米・砂糖・乳製品・小麦・食肉をはじめとした国内農畜産業や私たちの働く食品関連産業に大きな影響を及ぼすことが懸念される。また、食料自給率の大幅な低下は必至であり、食の安全・安心が損なわれることも想定される」として「フード連合は、政府が拙速に対応することに対しては反対の立場であることを表明する」と述べている。
同連合の渡邊和夫会長は3月2日、東京で開かれた連合通信社・情報懇話会主催の例会でTPP問題で講演したが、「TPPはオバマ大統領再選のために米国政府が推進しているものだ。オバマ大統領が再選するためには雇用を創出しなくてはならない。そのためには、大企業がつくる製品や穀物の輸出を増やさなくてはならない。そこで、他国に関税の撤廃を迫っているのだ。いうなれば、TPPは市場原理主義、弱肉強食化への道だ」「私たちと同じ認識に立つ諸団体と共闘しながら、政府や政党等への働きかけを強めてゆく」と語った。
日本における最大の消費者団体は、生協の全国組織である日本生活協同組合連合会(日本生協連、組合員1800万人)だが、TPP交渉参加問題に対する態度は「賛成とか反対とかの表明はしない」というものだ。「賛成の生協もあれば、反対の生協もあるから」というのがその理由である。
その生協陣営内にも「反対」を表明するところが次々と出始めた。
まず、北海道から兵庫県までの21都道府県で活動する生活クラブ事業連合生活協同組合連合会(生活クラブ生協連合会、本部・東京、組合員約35万人)は、昨年11月10日、東京で「TPP交渉への参加に反対し日本の食を守る緊急全国集会」を開催した実行委員会にJA全中、全漁連、全森連などの農林漁業団体とともに加わった。
東北では、いわて生活協同組合(本部・岩手県滝沢村、組合員約19万人)が昨年11月26日、「岩手県の試算でも、(TPP参加により)農産物の生産額が6割(1,469億円)も減り、特に、小麦や牛乳・乳製品はすべて外国産に置き換わり、ほぼ壊滅してしまうとしており、県内の農業、地域経済に与える影響は深刻です。TPP交渉への日本の参加に強く反対し、今後、多くの組合員のみなさんといっしょに学習と反対運動を展開していくことをよびかけます」との理事会声明を発表。その後、農協、漁協などと「TPP等と食料・農林水産業・地域経済を考える岩手県民会議」を結成してTPP参加反対署名を始めた。
みやぎ生活協同組合(本部・仙台市、組合員約61万人)は昨年12月8日 、「みやぎ生協は、創立以来一貫してメンバーが求める安全・安心な農畜水産物を生産者と一緒につくり、農業と地域経済の活性化と食料自給率の向上、地産地消の推進に取り組んできました。TPPはこうした取り組みに真っ向から反するものです。 日本がTPPに参加することには、反対です」との意見を発表。
みやぎ生協が加盟する宮城県生協連が参加する「宮城県協同組合こんわ会」は、JA宮城グループとともにTPP交渉参加反対署名を進めている。
生活協同組合共立社(本部・山形県鶴岡市、組合員約14万人)も2月から、農協、漁協、森林組合とともに「くらしと農林水産業を協同で守る県民運動」として、TPP交渉参加反対10万人署名運動を始めた。
首都圏では、パルシステム生活協同組合連合会(本部・東京、組合員約127万人)が2月14日、TPPへの見解および農の再生に向けた提言(第一次案)をまとめた。そこには「以下の観点からTPP交渉への参加について反対します」とあり、「以下の観点」として①日本の農業、食料安全保障、食の安全に対して重大な影響を与えることが予測される②TPPに関する情報提供・検証・議論が不足している、をあげている。
また、東都生活協同組合(本部・東京、組合員約22万人)も2月24日、「多くの問題が懸念され、日本農業の崩壊や食料自給率の後退につながるTPPへの参加には反対します」との基本的見解を発表した。
いわて生協、みやぎ生協、、共立社は農業地域を基盤とする生協だが、生活クラブ生協連合会、パルシステム連合会、東都生協は都市部を基盤とする生協だ。「TPP交渉参加反対」の波が、農村から都市部に波及しつつあるとみていいだろう。
さらに、3月6日付読売新聞によれば、同社が2月に47都道府県の知事と1750市区町村長にアンケートしたところ、TPPの協議開始に「賛成」「どちらかと言えば賛成」が計28%、「反対」「どちらかと言えば反対」が計66%だった(回答率(88%)という。
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