「マイナンバー使用は 自尊心が許さない」
- 2017年 3月 28日
- 時代をみる
- 澤藤統一郎
先日、少人数の学習会の席で、マイナンバーを話題にした。「みなさん、役所への書類にマイナンバーを書いていますか?」と振ったら、一人の女性がこう言った。
「私には、ちゃんとした名前があります。役所から勝手に12ケタの番号を押しつけられて、これを名前の代わりに使えといわれてもその気にはなれません。私は、国から番号で管理されるのはイヤですから、マイナンバーはけっして使いません。マイナンバー書かないから逮捕するなどということがない限り(笑)」
なんときっぱりした、すがすがしい姿勢。これは素晴らしい。
この女性の発言は、マイナンバー使用の押しつけは自分の人格の尊厳を傷つけるものだという主張。「私は名前を持っている」「私を特定するのは名前で願いたい」「割り当てた番号で私を管理することは拒否する」という、自尊心がほとばしり出た言である。これを支える憲法の条文を探せば13条(個人の尊重)であり、11条(基本的人権の享有)であり、あるいは97条(基本的人権の本質)ということになろう。憲法にどう書かれていようと、なにより大切なのが個人であり、その尊厳だ。国家は、個人の尊厳を傷つけてはならず、個人の尊厳を最大限尊重しなければならない。マイナンバーの使用は、これに反するではないか。
そう思っていたところに、先週金曜日(3月24日)赤旗「くらし・家庭」欄のマイナンバー解説記事に接した。その見出しが「マイナンバーは個人の尊厳侵す」である。解説者は、旧知の浦野広明さん(税理士・立正大学法学部客員教授)。大いに賛同する立場から、ご紹介したい。
まず、結論。明快この上ない。
個人番号(マイナンバー)は憲法13条が保障する個人の尊厳を侵すもので、明らかに憲法違反です。『法律だから』といって従うのではなく、はっきり拒否すべきです。
マイナンバーを違憲と主張する複数の裁判も係属中だという。
国を相手に個人番号の利用停止や削除などを求める違憲訴訟も、全国八つの地裁で進行中です。
具体的にどう対応すべきか。
悪法は世論と運動の力で使わせずに形骸化させることが大事です。窓口で『知りません』『番号を使うつもりはありません』といえば、それまでです。
ほんとうにそれで大丈夫なのか。面倒なことにならないか。
約100件の相談を受け、番号を記載せずに郵送で申告してすべて受理されました。国税庁などの省庁も『番号未記載でも受理し、罰則や不利益はない』と繰り返し表明しています。
次いで、制度についての納得できる説明。まずは法の名称。こんなことご存じでしたか。
「マイナンバー」の根拠法である「個人番号法」の正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」です。似た名前の法律に「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(2003年)があります。BSE(牛海綿状脳症)対策として導入された同法によって、肉屋さんや消費者は、肉の生産履歴を知ることができます。牛の個体識別は食の安全・安心にとって有用でしょうが、私たちは家畜ではありません。
表向きの立法目的と真の立法動機
徴税など政府の都合や目的のために、私たちの全情報を一つの番号で収集・管理し、「特定の個人を識別するための番号の利用」が個人番号の核心なのです。私たちは既に、個別の目的ごとに、さまざまな番号をつけられています。基礎年金番号や保険者番号、・住民登録番号、運転免許証、パスポート、診察券、口座番号、社員番号などなどです。しかし、個人番号は、すべての情報を一つの番号で国が一元的に管理しようというものです。
マイナンバー制度はどんな危険をもっているか。
番号制を導入している韓国では、コンビニで買い物する際に番号を提示します。何番が、いつ、どこで、何を売買したかが、レジと国税庁のコンピューターが連動していて把握できます。このように、一つの番号で個人の全情報をつかむことは、憲法13条が保障する個人の尊厳に反することは明らかです。
マイナンバーの利便性についての国の説明
国は、「マイナンバーは、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平かつ公正な社会を実現する社会基盤」(内閣官房ホームページ)と説明します。しかし、《コンビニで住民票が取れる》程度の利便性と引き換えに、個人の尊厳を捨てたり、個人情報の流出・番号不正利用の危険に甘んじたりするわけにはいきません。
国民にマイナンバー使用の義務はない。
番号を扱うのは、国と地方自治体、「番号を利用する事業者」です。国民には何ら義務規定はなく、もちろん罰則や不利益もありません。
他人の番号を集めると苦労する
番号は最終的には国が把握しますが、社会保障や税の分野などでは個人番号を集めるのは主に民間です。漏えいなどに対する重い罰則があり、取り扱いで苦労することになります。すでに、番号がもれた時の損害保険も用意されています。
マイナンバー笑うは政府と大企業
個人番号は初期投資だけで3000億円、セキュリティー対策などで1兆円市場といわれます。大儲けするのは一握りの大手IT企業だけです。
(2017年3月27日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.03.27より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=8341
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye3975:170328〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。