「あるはずだ」ではなく、現にある文書の調査・活用を~森友交渉記録の廃棄は「脱法」:(第3回)
- 2017年 4月 10日
- 時代をみる
2017年4月9日
森友学園関連の文書を突き止めるために
この連載を始める時は、第3回目の記事で、森友学園問題に関連した行政文書と類似の文書の取り扱いの実態を調べ、それを参照して、「森友学園の案件は売買契約の締結を以て終了したので、保存期間を1年未満とした交渉記録は廃棄した」という佐川理財局長の答弁の信憑性、合規性を検証する予定だった。
しかし、各省庁が公開している「行政文書ファイル管理簿」を、さまざまな条件を設定して検索していくなかで、近畿財務局、さらに局内で国有財産を所管した管財部が管理者となっている行政文書を検索すると、森友学園にどんぴしゃりの文書は出てこなかったが、森友学園関連の情報が含まれている可能性があるカテゴリーの文書にたどり着いた。
そこで、この記事では、予定を変更して、私が試みた行政文書ファイルの調査の方法と調査の結果を説明することにした。
行政文書ファイル検索の試み
具体的には、次のような条件を設定して行政文書ファイル管理簿を検索した。なお、以下で検索対象の文書作成・取得の期間を2012年4月1日からとしたのは、この時期から「公文書管理法」が施行されたからである。(法施行後に作成・取得された文書の管理簿を「新管理簿」と呼んでいる。)
と同時に、2016年6月20日に森友学園への国有地売却に至る次のような経緯があったことが知られている。こうした年譜を突き合わせると、上で設定した文書作成・取得の期間は本件国有地をめぐって、近畿財務局が大阪航空局、大阪府私学課、森友学園とさまざまなやりとりをした時期とちょうど重なることがわかる。
森友学園への国有地売却に至る経過
2012年 7月頃 森友学園とは別の学校法人が7億円前後で本件国有地を
購入したいと近畿財務局に申し出た。しかし、金額をめ
ぐって交渉が折り合わず、売却に至らなかった。
2013年 6月 3日 近畿財務局、公用・公共用に本件土地の取得要望を受け
付け
9月 2日 森友学園が近畿財務局に取得要望書を提出
9月13日 近畿財務局職員、大阪府庁を訪問し、森友学園の小学校
認可の見通しを聴き取り
10月 2日 籠池夫妻、鴻池議員に陳情
2014年10月31日 森友学園、小学校設置認可申請書を提出
12月18日 大阪府私学審議会、同上申請について認可保留
この間、森友学園と近畿財務局の交渉継続
2015年 1月 近畿財務局、大阪府私学課を訪問。再度、上記申請の認
可の見通しを質問。「私学課事務局がある程度まで審
議会をコントロールできるのではないか」と発言
1月27日 私学審議会、上記申請を条件付きで認可
2月10日 国有財産近畿地方審議会、大阪府の私学審議会が付けた
条件が満たされることを前提として、本件土地を森友学
園に10年の定期借地とすることを了承
5月29日 近畿財務局、森友学園に本件土地を、買受特約を付けて
定借
2016年 3月11日 森友学園、定借中の土地から新たに地下埋蔵物が発見さ
れたと近畿財務局に連絡
3月24日 森友学園、本件土地を購入したいと近畿財務局に申し出
3月30日 近畿財務局、大阪航空局に対し、地下埋蔵物の撤去費用
の見積もりを依頼
4月14日 大阪航空局、撤去費用の見積もりを8億1900万円と近畿
財務局に報告
5月31日 不動産鑑定士、本件土地の鑑定評価額を9億5600万円と
報告
6月20日 近畿財務局、森友学園と本件土地の売買契約を締結。
売買価格は1億3400万円
試行錯誤の文書ファイル検索
<検索条件Ⅰ>
*キーワード: <国有財産>&<売払い>
*文書作成・取得の期間:2012年4月1日~2017年4月9日
*文書管理者:近畿財務局
<検索結果>
*ヒット件数:0件 キーワードの「売払い」を「売却」、「売買」と置き換えても、ヒット件数はゼロだった。
そこで、キーワードの条件を緩め、次のような条件で検索した。
<検索条件Ⅱ>
*キーワード: <国有財産>
*文書作成・取得の期間:2012年4月1日~2017年4月9日
*文書管理者:近畿財務局
<検索結果>
*ヒット件数:711件
今度はヒット件数が多くなったので、ヒット件数を減らすため、文書管理者を国有財産担当の管財部に限定して検索すると結果は次のとおりだった。
<検索条件Ⅲ>
*キーワード: <国有財産>
*文書作成・取得の期間:2012年4月1日~2017年4月9日
*文書管理者:近畿財務局管財部
<検索結果>
*ヒット件数:229件
そこで、以下では、この229件を検索対象にすることにした。まず、各件の「詳細」を開くと、「作成・取得年度等」、「大分類」、「中分類」、「名称(小分類)」、「作成・取得者」、「起算日」、「保存期間」、「保存期間満了日」、「媒体の種別」(電子/紙の別)、「保存場所」(システム/事務室等)、「管理者」、「保存期間満了時の措置」(移管/廃棄の別)が表示された。
ここで注意しなければならないのは、全ての件の「作成・取得年度等」が「2015年度」など年度単位になっていることである。これは相互に関連する文書は1件ごとではなく、年度単位で束ねてファイリングされていることを意味する。
したがって、229件のどの文書を見ても、「森友学園」とか、「豊中市」とか言った文言は見当たらなかった。そのため、「名称(小分類)」で表記されたタイトルから、森友学園の案件を含むと想定できる文書を選び、その文書の年度ごとのファイルを逐一、調べることによってしか、森友学園関連の文書にアクセスする方法はないと思われた。
ファイルをスポット検索すると
229件といっても、1件ごとの詳細情報を読んでいくと、国有財産地方審議会の委員任命文書、付議文書、議事録のほか、国有財産の台帳整理、行政表彰の選考案、庁舎使用に関する文書など、すでに公表済みの文書や森友学園関連とは無縁のものが少なくなかった。
そこで、各ファイルの内容をうかがわせる「名称(小分類)」に注目して、森友学園に関わる記録が含まれている可能性があるファイル(未利用国有地の活用・処分に関する現況を記した文書、処分計画を策定した文書、鑑定評価依頼書など)をスポット的に調べた。
調べ終えて、森友学園にたどり着くのは至難の道と実感した。しかし、「残っているはずだ」、「隠しているのでは?」と言い続けるだけでは真相究明は前へ進まない。
そこで、以下、私が注目したファイルをリストアップしたい。なお、たとえば、「処分すべき国有地の現況調書」とか、「国有財産1件別情報」とか言っても、文書管理者は京都事務所、神戸事務所、奈良事務所など所在地ごとに細分されている。以下のリストは、地域事務所ではなく、近畿財務局管財部が管理者となっている文書、つまり、大阪府内に所在する国有地に係わるファイルに限っている。また、各文書ファイルの冒頭の文書名は大・中・小の分類階層の内の「小分類」、つまり、最も細分化された分類名である。また、作成・取得年度は、特に断らないかぎり、2012~2016年度の全ての年度に保有されている。保存期間の起算日は、特に明記しない限り、すべて作成・取得年度の翌年度の4月1日だった。
調査する価値があると思われる文書ファイルのリスト
①「管内における国有財産の現状」
作成・取得者(=管理者。以下、同じ):管財総括第2課長
保存期間:3年
*文書名だけでは内容を推定するのは難しいが、近畿財務局が保有した国有財産を俯瞰するのに役立つと思われる。
②「売払収入収納見込(実績報告)」
作成・取得者:管財総括第2課長
保存期間:3年
*森友学園に本件土地が買受特約付きで定借される以前から売却されるまでの間、学園に売払った場合の収入見込みがどのように記載されていたか(いなかったのか)、確認できると思われる。
③「処分すべき国有財産の現況調書」
作成・取得者:管財総括第2課長
保存期間:3年
*森友学園に本件土地が買受特約付きで定借される以前から売却されるまでの間の本件土地の現況がどのように記載されていたのか、確認する意味がある。
④「国有財産事務担当者連絡会議」
作成・取得者:管財総括第2課長
保存期間:3年
*簡単な会議録程度かも知れないが、本件土地について、何か触れられていないか、確認してみる意味はある。
⑤「処分計画の策定」
作成・取得者:管財総括第2課長
保存期間:5年
*本件土地が森友学園へ売却されるまでの間、別の学校法人からの購入申し込みも含め、処分計画がどのように記載されていたか(何も記載されていなかったか)、確認する意味はある。
⑥「国有財産見込現在額事由別調書」
作成・取得者:管財総括第3課長
保存期間:5年
*本件土地が森友学園へ売却されるまでの間、本件土地の現在額が、事由別にどのように記載されていたか、確かめる価値がある。
⑦「国有財産1件3億円以上増減調書(大分類名:平成○○年度国有財産増減及び現在額報告書)」
作成・取得者:管財総括第3課長
保存期間:5年
*物件ごとの面積、金額の情報だけかもしれないが、本件土地の評価額は3億円以上だったので、おそらくこの文書に何らかの記載があると思われる。
⑧「未利用等国有地の総点検」
作成・取得者:国有財産調整官1
保存期間:5年
*この文書ファイルで注目したいのは、国有財産調整官が文書作成・取得者となっている点である。近畿財務局のHPに記載された職務分担表によると、国有財産調整官は、普通財産の管理処分に関する企画立案、債権管理、徴収・収納事務、法令・通達適用審査の業務を担当する部署となっている。
この点から、本文書ファイルには森友学園への本件土地の定借、売却に関する何らかの経緯、方針、法令の適用・解釈等が記載されている可能性がある。
⑨「国有財産一件別情報」
作成・取得者:国有財産調整官1
保存期間:3年
*「1件別情報」と言われると、本件土地に関してもそれなりに詳しい情報が記載されているように思えるが、大分類は「平成○○年度国有財産情報公開システム」となっているので、外部公開を前提した情報とみられるので、未確認の情報は含まれないかもしれない。
⑩「未利用国有地の現状把握」
作成・取得者:国有財産調整官1
保存期間:5年
*前記の「「未利用等国有地の総点検」と同様、この文書ファイルも作成・取得者は国有財産調整官となっており、管財部の中でも国有財産の管理処分に関する企画立案、法令解釈等の観点からまとめられた文書と思われ、調査する価値がある。
⑪「取得協議等審査」(大分類「平成○○年度国有財産の評価に関する事項」、中分類「鑑定評価」)
作成・取得者:首席国有財産鑑定官
保存期間:5年
*「首席国有財産鑑定官」が文書作成・取得者となっている数少ない文書ファイルである。前記のように、森友学園は2013年9月2日に本件土地の取得要望書を近畿財務局に提出している。したがって、2013年度から2016年度にかけてのこの文書ファイルに森友学園からの取得要望に関する審査・検討の状況が、本件土地の鑑定評価も含め、何らかの形で記載されている可能性が高い。それだけに必見の文書ファイルと言える。
①~⑪の文書ファイルはファイルのタイトルを見る限りでは、「交渉記録」、それも8億円もの値引きに至る交渉記録を直接伺わせるものは見当たらない。その意味ではこれらの行政文書を「宝物さがし」のように扱うのは禁物である。
4月8日の『東京新聞』朝刊の<こちら特報>欄に掲載された「森友ファイル 実は温存?」という記事は時宜にかなったもので、興味深く読んだ。ただ、記事は「交渉記録」に焦点を当てて、「どこかにあるはず」というトーンで書かれている。
私もこの連載の1回目の記事で書いたように、向こう10年の賦払いで、10年間有効の買い戻し特約が付いた売買契約を締結したことを以て、「案件は終了した」などと考える行政職員は、まず、いないから、交渉記録も含めた文書がどこにもないとは到底、思えない。
しかし、佐川理財局長の国会答弁を、目下、利用可能な資料を活用して反証するには、役人は文書を「特定しないとなかなか出さない」と嘆くだけではらちがあかない。
この記事でリストアップした行政文書ファイルを国会議員、報道関係者が未入手なら、特に⑧、⑩、⑪あたりを至急、入手してもらい、精査の上、そこから芋づる式に調査を進めてほしいと思う。私自身、近畿財務局へ出かけ、文書ファイルをめくりながら、調査したい気持ちは山々だ。しかし、そうなると4~5日は現地に張り付いて調べものをしなければならず、もどかしい気持ちでいる。
初出:醍醐聡のブログから許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3996:170410〕
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