ほんとに、何から言い出していいのかわからないほど(4)難解な?景気判断とキラキラ政策
- 2017年 5月 7日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子
「緩やかな回復基調が続いている」とは
「アベノミクス」の破たんは、安倍首相が自らの「アベノミクスは道半ば」「その果実が全国津々浦々まで行き渡り、実感していただくまで」との発言に見られる通りである。閣議を経て内閣府から発表される「月例経済報告」では、ここ数年、少なくとも2014年来、「景気は緩やかに回復している」「緩やかな回復基調が続いている」という、なんか寝ぼけたような「総括判断」が続いていることでも、明らかである。さらに、その月例報告では、景気の「先行き」についても言及するが、2012年末、野田内閣から引き継いだ安倍内閣時代に入って「輸出環境や経済対策の効果により景気回復に向かうことが期待される」として以来、「緩やかに回復していくことが期待される」が繰り返され、リスク要因としては「海外景気の下振れが我が国の景気を下押しする」し、その要因をまず海外に振る。実態はともかく、要するに、「期待通りに」「緩やかな回復基調が続いている」という表現が、2017年の今日に至るまで続いているのである。さらに、各月の先行きリスク要因として、前述の海外景気の動向のほか、時々の国内の雇用・所得環境、デフレ、消費税引き上げ、消費者マインドなどの影響などが付け加えられるのである。
詳しくは、1980年代から各年1月の景気判断と先行きをたどる年表を作成したので、未定稿として、ご覧いただきたい。
〇「月例経済報告」における<日本経済の基調判断>の推移
(内野光子作成)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/getureikeizaihokokunenpyo.pdf
また、下記のような、近年の安倍政権下の「月例経済報告」を例に興味深い分析がある。景気判断の表現が、なぜ、こんな曖昧な、どっちつかずなことになるのか。その理由の一つとして、そもそも、景気判断自体が、難解で、専門家によって判断が分かれ、簡単には表現できないからという。一つは、現政権が、常に「景気がいいこと」が、何よりの政権維持の要因、願望でもあることから、おのずから「政治的配慮」の結果でもある、という。そういえば、テレビ・新聞などに登場するエコノミストたちにも、明確なコメントよりも、どっちともとれる、素人でも十分語れそうな、あたりさわりのない発言が多い。まさに「政治的配慮」に十分配慮した結果なのだろう。そうした「政治的配慮」による「景気判断」が、経済政策を大きく誤らせたり、遅らせたりしていないか、安倍政権は、その瀬戸際にあるようなのだ。
〇難解な「霞が関文学」はこう読み解こう~10月の月例経済報告、景気判断引き下げ (岡田 晃)
http://shikiho.jp/tk/news/articles/0/89007(2015年10月21日)
「世界の真ん中で輝く」とは~キラキラ感が半端でない
安倍首相は、それでも、この三年間、2015~17年の年頭所感で、意味不明な「世界の真ん中で輝く日本」を強調している。国民の多くは、首相の年頭所感など関心はないと思うが、「世界の真ん中で」という報道に接するたびに、私は「何言ってんだか」のそらぞらしい思いだった。ただ、今回、前掲のような年表を作成していると、安倍政権の政策は、実の伴わない、キラキラ感だけがひとり歩きして、ほかの政権よりはマシと思わせている側面が、政権維持を可能にしているのではないか。ちなみに、今年の2017年1月20日の第193回国会での安倍首相の施政演説を読んでみるとよくわかる。その目次をあげてみると・・・。
一 はじめに
二 世界の真ん中で輝く国創り
(日米同盟)
(地球儀を俯瞰する外交)
(近隣諸国との関係改善)
(積極的平和主義)
三 力強く成長し続ける国創り
(「壁」への挑戦)
(中小・小規模事業者への好循環)
(地方創生)
(観光立国)
(農政新時代)
四 安全・安心の国創り
(被災地の復興)
(国土の強靱化)
(生活の安心)
五 一億総活躍の国創り
(働き方改革)
(女性の活躍)
(成長と分配の好循環)
六 子どもたちが夢に向かって頑張れる国創り
(個性を大切にする教育再生)
(誰にでもチャンスのある教育)
七 おわりに
さらに、以下を読んでみると、そのきらびやかさは、格別である。そこにはつぎのような言葉が頻繁に使われるが、どういう違いがあるのかが不明である。その曖昧さの中で、つけられた予算だけが費消され、成果が出ても出なくとも、何ら責任をとるシステムがない。
「日本再興戦略2016~これまでの成果と今後の取組」(2016年6月2日)
内閣官房日本経済再生総合事務局
file:///C:/Users/Owner/Desktop/2016saikou_torikumiアベノミクス.pdf
問題、課題、整理、整備、対応、対策
喚起、活用、再興、再生、見直し、改善、改革、革新
構築、制度設計、創出、開発
向上、成長、拡大、推進、促進、加速、強化、深化
連携、育成、助成、支援
実行、実現、実施
効率化、活性化、高度化、具体化、円滑化、一体化、簡素化
同時に、黒田東彦日銀総裁は、1月4日の全国銀行協会の年頭会合で、つぎのようにも述べていた。さすがに、「毎年申し上げているように聞こえるかもしれない」などのコトワリを入れているが、「お集りの皆様の表情が和やかで明るい」「これまで以上の確信を持って」など、エコノミストらしからぬ、根拠もないまま、横文字を散りちりばめながらの「ご祝儀」にはあきれる。
「日本経済はまさにいまデフレ脱却に向けた正念場であると思う。というと、毎年申し上げているように聞こえるかもしれないが、世界経済はようやく金融危機後の停滞局面を脱し、新たなフェーズを迎えている。日本経済にも前向きなモメンタム(勢い)が強まっている。
ここで景気動向を最も敏感に反映する指標の一つとして、本日ここにお集まりの皆様の表情を拝見していると、昨年の今ごろと比較してもより和やかで明るさが増している。
トランプ米次期政権の政策運営やブレグジット(英国の欧州連合離脱)など、注意を要することがないとは言わないが、私はこれまで以上に強い確信を持って、今年はデフレ脱却に向けて大きく歩みを進める年になる、と考えている。
日本銀行もしっかり金融緩和を進めていくが、デフレ脱却には民間の投資拡大が不可欠だ。金融機関も企業の動きを後押しし、ご自身もフィンテック(ITを生かした新たな金融サービス)をはじめ金融イノベーションを進めていただきたい。」
さらに、年度が替わった4月にこんな記事もあった。4年間の責任をどう取るつもりなのだろう。
「黒田緩和、見えぬ「出口」 5年目に 物価上昇見通せず
4年間で景気はどう変わった?/物価は伸び悩み、日銀の保有国債は急増している
日本銀行が黒田東彦(はるひこ)総裁の就任後に始めた大規模な金融緩和は4日、5年目に入った。大量の国債買い入れやマイナス金利など、世界でも異例の政策を打ち出したが、「物価上昇率2%」の目標は、来年4月までの総裁任期中の達成は事実上断念。出口が見えない政策が続き、低金利を背景に政府の財政が拡張し続ける・・・」(2017年4月5日05時00分 朝日新聞デジタル)
安倍首相が、3日の憲法記念日に、憲法を改正して、第9条1項・2項を残して、3項を加え自衛隊の存在を明記する、高等教育の無償化を書き込むとかを、言い出したのには驚いた。政権の座について以来、こうした条項は、自民党憲法草案にも、公約にも、政策にも、一度も語られたことのないことが、突如、首相のメッセージとして、ある改憲集会に寄せられた。9条の1・2項と新設の3項との法律的な整合性はあり得ないし、無償化に至っては、憲法事項ではないし、財源はどうするのだろう。いわば、思いつきの荒唐無稽にも近い。無償化にことよせて、共謀罪と相まって、大学や学問の自由をも奪おうというのだろうか。
初出:「内野光子のブログ」2017.05.06より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2017/05/post-e41d.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion6655:170507〕
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