ほんとに、何から言い出していいのかわからないほど(5)日銀話法の「先行き」は?
- 2017年 5月 9日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子
前々回の記事で、内閣府発表の「月例経済報告」の景気判断の難解な?言葉について書いたが、先の記事にも登場した日銀は、景気判断情報として「短観」と「景気レポート」を公表する。いわばここでの「日銀話法」にも触れておきたい。
「短観」では
「短観」とは、正式名称を「全国企業短期経済観測調査」といい、日銀が全国の約1万1000社の企業を対象に行う調査で、4、7、10、12月の4回発表される。その調査内容は、企業が自社をどう見ているか、業況や経済環境の現状・先行きなど企業活動全般にわたる。
「短観」は、数表ばかりなので、すぐには読み取れない。以下は、4月3日の公表時の新聞記事や金融機関のレポートの見出しと冒頭部分である。
「円安頼みの景気、先行き懸念根強く 3月日銀短観を解説」
日本銀行が3日発表した3月短観で、大企業・製造業の景況感は2四半期連続で改善した。「トランプ相場」による円安が輸出を後押ししたが、最近のトランプ米大統領の政策運営は不安定さを増しており、円安や株高の勢いは弱まっている。国内の消費の力も弱く、企業の先行きへの見方は慎重だ。」
【朝日新聞デジタル】 2017年4月3日12時03分
「大企業製造業の景況感、2期連続改善 日銀3月短観 」
日銀が3日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス12と、2016年12月の前回調査を2ポイント上回った。改善は2四半期連続。世界経済の回復を背景に、自動車やはん用機械など輸出企業の景況感が改善した。ただ、海外の政治情勢などが見極めづらく、先行きには慎重な見方も根強い。」
【日本経済新聞】 2017年4月3日 11時11分
「日銀短観の概要/非製造業を中心に人材不足」
日本銀行が4月3日に発表した2017年3月(2017年2月27日~3月31日)の全国企業短期経済観測調査(短観)では、企業の景況感が改善した一方で、先行きにはなお慎重さが滲み出るものとなりました。米国の新政権や欧州連合(EU)を離脱する英国などの先行き不透明感から、海外経済は依然として不安が残るようです。」
【ニッセイアセットマネジメント】2017年4月5日
いずれも、企業の「景況感」は「改善」しているが、「先行き」については、海外経済の不安定要因により慎重な見方が根強いことが伺われた。
「展望レポート」では
ところが、4月27日に、日銀から「展望レポート」が発表された折の黒田日銀総裁は、記者会見の冒頭部分で、つぎのように述べている。
「わが国の景気の現状については緩やかな拡大に転じつつあると判断しました。この点、やや詳しく申し上げますと、海外経済は新興国の一部に弱さが残るものの、緩やかな成長が続いています。そうした下で輸出は増加基調にあります。国内需要の面では設備投資は企業収益や業況感が業種の広がりを伴いつつ改善する中で緩やかな増加基調にあります。個人消費は雇用、所得環境の着実な改善を背景に底堅く推移しています。この間、住宅投資と公共投資は横ばい圏内の動きとなっています。」
朝日新聞は次のように伝えている。
「日銀、景気判断9年ぶり<拡大> 海外経済の堅調受け」
日本銀行は27日の金融政策決定会合で、景気の基調判断を引き上げて「緩やかな拡大に転じつつある」として、約9年ぶりに「拡大」の表現を盛り込んだ。海外経済が堅調で輸出や生産が増え、円安が企業収益を後押ししている。ただ、海外頼みの強気な見通しだとの指摘もある。」
【朝日新聞デジタル】2017年4月27日23時40分
4月27日「NHKニュースウオッチ9」から。「輸出・生産を起点とする前向きの循環が強まる中 労働(市場の)需給は着実に引き締まり」とは?!
4月27日「NHKニュースウオッチ9」
報道では、景気の基調判断をこれまでの「緩やかな回復基調にある」から「緩やかな拡大に転じつつある」になったとして、「拡大」が挿入されたことを強調していた。が、何をもって「拡大」?なのか。任期切れが見えて来た日銀総裁の「自己査定」?のようにも。これぞ、責任を取るつもりもない「日銀話法」に思えて来た。 先の「朝日新聞」の記事では、次のグラフとともに、つぎのように解説する。
「17年度の物価上昇率見通しは従来の1・5%から1・4%へ引き下げたが、18年度は1・7%で変えず、新たに示した19年度は1・9%で、民間見通しより高い。目標の「2%」は18年度ごろに達成できるとの見方を維持した。 日銀は、海外需要に引っ張られる形で国内景気も持ち直し、賃金、物価は上がると予想する。ただ2月の物価上昇率は0・2%で、予想との差は大きい。」
【朝日新聞デジタル】2017年4月27日23時40分
その民間見通しとのズレをつぎのように分析する記事もある。「民間エコノミスト40人の平均見通し(ESPフォーキャスト)は2018年度の物価上昇率が1.0%で、日銀の1.7%とは開きがある。景気拡大と言われても実感が伴わない面がある」というのである(「民間見通しとズレ シナリオに不信感根強く」)こうしてみてくると、日銀の景気判断および先行き予測にはかなり強引なものがあり、安倍政権の経済政策に寄り添い、その失策を助長し、日銀総裁自身、虚勢を張っている光景にしか思えないのである。
<参考>
〇「短観」とは何ですかhttps://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/statistics/h12.htm/
〇経済・物価情勢の展望(展望レポート)
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/index.htm/
初出:「内野光子のブログ」2017.05.09より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2017/05/post-e41d-1.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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