「安倍首相=日本会議=読売新聞」合作の改憲案は、純国産? 日米合作?
- 2017年 5月 17日
- 時代をみる
- 加藤哲郎憲法
◆2017.5.15 東アジアの軍事的緊張は、続いています。5月14日早朝、北朝鮮は弾道ミサイルを発射しました。高度2000キロを越えて、核弾道を搭載すれば「米本土が攻撃圏内」 といいます。4月20日に核実験をすると北朝鮮が中国に通告し、中国が国境封鎖を辞さないと厳しく対応し、アメリカにも通報したため、最悪の事態は避けられた、と5月12日になって明らかになりました。核弾道とミサイルが一体となれば、核戦争寸前になります。韓国大統領に人権派・融和派が当選した途端の、金正恩の挑発です。フランスの大統領選挙は、極右候補当選を阻止したと言っても、ルペンの得票は1000万票を越えています。 米国トランプ政権は、まだホワイトハウスの体制も整っていない段階で、突然のFBI長官解任。国内統治も対中・対ロ政策も確立しない段階で、定例記者会見も拒否し、突如核のボタンを押しかねない、定見なき専政の横行。先の見えない世界、いたるところで、民主主義の秩序が溶解しつつあるかのようです。
◆国際情勢の危機のもとでは、国内政治も不安定で、政治指導者の集権化の志向が強まります。トルコのエルドアン大統領は、4月の国民投票で憲法を改正して圧倒的な権限を手にし、今後10年以上大統領職にとどまる可能性も出てきました。議員内閣制から大統領制への移行という政治制度の抜本的改革で、投票率85%で賛成51%の僅差ですが、憲法そのものは国民投票で改正されました。独裁的権力を得たエルドアン大統領は、トルコに批判的な記述のあるウィキペディアの接続を遮断しました。日本では、安倍晋三首相が、5月3日の憲法記念日に、突然の改憲案、憲法9条の1項・2項をそのままにしたまま、3項に自衛隊を明記するとし、自民党改憲案として来年には両院憲法審査会に提出、国民投票で過半数の支持を得、2020年東京オリンピックの年には実現しよう、というものです。高等教育無償化を加え、一度は「緊急事態条項」などで失敗した、とにかく一度憲法を変えたいという「お試し改憲」案ですが、それが憲法擁護義務のある行政権力のトップ=首相から、自民党政調会など党内審議も経ずに、日本最大部数の読売新聞紙上と日本会議系改憲集会へのビデオメッセージのかたちで提示されたことが、事態の深刻さ・重大性を表現しています。
◆なぜなら、安倍晋三の9条3項改憲案は、昨年日本会議の常任理事・伊藤哲夫政策委員が日本政策研究センター機関誌「明日への選択」16年9月号で提案した案そっくりで、その狙いは 、「護憲派に反安保のような統一戦線をつくらせない」という分断工作だからです。事実、今回の「安倍首相=日本会議=読売新聞」合作改憲案は、「加憲」を唱える公明党、教育無償化を改憲の柱にしてきた日本維新の会ばかりでなく、野党・左派の一部をもとりこもうとするものです。9条3項案は、自衛隊合憲を根拠づけ歯止めをかけるという理由で、一昨年、集団的自衛権に反対する戦争法案反対・立憲主義擁護の運動の中でも、護憲勢力の一部にあった「新9条」案と相通じます。一部の幹部が9条改憲を公言してきた民進党をはじめ、野党にとって、大きな試練です。しかも、東京オリンピックに期限を設定した安倍改憲の主眼は、自民党総裁としての党内論議活性化でも、両院憲法審査会審議促進でもなく、国会3分の2議席確保を前提とした、国民投票の実施という正面突破です。首相が直接よびかけるのは、国民投票で過半数を得るための、国民世論そのものです。すでに読売新聞世論調査では「9条に自衛隊」賛成53%、FNNで55%と出ています。NHKは3択で、「賛成」32%「反対」20%「どちらとも言えない」41%、朝日は設問が違い「必要」41%「不要」44%と流動的ですが、内閣支持率・自民党支持率は大きく下がらず、北朝鮮の核脅威をも利用した安倍官邸の狙いは、ひとまず成功したようです。安保法制も共謀罪もこうした改憲戦略の一部だったとすれば、はたしてそのシナリオは、日米合作なのか、日本型極右が主導したのか? トランプ政権、米中同盟の現在を含む、世界政治の構造分析が必要です。
◆「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」20世紀日本の歴史が、いま危機に瀕しています。前回、アメリカ国立公文書館本館の入り口そばの石像に刻まれた、シェイクスピアの言葉、「What is past is prologue ( 過去は前触れである)」を紹介しました。政党政治の崩壊から大政翼賛会・戦争への道を直接知る人は、いまや少数派です。しかし敗戦から占領、日本国憲法、サンフランシスコ講和、60年安保闘争への道も、日本の「過去」の一部でした。私達の「プロローグ」を何処におくのか。 私は、どちらに向かう道も、「戦後」の初発から、日本の政治の内部に、占領軍の政策の中にも孕まれていて、せめぎあってきたと考えます。 機動戦・陣地戦は国家対国家ですが、情報戦は、各国社会内部の矛盾を横断し、国境を越えて合従連衡します。本サイトのトップに掲げ続けてきた、丸山眞男の言葉「戦争は一人、せいぜい少数の人間がボタン一つ押すことで一瞬にして起せる。平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない。このことにこそ、平和の道徳的優越性がある」が、いよいよ切実なものになってきました。 予告した大部のかきおろし『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊・二木秀雄と「政界ジープ」』は、アマゾンで予約できますが、5月25日に花伝社から刊行されます。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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