私の「東日本大震災」体験
- 2011年 3月 14日
- 評論・紹介・意見
- 半澤健市東日本大震災
《フィルムセンターでの恐怖》
2011年3月11日の午後、私は久し振りに京橋のフィルムセンターで古い映画『慟哭』(新東宝・1952年、佐分利信監督)を観ていました。佐分利を巡る木暮実千代、阿部寿美子の三角関係を描いた日本版「イブの総て」的メロドラマが終わりかけた14時45分ごろ(興味深い115分の作品のエンドマーク10分前で逃げ出したので結末が分からず残念)に地震が始まり、私は恐怖のあまり会場(2階大ホール)から階段を駆け下りました。外へ出ても地面の揺れが続き恐怖感にとらわれ通しです。ケイタイもネットブックもカメラも持たずだったので、まだ2、3人しか並んでいない公衆電話で家人に連絡したところ震源地は東北、都心は「震度5」とだけ聞きました。私の後に電話した人はつながらなかったということでした。京橋の交番で聞いたら都内交通機関は全部停止とのこと。
念のため銀行ATMで出金し、「ヤマダ電気」で携帯ラジオでも買おうと思い新橋へ向かいましたが、人々は街頭に出て半ば興奮し半ば呆然としているという風です。町の雰囲気はザワザワしています。中国人、米国人と覚しき外国人観光客も多く、恐怖と興味半々の表情で話し合ったりデジカメを操作したりしていました。銀座通りのガラス張りの「ティファニイー」店ではガラス窓の一部がデコボコになっていましたが、高層ビルが多い銀座でガラス落下やビルの破損らしきものは見受けられませんでした。目当てにした新橋の家電量販店は閉店(厳密にいうとシャッターをほぼ下ろした状態、買う気になれば買えただろう)なので代わりに機関車のある駅前広場(「酔っぱらい」がテレビ取材されるところ)の巨大スクリーンでNHKのニュースを見て概ねの状況を掌握しました。
《5時間の独歩行》
その後、新橋、田町、高輪、目黒と約4時間歩き目黒から東急バスで1時間かけて21時30分頃東急東横線「都立大学」駅近くの自宅へ辿り着きました。地震発生から約7時間後です。勿論、この間歩き続けたわけでなくコンビニで地図、折りたたみ傘、飲み物、小粒クリームパン袋などを買いカバンは大分重くなりました。次第に寒さが増し、足の感覚が少ししびれたようになり疲労感が重なり大いに心細くなりました。計3回ほど家人から公衆電話で情報を得ました。家ではテレビが倒れそうになったので抑えたこと、家内各所で書籍中心に物が崩れ落ちたということでしたが大事には至らずということが分かりました。結果として我が家のライフラインに問題は発生しませんでした。家族も全員無事であります。
田町駅ビル地下の「蕎麦屋」で「玉子とじ」を一杯食べ、テレビを観て状況を把握し直しました。三田の慶應義塾大前でバス乗り場に30分ほど並んで待ちましたが一向に来ないので諦めました。道々でトイレには不自由しなかったのですが(意外に適所に公衆便所あり)JR目黒駅が閉鎖されており、いよいよ困って「珈琲茶屋」なる喫茶店兼バーでコーヒーを飲みトイレを借りました。帰路の路上には徒歩で帰宅する人々が溢れており会社の同僚同士の会話を聞いているといくらか祝祭的気分、非日常性の楽しさすら感じられました。しかしなにしろ寒かった。三田から目黒までの道のりは非常に厳しく気息奄々という状態でした。このまま、気を失ったらどうなるのかと感じました。この時刻、帰宅不能者に対する公共機関の開放は決定されていたのですが、黙々と歩行する後期高齢者はその情報は知らないわけです。
《未整理だがメモを書いておく》
一夜明けて専らテレビ報道で様々な事態が分かってきました。
現時点での感想は次の通りです。
①テクノロジー信仰が破綻したこと
福島原発の放射能漏れの深刻さ。原発が否定されれば国内の生活・生産水準は半減するだろう。総じて科学技術 信仰の崩壊。高層ビル起居、勤務の恐怖から都市生活の不能。
②日本的「官僚制」の健在
状況把握、対策決定、対外広報のメカニズムの不在。総じて政府ガバナンスの不在。
③「群衆の中の孤独」
7時間の独歩行。私の極私的体験は現代社会の普遍的なテーマたりうると痛感。
「個人情報の保護」が逆効果ではないかなどと連想した。
④人間は精神的であるとともに生物学的存在であること
後期高齢者が5時間の歩行で意識を失いそうになった。精神的に不安定になった。
戦後日本の到達として我々が自負してきたことが否定されつつある。
「東日本大震災」は私の人生にとって最大の衝撃の一つになるような気がする。
これが地震翌日の午後における私の感想です。
渋沢栄一は関東大震災を「天譴」(てんけん、天罰のこと)と言ったといいますがそれが非合理な言葉とも思えない。私は興奮して書いており、考えは不整理であるという自覚はあります。犠牲者への感情吐露すら忘れている。しかし正直に書いておく方がよいと思いメモしました。(2011年3月12日記す)
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