福島原発事故を招いた 東電の暗い体質
- 2011年 3月 14日
- 時代をみる
- 東電の体質浅川 修史福島原発事故
3月14日、福島原発の事故による供給力低下により、東京電力から計画停電の意向が伝えられて、鉄道が止まるなど市民生活に大きな影響が出た。福島原発事故により、日本は最大の危機を迎えている。自然災害が出発点とはいえ、東京電力にもこうした事態をもたらした責任はある。福島原発の暴走を防ぐはずの非常用ディーゼル電源とポンプを津波で破損する危険性の高い海岸近くの低地に並べた設計にはあきれる。こうした東京電力と電力業界の基本構造には読者の関心が高いと思う。知識が陳腐化している部分があるかもしれないが簡単に述べたい。
1 「北の家族」 東京、東北、北海道の50サイクル連合
日本の電力の周波数が東の50サイクルと西の60サイクルに分かれている。50サイクルの盟主は東京電力である。東北電力はその子分の位置づけである。東北電力は東京電力に電力を供給している。売電とも融通とも呼ばれている。西の盟主関西電力と四国電力の関係に似ている。今回、東京電力福島第1、第2原発と東北電力女川原発が同時に停止したことに加えて、東京電力柏崎がまだ本格的な運転再開をしていない。原子力発電の供給能力が大幅に低下したことから、今回の供給危機になった。東電は最低でも4月末まで計画停電が続くと国民に恐怖を与える発言をしている。こうした計画停電は原発事故への国民の批判や関心をそらす狙いも感じられる。
2 日本全体の電力は十分にあるが、周波数の壁
西には供給能力が十分にあるが、60サイクルから50サイクルに変換する変電所は3カ所、1日100KWしかないことが制約になっている。しかし、大井火力発電所(東京湾岸)などの夏場のピーク対策の電源を運転すれば、かなり供給危機は緩和されるはずだ。なぜ対策を急がないのか。
3 9電力による発電、送電の地域独占体制
電力は北から南まで一本の系統でつながっているが、地域ごとに発電と送電を一体化した9電力による地域独占体制が確立している。発電と送電の分離や、分散型電源の普及が電力自由化で議論されたが、部分的なものにとどまり、経済産業省と9電力のスクラム体制が組まれている。今から思えば、官民一体で分散型電源や東京ガスの電力事業などを抑えるのではなく、良い意味での危機意識を東電にもたらすべきだった。
4 東京電力の出世コース
今回の事件で、優秀な人材を集めているはずの東京電力のあまりの能力の低さ、危機管理のなさが露呈した。計画停電の地域分けの発表資料のずさんさは日頃友好関係にある記者クラブメディアからも嘲笑された。筆者は東京電力の官僚的な押し殺したような暗い体質が現れたと感じる。以前に聞いた話だが、東京電力の社長コースは、「東大法学部卒業、総務畑、最初に銀座支店に配属、そこで社内報編集が出発点」という。ライバルの東京ガスや関西電力に比べても官僚的な減点主義の暗い体質が目立つ。東京電力の総務畑が力を持つのは、官庁、政治家、マスコミ、住民運動、プロ株主などうるさ型を相手にするからだ。東京電力の現在の組織体制を知らないが、広報部以外に「総務部広報部」という裏の報道担当があった。本当に仕切っているのは「総務部広報部」だという。
東電のような企業ではエンジニア出身者が仕切るべきだ。
5 電力の質と安全性は高いはずだったが
電力の質は電圧と周波数の安定性ではかられる。電力の質は供給余力(負荷率)で決まる。東京電力は世界最大の民間電力会社で、膨大な設備投資を行う力がある。電力料金も高い。その代償として、電力の質と安全性は高いはずだった。ところが、今回の原発事故でその神話が崩壊した。実は設備の質には東京電力よりも関西電力のほうが高い関心を払ってきたという話を聞いたことがある。その一例として、まちなかでよく見る柱上変圧器は東電より関電のほうが仕様=要求水準が高いという。ただ、筆者には真偽は確認できない。
6 東電とGE・東芝・日立 関電と三菱重工・三菱電機
この系列関係は有名である。東電ともっとも密接な関係にあるのは東芝である。
福島原発第1号機 GE
第2号機 GE・東芝
第3号機 東芝
第4号機 日立
第5号機 東芝
第6号機 GE・日立
という元請けになっている。実に6つの原発のうち4つに東芝が関係している。
7 東電は「解体的出直し」が必要な段階に来ている
福島原発事故がスリーマイルのレベルで終わるのか(それを祈っているが)、その先に行くのか、まだわからない。ただ、史上空前の特別損失の計上と将来の賠償請求を覚悟しなければならないだろう。福島原発を全部廃炉にしたとしても、解体することは放射能汚染で不可能という。原発の墓場を管理するレガシー・コストが膨大になることが予想される。世界最大の民間電力会社が危機にある。信頼は地に堕ちた。「解体的出直し」が必要だ。その場合、一度現在の東電を精算して、新しい「東電」をつくらなければならない。会社の権力構造と体質の継続性を断ち切らなければならない。官庁や政治家と親密なうえ、既得権もからむだけに「解体的出直し」は困難が予想されるが、やらなければ国民の信頼はもはや取り戻せない。
8 東電の社長、幹部、そして記者クラブも現場に行くべきだ
東京新橋にある本社で毎日、記者会見が行われている。同じ時期に福島では東電従業員や下請け従業員などが、被爆覚悟の決死の作業を行っている。いずれ何十人かが犠牲になるだろう。なぜ、東電の社長や幹部、記者クラブメディアはそろって現場に行かないのか。所轄の経済産業大臣やエネルギー官僚も同様だろう。それがトップの責任ではないか。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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