いま、ファシズム前夜の日本!
- 2017年 6月 16日
- 時代をみる
- ファシズム共謀法共謀罪加藤哲郎
◆2017.6.15 かつて民主主義の「模範国」とされたアメリカ合衆国の大統領が、政権発足後5ヶ月でようやく開くことができた初閣議は、全閣僚がトランプ大統領に忠誠を誓い褒めちぎる儀式の場、「ハイル・ヒトラー」を想起させる、異様な光景です。しかしそれを異様だと伝え、ロシアゲートから大統領自身の利益相反、司法手続きへの介入などの追及を緩めない、アメリカン・ジャーナリズムが健在なことが、救いです。権力の集中・私物化への国民の批判が表出される回路が、まだ機能しています。トランプ大統領の権力の横暴、言論の自由への挑戦は、ロシアのプーチン、中国の習近平、 シリアのアサド、北朝鮮の金正恩を嗤えるものではありません。衝動的な武力衝突、戦争の危険も強まっています。
◆権力を私物化した側近政治、大手メディアまで取り込み・利用し、批判者を監視し排除する体制としては、日本の安倍内閣の方が、進んでいます。森友学園・加計獣医学部に、千葉の国際医療短期大学まで、アベノミクスの目玉であった国家戦略特区とは、いまは獄中の韓国・朴槿恵前大統領なみの、友人・支持者たちへの便宜と利益の供与、 巨額の公金私消、まさに「男たちの悪巧み」だったようです。その国民的追及を避ける狙いで、全く審議が不十分な共謀罪法案を、国会ではこれまでにないかたちで強行採決の暴挙、その多数の暴力で、そのまま憲法改正へと、ひた走ろうとしています。ちょうど1960年6月15日に、安倍晋三の祖父岸信介が、今日よりはるかに巨大な国民の抵抗に遭い、国会前で女子学生の生命まで奪いながら、今日の日米ファシスト枢軸の原型となる、改定日米安保条約を強行成立させたように。
◆湯川秀樹以来の伝統を持つ世界平和アピール7人委員会は、日本語と英語で「国会は死にかけている」という緊急アピールを発表しました。 大変な危機感です。「いまや首相も国会議員も官僚も、国会での自身の発言の一言一句が記録されて公の歴史史料になることを歯牙にもかけない。政府も官庁も、都合の悪い資料は公文書であっても平気で破棄し、公開しても多くは黒塗りで、黒を白と言い、有るものを無いと言い、批判や異論を封じ、問題を追及するメディアを恫喝する。こんな民主主義国家がどこにあるだろうか。これでは「共謀罪」法案について国内だけでなく、国連関係者や国際ペンクラブから深刻な懸念が表明されるのも無理はない。そして、それらに対しても政府はヒステリックな反応をするだけである。しかも、国際組織犯罪防止条約の批准に「共謀罪」法が不可欠とする政府の主張は正しくない上に、そもそも同条約はテロ対策とは関係がない。政府は国会で、あえて不正確な説明をして国民を欺いているのである。」
◆同アピール英語版でも、タイトルは「日本の議会制は死に瀕している」<The Parliamentary System of Japan is about to Die>(2017.06.10)で、上の文に続けて<This unfortunate situation of the Government and Majority Parliamentarians has reached a level intolerable to the citizens of Japan. The political system of this Country has now become entirely the private property of Prime Minister Abe. We regret to admit that Japan is in this way a Fascist State. It is nothing but a terrible nightmare for the citizens of Japan that this Government wants to abrogate the present Constitution.> つまり、「政府と政権与党のこの現状は、もはや一般国民が許容できる範囲を超えている。安倍政権によって私物化されたこの国の政治状況はファシズムそのものであり、こんな政権が現行憲法の改変をもくろむのは、国民にとって悪夢以外の何ものでもない」と。現状を、「ファシズム国家」と認めざるをえないとしています。私も、これに近い危機感を持ちます。ただし、これは日本のみならず、世界的に「ファシズムと戦争の時代」に向かっている兆候であり、「ファシズム前夜」、いいかえれば、なお民主主義を求める勢力が、日本でも世界でも、なすべきこと、なしうることが残されている、例えば、韓国のように政権を変えたり、イギリス総選挙のように、奢る嘘つき政権の思惑を挫折させることもできる、と考えています。
◆先日、ある研究会で、パワポ報告の時間が足りず、結論だけを、1枚の写真で掲げました。その結論が、夜の懇親会では、多くの共感と議論を呼びました。「ファシズムの初期症候 / Early Warning Signs of Fascism(日本語訳版)」(ローレンス・W・ブリット起草/米国・ホロコースト博物館展示パネルより)として、ウェブやSNSを通じて、急速に広まっています。その一つ一つが、まるで「安倍内閣そのもののことではないか」と。前回も述べましたが、すでに多くの市民運動が、内閣情報調査室、警備公安警察、防衛省中央情報隊、公安調査庁などのインテリジェンス機関によって監視の対象とされ、一部は表面に現れています。メールやライン、SNS、スマホ、GPS、消費者アンケート、同窓会名簿、各種カードや会員証も、税金や医療・年金の公的個人情報も、エドワード・スノーデンの暴露した「エクスキースコア」が日米で共有されているもとでは、全般的監視社会に向かうデータとされ、世界的なファシズム化に合流します。治安維持法の21世紀風再来、戦争への道です。
◆現在の日本を、日中戦争から太平洋戦争へと向かう戦前のファシズム・監視国家、治安維持法・大政翼賛会・大本営発表の歴史とダブらせる議論は、ウェブ上でも多く見られます。本サイト学術論文データベ ースの常連、神戸の弁護士深草徹さんは、久方ぶりの投稿「ニワトリからアヒルの帝国軍隊−−憲法9条の果たしている役割」(2017.6)で、戦前帝国軍隊においても、自衛のためという名目の軍隊が、いったん海外に出ることで侵略の軍隊に変わっていくメカニズムを見出し、安倍改憲に警鐘を鳴らしています。私の久しぶりの書きおろし『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊・二木秀雄と「政界ジープ」』は、5月25日に花伝社から刊行されました。満州侵略の関東軍731細菌戦部隊の、敗戦後における隠蔽・免責・復権のメカニズムと、731部隊医師・二木秀雄『政界ジープ』対佐和慶太郎『真相』の、戦後10年にわたる時局雑誌の興亡が、目玉です。400頁税込み3780円とやや高価ですが、アマゾンやお近くの書店で、お求めください。早くも『週刊金曜日』17年6月9日号に吉田則昭さんの書評が出ていますが、本サイトの「情報収集センター」に、特別研究室『「飽食した悪魔」の戦後』特集を設けて、ウェブ上での参照を求めた「参考文献一覧」、「731部隊に関与した医師・医学関係者」名簿、『輿論』『政界ジープ』暫定総目次、それに2017年4月9日加藤講演録、刊行後にみつかった誤植・誤記訂正、補足点、書評などを、収録していきます。なお、6月下旬から7月初めはオーストラリア滞在の予定で、次回更新は、7月5日ごろになります。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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