あ、騙された・・・ アルジェリアのパロディ新聞エル・マンシャール(EL MANCHAR )
- 2017年 6月 23日
- 評論・紹介・意見
- パロディ村上良太
インターネット空間には真偽不明かつ玉石混交の情報が日々飛び交っています。昨秋、筆者も思わず騙されそうになりました。その情報とはTVを中心に露出度が高い、フランスの著名な右翼論客、エリック・ゼムール氏が自殺を試みたという記事です。
記事によると、ゼムール氏が自殺を試みた背景には意外な事実をゼムール氏が知ってしまったからで、それは排外主義的言動を行ってきたエリック・ゼムール氏自身の先祖がアルジェリア人だった、というもの。記事には両親が、それを打ち明けると息子の精神に影響すると思い、隠してきたと取材文体で書かれています。そしてこの情報は病院関係者から得た、と書かれています。
こういう文章がゼムール氏の写真入りでインターネット空間に散乱しており、それらはソーシャルメディアにUPされると、英国のガーディアンとか、BBCなどと同様の立派なメディアサイトに見えてしまうのです。
そこで筆者は「こんな記事を見たけど、本当ですか?」とパリ在住のアラブ系のジャーナリストに問い合わせてみました。すると、「これは嘘ですよ。この新聞はパロディ専門メディアです」と教えてくれました。それがこのサイトです。
パロディ専門の媒体、エル・マンシャール(EL MANCHAR) はアルジェリアで作られており、ウィキペディアによれば記者・編集者は全員アルジェリア人で、その中にはフランスにいる記者もいると言います。エリック・ゼムール氏は3年前に「フランスの自殺」という本を書いており、そのパロディ記事はそれにひっかけたもののようです。
パロディ記事ではゼムール氏が自分の出自について懐疑を深め、ウィキペディアで自分のことを調べてみると、そこには先祖がアルジェリア人と書かれていた、という風になっています。筆者も実際、ウィキペディアでゼムール氏について調べてみると、ゼムール氏の父親はアルジェリアのユダヤ人であり、アルジェリア独立戦争の時にパリに移住した、と書かれています。かつて、L’EXPRESS誌の質疑応答コーナーでゼムール氏は自分は移民ではないし、両親はフランス人である、と述べています。ただ、先祖は(北アフリカの先住民である)ベルベル人であり、ゼムールという苗字はフランス語に訳せば「オリビエ」に相当する、と語っています。
ちなみにフランスでは移民であれ、古来からの住民であれ、宗教や出身地の区分で行政が統計を取っていません。ですから、現在フランスにイスラム系住民が何人いるか、ユダヤ系住民が何人いるか、あるいはアルジェリア系移民が何人いるか、というような正確な統計は行政組織にはありません。現在メディアに出ているイスラム系住民が何万人、というような数字は推定でしかないのです。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion6754:170623〕
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