モスル解放を祝う!住民復帰と再建は歴史的大事業 - ISはバグダディの生死にかかわらず衰退していく -
- 2017年 7月 14日
- 評論・紹介・意見
- ISイスラム国坂井定雄
イラク第2の都市モスルが、偏狭・残虐なイスラム過激派「イスラム国(IS)」の支配からついに解放された。着の身着のままの女性たち、子供たち、ひげぼうぼうで、中には銃を掲げている市民たちが歓喜する姿を映像で見ながら、「よく生きていたね」「大変だね」と心から思った。
本欄でも、2014年6月のISによるモスル占領以来、同市の過酷な支配と、シリア国境に近い町シンジャルでの、少数宗教ヤジディ教徒の虐殺、女性の性奴隷化と人身売買について、何回も書いてきた。約200万人の市民が住んでいた、この歴史と文化豊かなイラク第2の都市のIS支配下で、数千人の市民が殺され、約92万人(国連機関統計)が脱出して難民生活を送っている。そして、最後の攻防戦で、市の大半とくにISが多数の住民を人質にしてたてこもった市西部の旧市街は、激しい戦闘と米軍の爆撃でひどく破壊され、がれきの山になった。
2014年6月、ISの指導者バグダディがモスルの歴史あるモスクで宣言した「イスラム・カリフ(首長)国」は、イラクではモスルを失い、支配地域は中北部の石油都市キルクークに近い一部地域とシリア国境に近い町数か所とその周辺だけ。シリアではISの“首都”だったラッカ市はクルド人主体の反IS・反政府のシリア民主軍に包囲され、支配下にあるのは北部・東部の小都市数カ所を含む砂漠地帯。最後の戦場はイラク・シリア国境地域になりそうだが、イラクでも、シリアでもISからの脱走が増えている。脱走するIS兵士たちのうち、チュニジア人らアラブ人は難民の中に潜り込むこともできるが、欧州諸国出身者らは移民出身であってもすぐ見分けられるという。
イラク、シリアでのIS壊滅は遠くないとしても、ISはそれで消滅するのではない。ISは、イスラム教徒が多数を占める国―アフガニスタンやシナイ半島(エジプト)、内戦が続くリビア、イエメンなどで、さらにはフィリピンのイスラム教徒にまで手を伸ばし、「イスラム・カリフ国」の拡大に努めてきた。しかし、現地のイスラム過激派との協調や合体はどこでもあまり進んでいない。イラク、シリアとは事情がさまざまに違うのだ。
イラク、シリアはイスラム教のカリフ制国家の長い歴史を経験してきた。第1次大戦でドイツとともに敗北したカリフ制オスマン・トルコは消滅。その後の英仏支配から両国は独立、やがてどちらも民族主義のバース党が権力を握った。イラクでは少数宗派スンニ派のフセインによる独裁支配がつづいたが、2003年、ブッシュ政権下の米国による「大量破壊兵器」疑惑を掲げたイラク戦争で壊滅。2005年の主権回復に伴う選挙で多数宗派のシーア派主導の政権となり、米軍の治安支援の下、シーア派優遇の政治が始まった。
これに対し、地下に潜行した旧フセイン政権の軍と支配政党バース党の残存勢力が強力な反米武装闘争を継続。一方で故ビンラディンが組織したアルカイダとつながるイラクの反米イスラム過激派組織も武装闘争を継続。米軍の鎮圧作戦の拡大の中で06年、反米イスラム過激派組織が軍・バース党の残党勢力の一部を吸収して、最高指導者バグダディが現ISの前身組織「イラク・イスラム国」を宣言。2011年の「アラブの春」へのアサド政権の弾圧で内戦状態になったシリアに翌12年、侵攻、組織名を「イスラム国」に改称。反政府勢力の弾圧に全力を注ぐアサド政権軍が手薄となった北東部の油田地帯、イラク国境地域を占領した。14年6月にはイラクに逆侵攻してモスルを占領、バグダディをカリフ(首長)とする政教一致の「イスラム・カリフ国」の樹立を宣言したのだ。
このようにイラクとシリアで、ISは生まれ、成長し、支配地域を拡げ、「イスラム・カリフ国」を宣言するまでになったのであり、他の国、地域とはイスラム教徒の人口が多くても、条件が異なっている。ISの定着、拡大は容易ではない。イラク、シリアでの縮小で、ISの本拠地からの支援も縮小している。他の国でも同じ道を歩むだろう。
バグダディがすでに死亡しているとの、情報が多くなった。モスルを占領した直後、同市を象徴するモスクで「カリフ国」設立を世界に向かって宣言したバグダディが、その後、「カリフ」なら当然現れるべき機会にも全く姿を現さず、モスル攻防戦の最後には、ついにISにとって最も重要なはずの歴史的モスクまで、自ら爆破してしまった。いつ死亡したのかは不明だが、後継カリフを名乗れるような宗教的権威を持つ指導者が全くいなくなったことだけは確かだ。ISは衰退していくに違いない。
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