中国人の批判精神は健全である
- 2017年 8月 10日
- 評論・紹介・意見
- 中国阿部治平
――八ヶ岳山麓から(230)――
中国では、近頃次期国務院総理候補だった重慶市の中国共産党書記・孫政才氏が罷免されました。代って重慶市党委書記となった陳敏爾氏、すでにその職に就いた蔡奇・北京市党委書記、応勇・上海市長らはみな習氏の腹心です。
「腐敗問題を解決しなければ党が滅び国が滅ぶ」という名目の権力闘争、習近平総書記への権力集中がまた一歩進んだといえそうです。とりわけ習氏の思想言論統制は厳しく、いささかの批判、異議申立ても許さない。
中国では六月初め、「ネット安全法」を施行してインターネットの規制を強めました。ネット運営者に利用者の個人情報などの提供を義務づけ、当局にはネット上の情報を削除する権限が与えられ、企業秘密などのデータが当局につつぬけとなる恐れもでてきました。それどころではありません。国民にスパイ行為の通報を奨励する「密告制度」も始まりました。
こうしたことは、8月2日の本ブログ田畑光永氏のお説のとおり、習近平氏の不安、緊張、焦燥を表わすものかもしれません。
8月3日のニュースだと、中国のインターネット・騰訊社提供の人工知能(AI)が、ユーザーとの対話で「共産党は無能」「中国の夢は米国への移住」と共産党批判をやって、騰訊社があわててAIのサービスを停止する騒ぎがありました。AIも旺盛な批判精神を学んだものと思われます。
当局の厳重な規制の隙間から、ゲリラ戦もどきにメッセンジャーアプリの「微信」WeChatなどに批判、いやみ、くすぐりが登場します。もちろんあっという間に葬られますが、じつにたまですが、「佳作」がちまたに流れて生き残ることがあります。
以下、そのひとつを要約紹介します。作者不明で、この一文にも「急いでほかの人に送って!」という叫びと「サーバーは法違反の内容に注意」という当局の文言がついていました。( )内は阿部。
「土下座と宦官の復活を強烈に要求する」
作者不明
この頃ある人がネット上で、「人民が役人に出会ったら土下座する」制度の復活を要求した(以下「土下座制度」という)。私個人としては、非常に優れた提案だと思う。
土下座は奴隷根性そのものじゃないかと非難したり、中国の歴史や古典を忘れて、奴隷根性という言葉にケチをつけたがる奴がいるが、どうかしているといわざるを得ない。
昔はもちろん形だけだったかもしれないが「土下座制度」があった。現在だって民衆は、役人をみると自分から頭を下げて身を避ける。そのうえ役人の言葉をことごとく「指示」とか「領導」とかと受止める。つまり現在でも、人は内心では役人にひざまずき頭を地につけているのである。奴隷根性!
だから「土下座制度」が実施されると、ひざまずくという外形と心理的内容とが高度に統一され、天下晴れて土下座ができるのである。そのうえひざまずくのはいささか面目ないと思っている者は、自分への言いわけが得られる。
この制度を受入れられず、自分は公民だとか国の主人公だとかほざくトウヘンボクがいる。こいつらには頭を下げてひざまずくか、さもなくば頭を落されるか、どっちか選べと教育すべきである。
わが中華民族(正確には漢民族)は竜の子孫だ。竜とはそもそも何であるか?それは皇帝であり天子である。もし脳みそのどこかに反骨とか反皇帝とか反天子の考えをもつ奴ががあるとすれば、皇帝は非常にお怒りになる。したがって奴隷根性のない奴は大国賊だ。ひとたび皇帝のお怒りに触れればどうなるかは、いまや全国民が知るところとなっている。これをこいつらにしっかりわからせるべきではなかろうか。
これとは逆に、もし君に奴隷根性があると判断されれば、これはもう表彰ものだ。君はものがわかった人として出世の可能性がある。たとえ出世できなくても、少なくとも御身は安全である。
もうひとつ。中国の男女問題を論じて、どうして宦官制度を復活させないんだと、皮肉っぽくいう人がいた。なるほど!名案だ!
しかし、私は皮肉ではなくまじめに、ただちに宦官制度を復活させるよう強く要求したい。理由は以下のとおり。
第一、竜の子孫ということから申し上げる。竜には人がお仕えする必要がある。だって竜が一人で飯を食ったり、便器を洗ったりはできないんだから(むかし人々は部屋でおまるを使った)。誰が竜にお仕えするか。これには宦官が最適だ。
人は表向きとは違い、いやしい下心というものをもっている。しかし宦官は男でもなければ女でもない、ご主人様あるのみだ。ところがご主人様にはあまたの妻妾がある。美しきこといずれアヤメかカキツバタだから、宦官でなかったら安心できない。たとえご主人様が安心したとしても、私ごときものでも、何かやらかすのではないかと自分が心配になる。だが去勢された人を見よ。実に清潔、安心ではないか。
第二、宦官は我国の国粋的存在である。民族はその才あって初めて世界的存在になり得る。世界各国の歴史を調べても、宦官制度があるのはわが民族だけだ。よその国でも、たまたま人を去勢することはある。だが、制度にはなっていない。
乱臣賊子どもが騒ぎ立てて大清帝国が滅亡に至ったとき、かくも優れた宦官制度も葬り去られた。これぞまさしく中華民族の一大損失といわざるを得ない。
いまや機は熟した!我々がやらねばならぬのはこの国粋的存在を復活させることだ。それだけでなく、声を大にしてこれを世界に提唱し広めることだ。宦官制度を中華料理や漢方医薬同様、国家を代表するものとすることである。
第三、宦官は権力への忠孝両全の代名詞である。テレビに登場する宦官をご覧あれ。ご主人様に対しては従順で、必ず「奴才(ヌーツァイ、やつがれ)」と自称し、なにかといえばひざまずくではないか。諸兄姉よ、子供が父母にこのようにするのを見たことがあるか?
宦官には魏忠賢(明末、国家の実権を握り恐怖政治を敷いた悪辣宦官)のようなワルもいるが、それはごく少数だ。冷静に見れば宦官の主流はやはり善良だし、信頼のおけるものだ。我々が忠孝の精神を追い求める以上は、宦官制度を回復すべきである。
第四、宦官制度は当面する我国男女の性のアンバランスを正常化するに最も適した制度だということである。詳述できない理由で、公式数値では我国男女の性比率は現在大いにバランスを失うに至った。なにしろ結婚適齢男性は女性よりも何千万も多いのだから。
このように多くの男が女房をもてないとなると、これは重大な社会問題だ。売買春がいたるところに生れたのは必然である。女郎買なくして男の楽しみがどこにあろうか。もっとも出世成功した人は数名の女性をひとりじめしているが……。
くりかえすが、現在この問題の一挙両得の解決方法は宦官制度だ。かりに全中国何千万の男が自ら去勢して主体的に宦官になれば、この問題は自ずから解決する。政府が断固この政策を展開すれば、わが宦官制度の優越性を世界に示すことができる。
最後に宦官になろうとする人々にお勧めする。お急ぎあれ。わが国は人が多い。何をやるにも競争が激しい。早ければ早いほどよい。いまや宦官になるための医学上の条件は良好である。手術は簡単で痛くはない。手術してさっぱりしたら女を買う必要がなくなる。万が一うまくいかなくたって、少なくとも去勢の方法を知ることはできるというものだ。(2017・8・3)
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