軍国日本に戻らないように、「平和の道徳的優越性」をあくまで掲げて!
- 2017年 8月 16日
- 時代をみる
- 加藤哲郎戦争
2017.8.15◆久しぶりの日本での8月15日、「終戦記念日」の日付が正しいかどうかは別として、 今日に至る日本の歴史を直視する、絶好の機会です。お盆休みでメディア労働者に休暇を保証するためもあるのでしょうか、テレビでは連日見応えのある戦争と平和の歴史ドキュメンタリー番組があります。書物では十分伝えきれない史実を、映像や音声で説得的に描いて見せます。ワイドショーにはできない、調査報道の強みです。ヒロシマの安田高等女学校生徒の被爆記録が米軍の「治療なき人体実験データ収集」に用いられ、今日でも核戦争時の緊急待避マニュアルの原型として使われていること、長崎の浦上天主堂が広島の「原爆ドーム」のように保存されなかった理由を探る旅、その浦上に被差別部落があって被爆者が二重の差別を受けてきた経緯、そして本サイトも推奨・予告した関東軍731部隊のエリート医師たちの人体実験・細菌戦関与を旧ソ連ハバロフスク裁判の音声資料から生々しく明らかにしたNHKスペシャル。815後も戦闘が続いた樺太地上戦や、無謀なインパール作戦、日本の重慶爆撃に触発された米軍本土空襲の真実など、まだまだ続くようですが、なるほど日本のジャーナリズムも、まだまだ捨てたものではない、と感心しました。特に感動したのは、日本政府が討議に出席さえしなかった国連核兵器禁止条約成立に、civil society代表としてHibakushaの立場を訴え続けたカナダ在住サーロー節子さんのドキュメンタリー、 <明日世界が終わるとしても「核なき世界へ ことばを探す サーロー節子」 > 。you tubeでも、国連本部演説など彼女の「ことば」を見つけることができます。
◆もっとも日本の敗戦記念日は、アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリア、中国、ロシアなど連合国、それに朝鮮・インドネシアなど日本の植民地・占領地域であった国々にとっては、戦勝記念日であり、光復節(解放記念日)です。安倍首相がA級戦犯を合祀する靖国神社に、参拝しないまでも玉串料を奉納したことで、国際ニュースになります。稲田前防衛大臣にいたっては、南スーダンPKO「日報」問題では国会審議から逃げ回っているのに、自民党保守系グループ「伝統と創造の会」と共に参拝しました。 安倍首相は、加害国としての戦争の反省すらなく、世論の力でスケジュールがちょっと遅れた改憲を、目指し続けています。首相の全国戦没者追悼式演説に「不戦の誓い」さえないのは、現実の世界の方が戦争に近づいていて、15年安保法で集団的自衛権行使要件とした「存立危機事態」がありうると、考えているからでしょう。いうまでもなく、北朝鮮金正恩委員長が中長距離弾道ミサイルを米グアム島周辺に発射するかもしれず、人種差別主義者でもあるアメリカ・トランプ大統領の「軍事的解決の準備は万全だ」、マティス国防長官の「米国をミサイル攻撃なら直ちに戦争に発展する恐れ」発言で、緊迫しています。情報戦・心理戦が、いつ軍事戦・武力戦になってもおかしくない、東アジア情勢です。北朝鮮が「グアム島周辺に向け発射する中距離弾道ミサイルが島根、広島、高知各県の上空を通過すると発表」したのを受けて、すでに防衛省は、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を中国・四国地方の陸上自衛隊駐屯地に展開しました。「戦争の好きな」安倍「危機管理内閣」の「ファシズム前夜」が続いているもとで、「Abe is Over」がくるまで、油断はできません。
◆8月15日は、20世紀日本を代表する知識人・丸山眞男の命日です。もっとも丸山は1996年に没しましたから、若い人々には、『日本の思想』さえしらない人が、ほとんどでしょう。最新の世論調査で、NHKが18歳・19歳の若者に聞いたところ、「いま平和だと思う」が74%で、14%は8月15日「終戦の日」を知らず、同じく14%は「日本が核保有してもよい」と答えたといいます。今夏のNHKスペシャル「731部隊 エリート医学者と人体実験」などに対しては、放映直後から猛烈なネトウヨの批判・攻撃が加えられています。もちろん戦争の真実に衝撃を受けた好意的反響の方が多いようですが、私たちの戦争体験の継承、「紛争巻き込まれ拒否意識」を超える非戦平和主義は、まだまだ弱いと思われます。丸山眞男を継承したはずの日本の政治学からも、丸山の「『現実』主義の陥穽」という警告を忘れ、「大日本帝国が人権を極端に抑圧した総動員体制だったのは、1943-45年のせいぜい2年間ほど」という若い政治学者のとんでもない暴論が、テレビの放言ではなく、新聞紙上の活字で出ています。実は、本サイト「ネチズンカレッジ」は、ちょうど20年前の今日、丸山眞男の一周忌を意識して、開学しました。その後も指針としているのは、「戦争は一人、せいぜい少数の人間がボタン一つ押すことで一瞬にし て起せる。平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない。このことにこそ、平和の道徳的優越性がある」という、自らもヒバクシャであった丸山眞男の言葉です。丸山眞男に学んだ半世紀近い政治学研究と、この20年の「ネチズンカレッジ」での発言は、この指針に導かれています。二つの大学での教員生活を終えるにあたって、拙著『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』で関東軍731部隊の戦後の「隠蔽・免責・復権」を論じたのは、何よりも丸山の言う「平和の道徳的優越性」を脅かす国家権力と支配の作用を、解明するためでした。『「飽食した悪魔」の戦後』については、「情報収集センター」に特別研究室を設け、「参考文献一覧」、「731医師・医学関係者」名簿、『政界ジープ』暫定総目次、2017年4月9日加藤講演録、刊行後にみつかった誤植・誤記訂正、補足点、拙著への書評などを、収録しています。アマゾンやお近くの書店で、お求めください。8月26日(土)には、日中戦争80年共同キャンペーン主催で、私の講演会「731部隊・加害者の戦後~隠蔽・復権、政財界での暗躍」が開かれます(18時、文京区民センター2A)。20周年の本「ネチズンカレッジ」は、「平和の道徳的優越性」を、あくまで主張し発信していこうと思います。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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