市場志向計画化論へのスターリン主義者による批判
- 2017年 8月 30日
- スタディルーム
- 岩田昌征
『ロシア革命とソ連の世紀 1 世界戦争から革命へ』所収鈴木「計画化」論文への疑問を前回の小論で提示した。それへの資料的補足を記しておきたい。
ソ連科学アカデミー経済研究所による集団著作『ソヴィエト国民経済1921-25年』(ソ連科学アカデミー出版、モスクワ、1960年)が手元にある。60年安保闘争が終わって、大学3年生になった頃、ナウカ書店で1200円で買った。全13章、557ページの大著である。ストルミリン著『計画戦線にて』よりも整理されて論述されており、55年ぶりにページをめくる。当時7割がた読み上げていた。「前書き」によれば、ネップ前半期の「ソヴィエト経済発展の性格がはじめて多面展開的に論述された」(p.3)書物である。
鈴木論文において主役として登場していたグローマン、コンドラーチェフ、バザーロフは、本書の第2章「ネップ第1段階における国民経済の計画的指導の諸形態と諸方法」(pp.36-75)の何か所かで批判され、弾劾されている。以下に抄訳的・要約的に照会しよう。それに対して、ストルミリンは肯定的に言及されている。
――国の経済生活においてプロレタリア独裁の領導的役割を掘り崩そうとして、ブルジョア・エコノミスト、トロツキスト、右派日和見主義者は、国民経済計画を何人をも義務付けない単なる方向指針に還元しようと努力していた。《客観的》科学の装いで、ブルジョア的計画論者達(グローマン、バザーロフ、コンドラーチェフ、その他)は、まるでソヴィエト的計画経済が過去の発展傾向の調査研究に基づく未来予測でしかありえないかのような方針を展開した。このようにして、計画化は、自然発生的経済発展に基づいて起こり得るだろう事に関する推測に限定された。(p.39)
――ブルジョア的計画化論者は、ソヴィエト経済を資本主義タイプの経済として取り扱う事から、ソヴィエト経済の法則性を資本主義の経済法則と同一視する事から出発した。(pp.39-40)
――社会主義経済の成長率計画の分野では、ブルジョア経済学者は、減衰曲線、すなわち生産成長率の漸次的低下論を擁護した。(p.41)
――結局は《内在的法則性》(市場の自然発生性のこと)が計画に勝る、と。ブルジョア的計画論者は、社会主義建設を失敗の予定された、客観的現実に対する暴力であると評価していた。(p.41)
――ネップ期の最初の数年間、ソヴィエトの経済文献で行われた《論争》において、資本主義復活のイデオローグは、経済計画化における目的論的設定を攻撃して、それが社会発展の客観的法則と両立しないかの如くに語った。彼等は《目的論に対する発生論の優位》を唯一科学的と見なした。発生論とは資本主義の道に従う自然発生的経済発展のことであった。かくしてグローマン派やコンドラーチェフ派の計画《科学》とは社会主義の掘り崩しと過渡期経済における資本主義の強化であった。(pp.41-42)
――彼等は、国民経済の革命前の比例関係がソヴィエト経済の発展にとっても犯すべからざるものであると宣言した。これすなわち、我国は技術的に後進的、農業的のままであるべきであり、社会主義の前進を拒否すべきであると言うことだった。グローマン派やブハーリン派は均衡理論から出発して、計画化を《最小限法則》に従属させるべしとした。すなわち、国民経済における遅れた部分や隘路に整列すること、かくしてまたもや経済の社会主義的再編成に反対する方向性である。(p.43)
――農業を資本主義の道へ向わさせようとする社会主義の敵達との闘争の中で、ソヴィエト権力は、農業の計画的規制を実現して行った。実は、1923-1927年期農業発展プロジェクトにおいて、クラークの回し者――コンドラーチェフ派は、クラーク農場主経営、独立自営農的土地利用、広汎な土地の賃貸借、賃労働の完全自由、クラーク層の課税減、低利の長期信用等を企てていた。(p.69)
いわゆるスターリン主義党が市場志向の計画論を上記のように反社会主義的であるとみなし、弾圧した事は、上記から明白であろう。ここで歴史のイフを語ろう。仮にグローマン、バザーロフ、コンドラーチェフ等が勝利して、彼等の計画化思想が1920年代ソ連共産党指導部の脳神経系を包摂したとしよう。その場合、集権制計画経済は実現しなかったであろうが、ソ連共産党の統治システム自体は相当強固に存続した事であろう。それは、今日の中国共産党支配下の21世紀党資本主義に酷似したものになったのではなかろうか。
平成29年8月27日
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔study884:170830〕
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