クルド人国家独立への住民投票迫る(4) イラク首相、投票中止を公式に要求
- 2017年 9月 22日
- 評論・紹介・意見
- クルド人坂井定雄
イラク・クルド人の国家独立を目指す住民投票が、25日に迫っている。しかし、アバディ・イラク首相は18日、住民投票の中止を公式に要求。住民投票計画を推進してきたバルザーニ・クルド自治区議長(大統領)の決断にすべてがかかる緊迫した最終局面になった。
クルド人自治区とキルクーク県および電子投票に登録済みのドイツなど海外在住のクルド人たちの熱気は、ますます高まっている。一方、米国のトランプ政権は15日声明を発表、これまでの延期要請を強化して、“独立投票は特に挑発的であり、この紛争地域をさらに不安定にするものだ”と非難、中止を要求した。その数時間前に、クルド自治区議会は住民投票の実施を最終的に支持する議決をしている。
バルザーニ議長は連日、首都と地方都市を回り、赤、白、緑三色の地に金色の星が輝くクルド旗で埋まり場外に市民たちがあふれる会場で、25日の投票実施を宣言している。
自治区の第3の都市ザホで14日に開かれた集会での同議長の演説によると、同日、議長は国連事務総長の代理と米国・英国の駐イラク大使ら4か国代表による共同代表団と会談した。会談で共同代表団は、クルド人の自決権を尊重する一方で、イスラム国(IS)との戦いはまだ続き、イラク第2の都市モスルを解放したばかりで、甚大な破壊を受けた同市の再建は難事業であり、膨大な難民がクルド自治区に避難している、こうした事態が山積する現時点でのクルド国家独立投票は延期するよう、同議長に要請した。
これに対し同議長は、クルディスタンのクルド人に対して国家独立の権利を保障することなしに、独立の可否を問う投票の延期だけを求める要請を受け入れることはできない、と、応えたという。
9月25日の投票について、実施計画を崩さない自治政府に対して、イラク政府は、クルド自治区の独立の可否は憲法の規定により、連邦議会(国会)の決定事項であり、それなしの住民投票の結果は全く無意味であるという立場を堅持してきた。本欄でも紹介した通り、8月中旬、首都バグダッドで、政府・与党と自治区代表団が交渉、9月に自治区の首都アルビルで再交渉することになったが、再開していない。このままでは、自治政府はクルド自治区全域と実効支配している世界的な油田地帯のキルクーク、そしてドイツなど海外在住クルド人の独立可否投票を実施し、おそらく大多数の賛成で成立。一方、イラク政府はその結果を憲法違反で無効とすることになる。
イラクでのクルド人国家独立投票については、自国民に相当数のクルド人がいる隣接国のトルコとイラン政府は、自国内のクルド人たちの民族主義運動がさらに高まるのを強く警戒してイラクでの投票そのものに強く反対している。国連、歴史的にイラクと関係が深い米、英、フランスは、クルド人の自決権を認めながらも、独立については住民投票の延期を求めている。
クルド人の国家独立投票を強く支持してエールを送っているのは、スペインからの独立可否の住民投票を1週間後の10月1日に予定している、カタルーニア自治州政府と議会だ。しかし、スペイン政府も住民投票の結果を絶対に受け入れないことを表明している。
25日のクルド独立を問う投票を前に、自治区首都アルビルで15日夕、初めて開かれた若者たちのカラー・フェスティバル。会場を埋めた数千人の参加者の中にはクルド国旗の3色で彩った若い女性たちも。
クルド系通信社Rudauが全世界向けに報道した。
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