日本株式は「買い」 ―ウォール街のリアリズム―
- 2011年 3月 22日
- 評論・紹介・意見
- 半澤健市東日本大震災株価金融市場
《Invest in Japan》
ウォール街の著名な投資週刊誌『バロンズBarron’s』(電子版)は11年3月19日付版のトップに「日本株は買いInvest in Japan」と題する記事を載せた。東日本大震災による株価暴落を絶好の投資機会とみる記事である。万人規模の死者が予想され日本国家が揺らぐような災害を金儲けの材料にする了見に反発する読者は多いと思う。書いている私も気が滅入る。しかしいやなものは見ないで済むというわけにはいかない。以下は記事の紹介である。
大掴みにいって記事の準「楽観論」は次の三つの理由からなる。
①現在の株価水準が低いこと
②好調な企業業績への打撃は限定的なこと
③原発事故が最悪の場合でも日本亡国の危機には至らないこと
《割安な水準にある日本株価》
巨大地震、大津波、メルトダウン近似の原発という三重苦によって急落した日本株は、「破局」時に特有な、「売られすぎ」の水準にある。企業利益と株価の関係を示す株価収益率は13.9倍の低水準にあり、株価は企業の純資産価格を下回っている。因みに中国、米国では純資産価値の2倍まで買われている。
悲劇の直後の投資は感情的に難しさを伴うが、いま日本株へ投資することは、日本国民・日本企業・日本市場を信頼するという意思表示でもあるのだ。神戸淡路大震災時には25%、9・11(同時多発テロ)時には11.6%もそれぞれ下落した。しかしその後急回復している。
1ドル76.25円までの円高は理解し難いが、投機筋の動きと震災対策としての円の「帰国」が終われば相場は円安へ振れるだろう。G7も円売り介入した。円高を望むのは一人日銀だけである。
《実体経済はどうなるか》
実体経済への打撃はどうだろうか。神戸地震の損害は10兆円程度だった。シティバンクは今回も同程度と予想し、英国のバークレイズ証券は7割増とみている。
GDPへの影響はどうか。未確定条件が多く専門家の予想数値は様々である。野村證券は2011年の成長率を震災前の1.6%から1.1%に引き下げた。なかにはマイナス成長を予想する弱気筋もいることはいる。
この数年好調に推移してきた企業業績予測には強気が多い。三菱UFJモルガンスタンレー証券は、地震前に、企業利益の伸びを11年に18.5%、12年には22.4%と予想した。経済通信社ブルムバーグは先週半ばに各16.9%、21.2%と見通している。地震の影響を単純に25%ダウンとしてもかなりの伸び率である。野村證券の岩沢チーフ・ストラテジストは「震災直後の下げは企業収益の20%ダウンを織り込んだと思う。ただし最悪のケースは収益はゼロ成長になろう」といっている。
このほかにお馴染みの財政危機、高齢社会、デフレ、政局がマイナス要因として指摘されている。
《原発事故の影響は》
最大の不透明材料は福島原発破壊の影響である。東京での停電が4月以降まで続く懸念が指摘されている。放射能漏れの最悪ケースとして、記事は「チェルノブイリ型」レベルに達する場合を想定する。それは周辺地区が居住不能になる可能性をもつとする。そして記事は次のように結ばれている。
▼チェルノブイリ型惨事が起こらぬよう我々は祈るだけだ。メルトダウンを回避するために勇敢に放射能汚染と戦う数百人の現場作業員の生命が安全であれと我々は祈るのだ。しかし万一、福島原発で最悪の事態が発生しても、日本人は必ず立ち直るだろう。日本経済も日本の市場もまた。
投資記事だから当然、具体的な業種や銘柄にも言及がある。しかし本記事の目的はアメリカ投資家の見方の紹介だから私は固有名詞を挙げない。暗示的にいえば誰でも知っている国際的な日本企業が株価反転候補とされている。
《グローバリゼーションの現実》
私はこの記事から三つほどのことを感じた。
一つは、楽観的とまではいわぬが、米国投資家は現状を日本の「非常事態」とは見ていないこと。とはいえ彼らのリスク概念は日本人の庶民感覚とは相当の距離がある。ウォール街の主役機関投資家はカネ儲けのために「他人のカネother people’s money」を運用しているのである。日本人の生命財産は最大の関心事ではない。
二つは、企業業績の好調が持続するという予測である。古くは80年代の規制緩和政策、新しくは小泉政権以降の新自由主義政策。これが奏功して国際的大企業の時代が出現したのである。その裏に非正規雇用、所得格差拡大、地方経済の壊滅という犠牲がある。
三つは、これが「グローバリゼーションの現実」だということである。あらゆる社会事象が経済価値に還元され取引される社会。そこに世界のマネーが飛び交う社会。これが戦後65年の間、我々が営々と築いてきた社会の現実である。(11年3月20日記す)
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