権威主義的反動と疑似革命が合流すると…? 歴史はリセットできない!
- 2017年 10月 3日
- 時代をみる
- ファシズム加藤哲郎
◆あっという間に、安倍首相の気まぐれで、解散・総選挙となりました。臨時国会冒頭の、森友・加計問題での国会審議から逃げて権力私物化を強引に認証させる、ヒトラー「我が闘争」ならぬ安倍晋三「我が逃走」です。めまぐるしい政局で、もう過去のこととされがちですが、日本政府が世界に発した直近のメッセージは、9月の国連総会でした。米国トランプ大統領の演説は、北朝鮮金正恩を「ロケットマン」と呼んで国の「完全な破壊」の可能性をほのめかし、イランやキューバ、ベネズエラをも乱暴に非難する、国連の歴史に残るヘイトスピーチでした。世界を驚かせたトランプ演説や、それに対比されたフランス・マクロン大統領の国際協調演説とは違って、安倍首相の演説時は会場に空席が目立ち、世界の関心をひきませんでした。一つには国際社会の中での日本の存在感の凋落をあらわしていますが、今ひとつは、直前に『ニューヨーク・タイムズ』で「北朝鮮とのさらなる対話は行き詰まりの道」と強力な対北朝鮮圧力を主張し、国際社会の大勢に挑戦するトランプの軍事的脅迫を補強するものと、受け止められました。案の定、安倍総会演説は 「必要なのは対話ではない。圧力です」と絶叫するもので、各国代表は耳を傾けず、むしろ、批判的コメントを誘発するものでした。世界が核戦争勃発を危惧しているもとで、安倍首相は戦争推進派、トランプの番犬とみなされたのです。ちょうど同じ国連の場で、核兵器禁止条約の調印が始まり、50を越える国家・地域が署名式に参加し、批准手続きに入りましたが、「被爆国」日本の政府は、姿を見せませんでした。ここでも、核保有大国アメリカの忠犬です。選挙中にも、新たな衝突が起こるかもしれません。
◆北朝鮮とアメリカのチキンレースがエスカレートし、沖縄や米軍基地・原発サイトが戦争の発火点になりかねない情勢のもとで、これを「国難」と称して独裁基盤を再構築するのが、ファシスト安倍晋三の狙いでした。もう一つの狙いは、最大野党民進党の不祥事と不人気に乗じて、森友・加計問題で頓挫しかけた自らの手による憲法改正の狙いを、多少議席を減らしても支持基盤再編で議席上の信任をとりつけ、強行突破することでした。その狙いは、半分挫折し、半分実現しそうです。小池百合子東京都知事率いる「希望の党」の選挙参入、その策略にまんまと乗った民進党の解体、共産党主導の野党共闘の周辺化、自民党議席激減で安倍が退陣したとしても圧倒的多数になる保守改憲派の絶対多数確保、安保法・機密保護法反対派のゲットー化、多少テンポを落としての憲法全面改正、立法府の大政翼賛会化への道です。 本サイトはすでに、「ファシズムの初期症候」はこの国に蔓延していると警告してきました。故山口定教授の名著『ファシズム』での「ファシズム体制」の定義は、①一党独裁とそれを可能にするための「強制的同質化」と呼ばれる画一的で全面的な組織化の強行、②自由主義的諸権利の全面的抑圧と政治警察を中核とするテロの全面的制度化、③「新しい秩序」と「新しい人間」の形成に向けての大衆の「動員」、④軍、官僚機構、財界、教会などの既成の支配層の反動化した部分(権威主義的反動)と、広義の中間的諸階層を基盤とした急進的大衆運動の指導者層やそれに代替する「革新将校」や「革新官僚」(擬似革命)との政治的同盟、と特徴づけています。いま日本は、その方向に向かっているように見えます。
◆この夏は、『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』(花伝社、特設頁参照)で予告した次の書き下ろし、「崎村茂樹」研究のために、久しぶりにドイツ語「ゲッペルス日記」を邦訳「トーマス・マン日記」と対比しつつ読んできましたが、どうやら「我が闘争」も、読み直す必要がありそうです。日本の政治学では、「小泉劇場」以来、「ポピュリズム」という概念で「安倍一強体制」や「トランプ現象」を読み解く仕事が出ていますが、山口定教授の言う④「権威主義的反動と疑似革命の政治的同盟」という観点から、現代日本政治を読む必要を痛感します。これまで安倍内閣の「権威主義的反動」=「上からのファシズム」が、やたら「人づくり革命」「生産性革命」と「革命」を連発するので、日本会議というやや弱い「疑似革命」運動=「下からのファシズム」が受け皿かと考えてきましたが、どうやらもう少し根が深く、「希望の党」という、新自由主義とナショナリズム・排外主義をポピュリズム風に融合させた、「微笑みのファシズム」運動が現れたようです。 ドイツのナチ党が初めて第一党になった1932年7月国会選挙から共産党と二極化した11月選挙を経て、ヒトラー政権成立直後の33年3月選挙他党弾圧から全権掌握の授権法で、ワイマール民主制は崩壊しました。保守・中道政党を含む反対党は消えました。日本にも、二大政党が「挙国一致」を競い合い、投票6日後の2.26事件から軍部独裁に道を拓いた「昭和史の決定的瞬間」1936年総選挙がありました。国民にとっての「国難」は、 「伝統保守」と「改革保守」の競い合いのなかから、「挙国一致」への熱狂的動員が始まることです。政治のリセットと称して、関東大震災時の朝鮮人虐殺を忘れさせるような、歴史のリセットまで進められています。ゲッペルスの手法です。暴力と謀略、差別と脅迫が横行する社会になるのか、第3極が奮闘して「悪夢」で杞憂に終わればいいのですが、暗澹たる想いを禁じ得ません。 10月中旬は、731部隊研究の旧「満州国」旅行で、日本の総選挙・中国共産党大会中の中国滞在になるため、次回更新は、11月1日としておきます。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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〔eye4208:171003〕
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